11-1 詐欺師を撃退せよ【side:アベル】
アベルはすぐさま町に出て、エリサが拠点にしているフリーダの家へ行く。
「ごめんください」
「はいはい、おや、あんたかい。この前も来てくれた……」
「旅人のルーウェンだ。薬師のエリーはいるか?」
ぶっきらぼうだが、普段の領主らしい威厳は控えめにしている。フリーダは怪しむことなく「あぁ、エリーね」と言った。
実は、ここへ足を運ぶのはすでに三度目ほどだ。
エリサが町へ出て行くのを知ってから、町に設置した水晶で見て、フリーダの素性を調べておいたのだった。
フリーダの人柄は申し分なく、アベルとしては気が進まないが彼女にはエリサを預けても問題ないと考えている。
「エリーだけど、今日はもう帰ったんだよ」
「帰った?」
まさかそんな返答がくるとは思わず、アベルは素っ頓狂な声を上げた。
ちなみに、エリサたちはまだ屋敷に戻っている気配はない。
(なんだ? より道してるのか? まさか商人ギルドに行った? もしくはあの詐欺師のところに?)
「こうしちゃいられない」
「はぁ?」
フリーダが不審そうに首をかしげる。それに構わず、アベルはフリーダの家をあとにした。
慌てて町の中心へ向かい、エリサの姿を探す。すると、回復薬を手売りしているエリサの姿を発見した。
声をかけて駆け寄ろうとしたが、すぐに立ち止まる。店の看板に隠れ、様子を窺った。
「それじゃ、これを銀貨一つで。毎度あり!」
エリサは楽しげに客と話し、手を振った。
(随分と威勢のいい挨拶だな……それにしても、とびきり楽しそうな顔をする)
思えば、エリサが妙にワガママぶったり、様子を窺うように自分のスケジュールを聞いてきたりしていた顔は彼女の素ではなかった。それがどうにも腹立たしいやら寂しいやら、複雑な気持ちを抱く。
そうして看板の陰に隠れていると、エリサがこちらを見た。
「あら、あなた」
驚いて挙動不審になり、言葉がとっさに出ない。
「この前の、旅人の、ルーウェンさん?」
「えっ、あ、えーっと……あぁ、そうだ」
悟られないよう、低めの声を出す。
「またお会いできてよかったわ! あれから具合はいかが? 旅人さんは疲労も怪我もつきものですし、さぞ大変でしょうね」
「あぁ、うん。そうなんだ。だから君の薬は、とても良くて」
「ふふっ。やっぱり、シャイな方ですね」
エリサは愉快そうに笑い、品よく口元に手を当てた。
その姿が堪らなくかわいく、今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られる。変装していても隠しきれない令嬢オーラは目に毒だ。
(我慢だ! 我慢しろ、俺!)
「そう言えば、ここ最近、詐欺師がうろついてると言うよ。君も用心してくれ。絶対にうまい話に乗っちゃダメだからな」
「まぁ、心配していただいてありがとうございます。やっぱり詐欺師のことは町でも噂になってるんですねぇ」
エリサはわずかに瞳を曇らせた。
(ん? 彼女もあいつが詐欺師だと分かってるのか?)
「私だって馬鹿じゃありませんから、そううまい話にやすやす騙されるわけがないじゃないですか。今から商人ギルドに登録しようと思いまして。そうすれば、堂々とここで商売もできますし、他の地域にも販路拡大できますし」
「確かに、それはいいことだね。うん、いいことだ!」
「でしょう? ただ、あのベックとかいう詐欺師には、ルーウェンさんも気をつけてくださいね」
そう言うエリサの目に光がない。何かを企むようで、その奥に怒りが滲んでいる。そのことが窺え、アベルは拍子抜けした。
それからエリサは「じゃあ」と言って手を振る。何かおつかいを済ませたのか、イヴリンと合流すると彼女は商人ギルドにも向かわず、路地裏へ入っていった。
「おかしいな……」
アベルは逡巡し、一歩遅れてエリサのあとを追った。彼女は路地裏にある一軒の店に入った。
気配消しの魔法をみずからにかけ、さらに追いかけて店の中を覗く。
すると、そこは小さなパブで、詐欺師ベックとエリサ、イヴリンが店の片隅に向かい合って座っていた。
ベックの横には上等な服を着た商会長風の男がいる。しかしそれはこの町の商会長ではなく、ベックの仲間だと思えた。
「あれが詐欺の現場か……エリサ、あんなこと言っておきながらまんまと騙されてるじゃないか!」
こうしてはいられないアベルはすぐに店の中へ入った。気配を消しているので、誰にもバレずにエリサたちのもとへ向かう。
「では、ここにサインを」
すでに契約の場面に突入している。
アベルはエリサがペンを取る前に、気配消しを解除した。持っていた短剣をベックの首元に当てる。
「おい、詐欺師。今すぐこの契約を止めろ。さもなくば……」
「ルーウェン!?」
エリサが驚き、声を上げる。ベックたちはその場に固まった。
「ちょっ、ルーウェン、待って! あなた、そんなことしたら」
「こいつらは仲間の旅人を騙し、多額の金を巻き上げていったんだ。許せるわけがない。幸いにもこのアンベール領の領主は『青炎の死神』だ。公爵殿に証言を持ち込み、今すぐにでも八つ裂きにできるんだぞ」
すべて証言者の訴えをそのまま諳んじた。
そして、どうにか怒りで魔力が暴走しないよう抑えたつもりだが、エリサの引いた目を見たら我に返った。
(しまった! やりすぎた! そもそも旅人はこんなことはしない!)
無論、公爵もこんなことはしない。
「ありがとうございます、ルーウェン。でもね、公爵様に報告するほどでもないわ」
そう威厳たっぷりに言うエリサだが、どこか後ろめたそうな顔をしている。
「なぜ? 公爵殿に言えば、こんなやつらはあっという間に牢屋へぶち込めるのに」
「それはそうかもだけど、こちらにも都合があってね」
エリサは慌てて言うと、咳払いして姿勢を正した。彼女には何か考えがあるらしい。
アベルは一旦、体勢を戻し、ベックを開放した。ベックと隣の仲間は安堵した。
「まったく、我々は何もやましいことなんてないのに。ねぇ、エリーさん」
「あら、そうかしら? 確かにこのルーウェンが言うように、あなた方はこの町のみならず他の村や町でも詐欺を働いて大金を巻き上げてると聞いたわよ」
「はぁ? なんの証拠が?」
「しらばっくれてもムダよ。あなたたちのやり口は、こっちの利益になるようなうまい商売を持ちかけて、紹介料を多くぶんどる。その紹介料にいろんなオプションをつけてね。被害者たちは届けを出してるし、公爵様への嘆願書だってできてる。どうやら派手にやりすぎたようね」
エリサはひと息に言うと、イヴリンが調べてきたと思しき羊皮紙を見せた。
今ここで騙そうとした相手に正体を暴かれては、詐欺師たちも打つ手がない。
しかも背後にはギラついた目を向ける正体不明の旅人までいる。さらに店にいた被害者らしき屈強な男たちが立ち上がり、一斉に詐欺師たちを睨みつけた。
「すでに場は整っています。あとは公爵様の沙汰次第ですわね」
エリサが浮かべる笑顔は、ゾッとするような恨みがにじみ出ていた。
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