10-1 お忍び公爵夫人、商才あり
二人はまずフリーダの納屋へ向かった。
町を抜けてなだらかな丘を歩き、たどり着くとフリーダとリックが荷車に粉が入った袋を積んでいた。
「こんにちはー」
「あぁ、来たね、エリー。そろそろ出発するけど、準備はいいかい?」
「バッチリ!」
「それじゃあ、行ってらっしゃい。気をつけるんだよ」
「はーい」
リックが荷車をロバに引かせ、その後ろをエリサとイヴリンが押しながらついていく。
そうして今回もお得意様へ粉を売った。そしてどこへ行っても「この前もらった回復薬、とっても良かったわ」「瓶一本で売ってくれないかしら」「うちにもほしい」など声をかけてもらい、エリサの機嫌も上昇した。
「うまくいきすぎて怖いくらいだわ。ふふふふ」
「確かに、奥さ……エリーさんのお薬は素晴らしいですもんね……私も、初めて見たときは感動いたしました」
イヴリンも感心して言う。リックもスキップし、ニコニコと笑顔を見せた。
「ぼくも助けてもらったしね~。エリーの能力はみんなを救うよ!」
「リックまで~ふふふふ、お世辞を言っても何も出ないわよ!」
そう言いつつリックの頭をなでると、彼は嬉しそうに笑った。そうして町でしばらく粉と薬を売っていると、背後から肩を叩かれた。
「もし、お嬢さん」
「はい?」
振り返ると、メガネをかけた上等な服をまとった男が立っていた。手もみし、ニコニコしている。
「お嬢さん、もしかして最近、フリーダの粉と一緒に薬を売ってるエリーさん?」
「そうですが。あなたは?」
「わたくしはこのアンベール領で商人をしております。マンフレート・ベックと申します。エリーさんの回復薬は巷で噂になっておりまして、ぜひともうちに卸していただけないかとお伺いしたく」
「え? まぁ……まぁまぁまぁ! それは願ったり叶ったりですわ!」
エリサは驚き、ベックの手を取った。
「おぉおぉ、では、お引き受けしていただけますか?」
ベックは期待に満ちた目をし、エリサの手を握る。
「ぜひともお願いしたいところです……が、先にやることがございますの」
エリサは言いながら思い出した。
(先に商人ギルドに登録しないとダメだよねぇ……あー、このお誘い、断りたくない! 悩ましい!)
「私、まだ商人ギルドに登録してなくて……今日の売れ行き次第で検討しようと思いまして」
「なんと! それならうちに委託という形にしませんか? それならギルドに登録せずとも商売ができますよ」
ベックはずいっと顔を向けて言った。
「もちろん、納品いただいた回復薬はこちらで責任持って販売し、その売上をそのままエリーさんにお渡しします。いかがです? 悪くないと思いますが」
「売上をそのまま? じゃあ、私は回復薬を生成するだけでいいの?」
「はい!」
ベックは嬉しそうに答える。
エリサは「なるほど」と笑顔のまま返事し、焦らすように思案した。
「前向きに検討いたしましょう」
「ありがとうございます! では」
「一旦、夫に相談してみますわ。ただ、すぐにでもお返事いたします。二時間後にお会いしましょう」
そう言って、エリサはベックの居場所を聞き出し、愛想よく別れた。
「……エリー、なんか今のは」
リックが不安そうに口を開く。その横でイヴリンも冷や汗を浮かべていた。
「エリーさん、委託販売なら旦那様にバレずにお仕事が可能ではないですか? なぜ、旦那様に相談するなんて言ったんですか?」
そう言うイヴリンに、リックが「えっ」と驚き引いた顔をする。
これにエリサは真剣な顔をした。
「あら、イヴリン。あなたは彼らが詐欺師だって分からなかった?」
「えぇっ!?」
「委託販売にもいろいろあるけど、私の回復薬をそのまま販売してその売上を手数料もかからずにそのままこちらの売上になるっていうのはどう考えてもあり得ないのよ。あり得なすぎる。手数料じゃなくて、前金とか紹介料をたんまりぶんどる魂胆でしょう」
「はー、良かった。エリーが騙されやすくなくて」
リックはホッと胸をなでおろした。イヴリンもそれを聞いて感心して安堵する。一方、エリサは悔しげに空を仰いだ。
「それに、こんな話を道端でやるもんじゃないでしょ。商人ギルドに無登録でいいなんて、そんな虫のいい話あるわけないわ!」
(私を世間知らずのお嬢ちゃんだと思って足元見て……! 絶対に許さない!)
考えているとだんだん腹が立ってきた。
ひとまず今日は一旦、フリーダのもとへ戻って先程の出来事を話した。
するとフリーダも「そいつは詐欺だよ! 詐欺!」と憤慨した。
「これだから男ってのは、こっちをバカだと思って見下してんだよ。そんなアホな話、誰が乗るかっていうんだい」
「ほんとよ! まったく、いい気分だったのが台無しよ!」
エリサも一緒になって怒る。フリーダお手製のクッキーをムシャムシャ食べた。
(このままじゃ私の腹の虫がおさまらないわ。あの詐欺師をどうにかして捕まえてやらなきゃ)
しかし、アベルには報告できない。きっとアベルに言えば、町の役人も動き、詐欺師を取り締まることができるだろう。
それがエリサとイヴリン以外の人間からの証言でないといけない。
フリーダに頼むか悩むが、そうなるとアベルにこの裏稼業がどこで漏れるか分からないのでやはりこの案も却下だった。
エリサはしばらく思案した。そして、結局思いついたのは一つだけだった。
「イヴリン、あなたにちょっと大変なお願いをするわね」
「え? なんですか?」
エリサは笑顔のまま、しかし有無を言わせない圧を浮かばせた表情で、イヴリンの肩を掴んだ。
「今から町で聞き込み調査をしてもらえない? 町のことを把握してるあなたを見込んで頼みます。リックにも手伝ってもらって」
「ぼくも? うん、いいよ」
すぐに返事するリックに対し、イヴリンは何かを察知しているようで顔を青ざめさせる。
「あの、エリーさん。それは正義のための、お願いですか?」
「もちろん。これはこの町の安全にも関わる重大なことよ。悪者には正義の鉄槌を下してやらないとね」
その言葉に、イヴリンはごくりと唾をのんだ。目に力がこもり、たくましい顔つきを見せる。
「わかりました。善処いたします」
「頼むわね」
エリサは自分たちだけで、詐欺師を撃退することに決めた。
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