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9-1 嫌われ作戦開始

 かぐや姫作戦を考えるも、何をねだればいいのか検討がつかないエリサは、しばらく平穏な生活を送った。

 というのも、アベルが屋敷にいる間は、やはり騒動を避けるべきだった。

 ウィルフレッドも顔を合わせるたび、笑顔の圧を向けてくる。


 ただ、いつでも外に出られるように、私室のキッチンで回復薬の生産は怠らなかった。

 たまに本を読み、この世界に根付いている薬草を勉強する。


「いつか、ピンポイントな患部にきく治療薬が作れたらいいわねぇ……魔法至上主義の家とか、王都じゃあんまり必要なかったけれど、このノルデン・フェルトは魔法使いがあんまりいないから儲かるはずよ」


 結局、金のことばかり考えていた。


「あ、そうだわ。回復薬の量り売りとか、サイズごとに金額を変えたほうがいいわね。相場はこの町に合わせて、庶民でも手が入りやすい値段にしましょう」


 ポーションは高価なものだ。いくら中身が万能薬だとしても、安価にしてしまうと人々はパッケージと値段だけで怪しいと判断し、購入してもらえない。

 ここは白いパンが一個買えるほどの値段設定にしたほうがちょうど良さそうだ。


「値段はオーケーね。本当は私の商品だってわかるような印がほしいけど……まぁ、これは資金が貯まってから考えましょ。ひとまず、評判を見てから……」


「奥様、何をブツブツ言ってるんですか?」


 いつの間にかイヴリンが部屋に入ってきていた。


「だっ……誰かと思ったらっ! いきなり」

「ノックはしました。ちゃんと誰にも見られぬよう入ってまいりましたので、ご心配なく」

「そ、そう……はぁ、心臓に悪いわ」


 エリサはまだ胸の動悸が止まらず、台に突っ伏した。

 用心深いイヴリンのことなので、問題はないのだが。


「かなり揃いましたね」


 台に並べられた小瓶や鍋を見て、イヴリンが目を丸くする。


「そうなの。でも、アベル様がいらっしゃるから外に出られないし……はぁー、これを早く売って、町の人たちの感想が聞きたいのに」

「そういうおつかいでしたら、私が代わりにいたしましょうか? とにかく奥様はお部屋にいらっしゃっていただければ、それだけで私はとても、とても安心しますので」

「めちゃくちゃ念を押してくる……私だって、あなたを困らせたいわけじゃないけどね」


 そう言って、エリサはイヴリンをジロジロ眺めた。


「え……えっと、奥様?」

「ねぇ、イヴリン。服のサイズ、私と同じよね。だったら」

「なりません!」


 イヴリンがとっさに遮る。すかさずエリサはむくれた。


「まだ最後まで言ってないのに……」

「おそらく、私を身代わりにして、奥様が外へ出るなどと言い出すのでしょう?」


 その言葉に、エリサは舌を出しておどけた。


「バレた?」

「バレバレです。絶対にダメですから!」

「わかってますよぅ……はぁ、それにしても退屈ね。アベル様、またお出かけなさらないかしら」


 そうして一日が過ぎ、翌日も似たような時間を過ごす。

 さすがに何日も町へ下りないとなると、フリーダが心配するだろうと考えたエリサは、イヴリンに偵察を頼んだ。


 その間、エリサは屋敷の中を散策していた。

 ワープできる時空穴がないか調べる。

 しかし、屋敷は広い。拡張された実家よりも広く感じられ、ここにも魔法がかけられているのではないかと思うほどだった。


 こんなに広いので、アベルとうっかり出会うことはないだろう。

 彼はあの自爆大暴露の日から、約束通り監視している様子はない。


 エリサは休憩のため、一階のホールまで降りた。

 すると、掃除担当のメイドたちがパタパタと走り回って仕事しているのが見えてくる。

 エリサの姿を見た彼女たちは、慌ててお辞儀し、その場で立ち止まった。


「あぁ、ごめんなさいね。お仕事の邪魔しちゃって」

「いいえ、とんでもございません」


 二人のメイドは顔を伏せたままだが、なんだか恥ずかしそうにもじもじしている。

 その様子を見るに、エリサに対して恐れを持っているわけではないことがなんとなく悟れる。


 エリサはふと思い当たり、彼女たちに話しかけた。


「ねぇ、あなたたちはお掃除担当なのよね?」

「はい! 私たち、まだ新米ですが、お掃除は精一杯心をこめてさせていただいております!」

「そうなのね。じゃあ、ちょっと頼みがあるのだけど」


 すると、メイド二人は顔を上げてキョトンとした。

 そばかすが目立つあどけない少女と、利発そうな顔立ちの少女。

 彼女たちにコソコソと耳打ちする。


「このお屋敷にある魔法の時空間を調べてほしいの」

「魔法の?」

「時空間?」

「えぇ。一見、普通の壁みたいだけど、その部分だけ空洞になってることがあるわ。ものによっては、虹色のモヤがかかっていたりね。それがあると、非常に危ないの」


 半ば脅すように言うと、少女たちは目をしばたたかせて肩を上げた。


「見つけたら、私が塞ぐようアベル様にお願いするわ。だから、ね。お掃除をしているときに、少し意識して見てみてくれないかしら?」


(私が掃除しながら見つけるのでもいいんだけど、ウィルフレッドに見つかったら厄介だもん。仕方ないから人海戦術でいかせてもらう!)


 エリサは胸に秘めた野望を、穏やかな貴婦人スマイルでごまかした。

 これにメイド二人は、こくこく頷いた。


「見つけたら、メモをして私の部屋の扉の隙間に入れてちょうだいね」

「かしこまりました!」


 こうして、エリサは時空穴の調査問題をクリアした。

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