7-2 薬師としての第一歩
「……時に、アベル様」
アベルがお茶を堪能し、情緒もかなり落ち着いてきたのを見計らい、エリサは素早く訊く。
「アベル様は、こうしてお仕事をされているわけですが、たまに王都へ行かれることもあるのですよね?」
「あぁ、月に一度会議があるんだ。それ以外にも社交界パーティーや他領との会合なんかもある」
「なるほど。その際、私はどうしたらいいのでしょう? やはりついていくのが妥当でしょうか?」
「普通の貴族なら、パーティーくらいなら出席するものだな……エリサは実家ではそのようなパーティーは出たことがないんだったな」
「えぇ、そうなんです。ですから、どう振る舞ったら良いのやら……皆様のご迷惑になったり、アベル様の威厳を損なうようなことになったりしたら心配で」
しおらしくしてみれば、アベルは優しい顔になり、首を横に振った。
「だったら家にいたらいい。君は無理して外に出なくていいんだ。それに俺としてもありがたい。君が世間の目に触れることになれば、気がそぞろになって誰かれかまわず当たり散らし兼ねないし」
「そ、それは困りますわねー」
(なんかヤバいこと言ってるけど彼の独占欲は本物だから、これを逆手に取ってパーティーも夜会もサロンにも出ない! それがいいわ!)
エリサは内心でニヤリとほくそ笑んだ。
貴族社会は貴族との付き合い方があり、それが面倒だったりする。とくにアベルは公爵なので、他の貴族の妻同士で政治的な繋がりを持つことがほとんどだ。
慣れないことをしてボロを出し、足元を掬われては今後の生活に支障が出る。
ただ、出ないという選択肢は多くの貴族にとってはあり得ないことではあるが『青炎の死神』であるアベルと、魔力なしの無名な妻という組み合わせならば、ギリギリまかり通るだろうというのがエリサの見立てだった。
そして普通の判断ができないヤンデレ思考のアベルならば、妻を表に出させるのも嫌だろう。予想は的中した。
(ひとまず、社交場出席の件はクリアね!)
あとはアベルの不在日を明確にするだけである。そんなことを考えていると、アベルがじっとエリサを探るように見た。
「まさか君が社交の場に出たがらないとはね。てっきり外に出たがるのだとばかり」
「あぁ……だって、私は無能ですから。貴族の暮らしも性に合っておりませんし、貴族の友だちもいませんし」
「そうか。ふうん……」
アベルは何やら含むように目を細め、顎をつまんで思案した。
「そうか……夜会くらいは出るかなぁと考えてたが、まぁ仕方ない。エリサが他のやつに取られるくらいならマシ」
なにやら項垂れるが、その真意はわからない。ブツブツ言ったかと思うと、彼は気持ちを切り替えて顔を上げた。
「あ、そうだ。エリサ」
「はい」
「今週末は絶対に家から出ないように」
「え? なぜです? まさか、どなたか招いてパーティーなどなされるんです?」
「はは、そんなことをしても誰も来ないよ」
アベルは自虐的に笑った。エリサは顔をひきつらせるしかできない。
「その日は俺が家にいない。朝から夜まで戻れないんだ。王都へ行くから、何か買い物があれば土産を買ってくるが」
「え! 本当ですか!?」
思わず前のめりになると、アベルは同時に体をのけぞらせた。
やはり一定距離を保っておかないと魔法が暴走するらしい。
エリサは我に返って、すぐソファにつくと欲しい物を考えた。
(こっちへ来る前に、町のみんなには挨拶したし、もしかしたら一生会えないって思ってたけど、アベル様を通じてならまだ繋がりが保てそうね)
「では、王都のメイヤー道具店というお店で、ありったけの瓶を買ってください」
「瓶?」
「はい! ちょうどいいポーション用の瓶があるんです! 私の名前を出せば一発ですわ! それをお願いします!」
勢いよく注文すれば、アベルは圧倒されながらも「わかった」と承諾してくれた。
(アベル様の不在日だけでなく瓶の注文もできちゃうなんて今日はついてる~! 神は私を見放さなかった!)
エリサは心の中で神に手を合わせた。その様子をアベルはじっと探るように見つめていた。
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