6-1 内緒の出会い
屋敷から少し歩き、ノルデン・フェルトの町を目指す。
静かな農村を抜けると町の賑わいが目に入った。
パン屋、肉屋、酒場、宿屋、道具屋などが立ち並び、小さいながら広場もある。渡り鳥が優雅に噴水に降り立ち、猫がのんびり昼寝し、人々は忙しなく行き交っていた。
エリサはキラキラとした目で、子供のようにはしゃいだ。
「最っ高!」
両手を突き上げて解放感に浸る。その後ろでイヴリンはハラハラしていた。
「奥様ぁ、そろそろ帰りましょうよぉ〜」
「大丈夫よ! まだついたばかりなんだから、もう少し見たいわ!」
そう言うや、エリサは通り過ぎていく古道具屋の荷車を見ながらテンションが上がる。
「あ、そうだ! せっかくだから薬瓶とか薬さじがほしいわ。乳鉢もあったら最高ね! あとはハーブや珍しい薬草も売ってないかしら。工芸茶なんかも」
「薬問屋ならこの町には一軒だけですね……そう大きなお店ではないですが」
「ねぇ、ちょっと行ってみましょう!」
「うぅ、はいぃ……」
イヴリンは気乗りしない様子だったが、エリサは興奮が抑えきれなかった。イヴリンの案内で薬問屋へ向かう。
中央の広場からわずかに外れた場所にあり、店もドアでピシャリと閉じられている。
中に入れば陰気な店主がいた。薬棚にいくつかポーションがあったが、どれも品薄だったり高価だったりで瓶には埃がかぶっている。
「いらっしゃい」
陰気な店主が怪しい笑みを浮かべて、タバコをふかす。
その視線がなんだか厭らしかったので、エリサは頬を引きつらせた。
「……あー」
エリサは急激に熱が冷め、早々に店をあとにした。
「ちょっと敷居が高かったかもしれないわね」
「ここはちょっと不気味で、あまり人が近づかないんですよ」
「なるほどね。次行きましょう!」
外でコソコソ言いながら、エリサは道具屋へ向かった。そこには大柄で豪快な店主がおり、エリサたちを見ると愛想よく迎えてくれた。
「お嬢さん方、何をお求めに?」
「回復薬を入れる瓶がほしいのよ。ガラス製がいいわね。どんなものがあるの?」
「ガラス製は高いけど、いいのかい?」
そう言いながら店主はケースに入った瓶を見せてくれた。どれも均一の品質というわけではないが、三角形の瓶におしゃれな細工が施してあり、また色も豊富だったのでエリサは夢中で物色した。
「奥様、そんなに買って、どうなさるんです?」
イヴリンがコソコソと耳打ちしてくる。エリサは五本ほどの瓶を抱えて機嫌よく答えた。
「私ね、ポーション作りが趣味なのよ」
「はぁ、それはまた個性的な趣味ですね」
「まぁね。とくに役に立たないスキルだけど、やっぱり楽しいから」
このロズヴィータ国の貴族や魔法使いは基本、魔法で回復することができるので一般の魔法使いではない人々くらいしか回復薬を使うことがない。それゆえにエリサは実家で無能扱いされていたのだった。
しかし、緊急性が高かったり、回復魔法で追いつかない場合の怪我や病にはやはり回復薬が効果的だ。
イヴリンは昨夜の出来事を思い出したのか「なるほど」と感心する。
「少しの工夫で体にいいものや、リラックス効果のあるお茶や甘味も作れちゃうのよ」
「それは素晴らしいですね!」
「でしょう? だから、屋敷を出られないならそれをやって楽しもうかなって」
エリサは言いながら表情を曇らせた。本当は自由にのんびり町に出ては、誰かのために働くほうがいい。
生前は薬学に興味を持ち、薬剤師として過ごしていた。
仕事は楽しいこともあったが、ほとんど義務感で働いていたこともあり、だんだん無機質になっていたように思う。
(前世ではクレーマーの処理が面倒だったな……でも、こっちの世界では薬は高価だし、ないと命にかかわるし、みんなの役に立ってる感じがあるもんね)
それからしばらく瓶を吟味し、陶器でできた乳鉢と乳棒のセット、薬草を入れる小物入れや籠などを購入し、大荷物を抱えて店を出た。
「あー、いい気分転換になったわぁ」
「それはようございました……さぁ奥様、帰りましょう」
「そうねぇ。でもまだ薬草とかハーブとか見てない」
そんなことを言ってると、何か小さいものがぶつかった。
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