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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第81話 心臓停止

 喉の扉より、さらに厚い扉だった。

 厚いのに、そこから漏れる白は冷たいだけで、眩しくない。


 眩しくない白ほど怖い。

 眩しさは目を焼くだけだ。

 冷たさは、呼吸を奪う。


 ショウマは線を見た。

 扉の向こうにあるのは、ただの強い結界じゃない。

 “配る意味”の中心だ。


 白はここで集められ、ここで配られ、ここで正義の形になる。

 止めれば全域が揺れる。

 揺れは不安になる。不安は祈りを呼ぶ。祈りは白を太くする。

 だからこそ、止める。


「止めます」

 ミラが短く言った。

「騒乱は起こさない。民は巻き込まない。……今夜、止める」


 レアが息を整える。

 グルドが指を組む。

 エヴェリナが糸を指先で感じ取る。

 誰も余計な言葉を言わない。ここは言葉が漏れる場所だ。漏れた言葉は記録になる。


 ショウマは結界を薄く重ねた。

 狭まりを一本に寄せる準備。

 そして、配る意味を殺す準備。


「開ける」

 レアが扉に触れた。


 音を殺す。擦れを殺す。

 扉が動く――その瞬間。


 白が、面になって襲ってきた。


 喉の封鎖輪は“輪”だった。

 ここは違う。

 点が輪になって狭まる前に、空間そのものが白く硬化する。

 床も壁も天井も、同時に“正しい形”へ締まる。


 息が浅くなる。

 肺が狭まるのではない。

 世界が、呼吸を許さなくなる。


(別格……)


 ショウマの線に、節が見える。

 面に見えても、節はある。

 節を潰せば硬化は遅れる。遅れれば通れる縁が生まれる。


 そして――人がいる。


 心臓区画の周囲に、祈祷役が立っていた。

 白い法衣。動かない足。閉じた目。

 彼らは兵ではない。だが工程の一部だ。

 ここで騒げば、彼らの祈りが乱れ、乱れは異常として記録される。

 異常は上へ上がり、器が前へ出される。


 巻き込めない。

 だから、見えない。気づかせない。動線を塞がない。


 レアが影の端を縫う。

 祈祷役の視線の外側。

 導体溝の外側。

 白の硬化が届きにくい縁を、身体ひとつ分だけ作る。


 グルドの偽装が走った。

 送達は止めない。止めれば異常が確定する。

 だが、宛先をずらす。

 “正しい処理”に落ちないズレを作る。

 現場の目が一点に固定されないよう、視線を散らす。


 エヴェリナの糸が落ちた。

 点へ。節へ。

 面の硬化の起点になる返事を鈍らせ、返事が戻る前に連結を薄く殺す。

 硬化は一拍遅れる。

 一拍遅れた分だけ、縁が生きる。


 ショウマは局所化を滑らせた。

 面で締め付ける力を一本に寄せる。

 一本に寄せた先に、空振りの壁を用意する。

 硬化はそこで行き場を失い、また一拍遅れる。


(通れる)


 冷たい白が押してくる。

 だが噛みきれない。

 噛みきれない圧は、ただの圧だ。

 圧は怖いが、死ではない。


 心臓区画の中心が見えた。


 柱――いや、柱では足りない。

 白い脈が束になり、導体溝が集中し、刻印が絡み合う“核”。

 そこに、冷たい拍動が宿っている。


 音ではない。

 足元から来る。

 骨に来る。

 世界が一拍ごとに、白く呼吸している。


(ここが……配る意味)


 配る意味を殺す。

 流れを止めるのではない。止めれば反発が大きい。

 届いているのに、意味が届かない。

 動いているのに、機能しない。


 ショウマは結界を操作した。

 結界で覆うのではない。

 “意味”だけを削る。


 因果の線が、柱から伸びて各所へ行く。

 祈りの回路。聖油の導体。短杭の面。

 それらは配るための血管だ。


 血管を切らない。

 血管の中身の“意味”を薄くする。


 結界が柱に触れた瞬間、白い拍動が一段強く跳ねた。

 跳ねた白が面になって押し返す。

 息が詰まる。喉が鳴る。


 ミラの声が落ちた。

「続けて」


 ショウマは歯を食いしばり、結界を深く滑らせた。

 配る意味を殺す。

 配る意味を殺す。

 配る意味を――


 拍動が、一拍。


 途切れた。


 白が止まった、というより、白が“配れなくなった”。

 駆動音が一瞬だけ落ち、心臓区画の空気が薄く揺れる。


 遠くで、鐘が鳴った気がした。

 実際の鐘じゃない。

 祈りの揺れが、世界のどこかで音になる感覚。


 祈祷役の肩が、ほんの僅かに揺れた。

 揺れは小さい。だがここでは小さな揺れが致命になる。


「来ます」

 レアが息で言った。

 来る。封鎖だけではない。手順の切り替えが来る。


 ショウマの線に、太い流れが立った。


 心臓から配れない白が、別の出口を探し始める。

 出口は一つだ。

 全域統制で一点に寄せた白の“受け皿”。


 器。


(……逃げる)


 白が、心臓から器へ流れる。

 地下から地上へ。

 導線が一本に寄る。

 太い流れが、拍動を“別の場所”へ移す。


 坂上マサト。

 広告塔の鎧。

 白を一点に集める中心。


 心臓が止まった一拍の反動で、器が光る未来線が刺さった。

 刺さった瞬間、胸の奥が冷える。


 止めた分だけ、返ってくる。

 返ってくる先が器だ。

 器が受ければ、心臓は再び拍動する。


 ミラの目が鋭くなる。

「……逃がした」


 グルドが低く言った。

「バイパスだ。全域統制が、緊急の逃げ道になっている」


 エヴェリナが穏やかに、しかし圧を含んだ声で言う。

「心臓を揺らした瞬間に、白が別の形で整います。……器が受け皿になります」


 白い硬化が、また強くなる。

 一拍止まった分だけ、次の拍動が太い。

 太い拍動は、押し返しも太い。

 喉とは違う。ここは中心だ。中心の反発は重い。


 ショウマは結界を引き剥がすように戻した。

 ここで粘れば、祈祷役が乱れる。乱れれば騒乱になる。騒乱になれば軍規が折れる。

 折れれば、こちらが害になる。


 ミラが短く命じた。

「撤退」


 言葉は短い。

 短いほど、判断は冷たい。

 冷たい判断は、民を守る。


 レアが縁を作る。

 エヴェリナが点と節を潰し続ける。

 ショウマが局所化で面の硬化を一本に寄せ、空振りさせる。

 喉へ戻る道は、さっきより狭い。だが輪は育たない。育てさせない。


 扉を抜ける直前、ショウマはもう一度だけ心臓を見た。

 拍動は戻り始めていた。

 戻るのは心臓そのものではない。

 器へ逃げた白が、心臓の役割を支え直している。


(次は……器の役割を殺さないと止まらない)


 線がそう告げる。

 心臓を止めても、器へ逃げる。

 器を生かしたままでは、白は止まらない。


 喉を抜け、前室を抜け、第二の縫い目へ向かう途中。

 遠くの地上で、白が一瞬だけ眩くなった気がした。


 広告塔が、光った。

 器が前へ出される。

 その未来線が、冷たく伸びてくる。


 白は止まった。

 ――だが次の瞬間、器へ逃げて、再び拍動を始めた。

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