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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第80話 封鎖輪の喉

 扉の隙間から漏れる白は、冷たい。


 眩しくない。燃えない。

 ただ、呼吸の幅を狭める冷たさだ。

 吸えば吸うほど、肺の中が白く締まっていく。


 ショウマは線を見た。

 扉の向こうは、心臓ではない。

 心臓へ至る最後の絞り――喉だ。


 導体が集まり、刻印が束になり、祈りの循環が一気に細くなる場所。

 ここが詰まれば、どれほど力があっても届かない。

 届かなければ、止められない。


「通す」

 ミラの声は小さい。小さいのに揺れない。

「止めるのは次。今は喉を抜けます」


 レアが頷く。

 グルドが指を組む。

 エヴェリナが静かに糸を用意する。

 ドルガの渋滞は、外で育っている。今夜はすでに始まっている。


 ショウマは結界を薄く重ねた。

 扉の反応を一点に固定する準備。

 揺れが広がれば事件だ。事件になれば、地上が動く。

 地上が動けば、民が巻き込まれる。

 それは軍規を折る。


「開ける」

 レアが息で言い、扉に手をかけた。

 音を殺す。擦れを殺す。

 ゆっくり、ゆっくり――


 開いた瞬間、白が噛みついた。


 床の導体溝が一斉に光り、壁の刻印が同時に返事をした。

 これまでのような「芽」じゃない。

 ほとんど完成形の輪が、一気に形を取る。


 狭まりが速い。

 空間が狭まるのではない。逃げ道が狭まる。

 縁が死ぬ。


(早い……太い)


 全域統制で白が一点に寄った。

 その太さが、封鎖輪の立ち上がりを速くしている。

 喉は絞りだ。絞りは圧が高い。圧が高ければ、輪はすぐ噛む。


 だが――鍵がある。


 ショウマの線には、輪の“節”が見えていた。

 連結点。返事が集まり、輪を輪にする場所。

 そこを潰せば、輪は育ちきれない。


 視界の端で、人影が動いた。


 喉の区画には、作業員がいる。

 祈祷班。整備班。導体の点検。封緘の更新。聖油の微調整。

 彼らは鎧ではない。剣を持たない。

 ただ、工程の一部としてここにいる。


 巻き込めない。

 倒してはいけない。

 騒がせてもいけない。騒げば記録される。記録は封鎖を呼ぶ。


 レアが息を殺し、作業員の動線の“隙間”へ滑り込む。

 影に沈まない。影の端だけを渡る。

 視線の外側。足音の外側。

 作業員の背中の間を、風のように抜けていく。


 白い輪郭が狭まる。

 狭まりが一拍で首を締めに来る。


「エヴェリナ」

「はい」


 糸が落ちた。点へ。

 返事の意味を鈍らせる。

 輪の芽が弱る――だが弱るだけでは足りない。

 喉の輪は戻りが速い。戻った瞬間に噛む。


 二つ目の糸が落ちる。

 返事が戻る前に、次の返事先――節を薄く殺す。

 連結が途切れ、輪が歪む。


 歪んだ輪は狭まれない。

 狭まれない封鎖は、圧だけ残して噛みきれない。


 ショウマは同時に結界を滑らせた。

 狭まりの方向を一本に寄せる。局所化。

 一本に寄せた先に、空振りの壁を用意する。

 輪が狭まろうとする力は、その壁へ突っ込み、一拍遅れる。


(今だ)


 ミラが動く。

 指揮官の動きは速い。速いのに音がしない。

 前へ。喉の中心へ。

 作業員の間を、道具の影を踏まないように、導体の溝を跨がないように、縁だけで抜ける。


 グルドの偽装が走った。

 札の通りが、紙の上でずれる感覚。

 送達は止めない。止めれば異常が確定する。

 ただ、落ちる先を狂わせる。

 正しい処理班に落ちない札は、現場を苛立たせる。


 苛立ちは声になりかけて、飲み込まれる。

 喉の区画では声を上げられない。上げれば祈りが乱れる。乱れは“異常”だ。

 異常は上へ上がり、器が前へ出る。

 上はそれを嫌う。だから現場は耐える。


 耐えるほど、動きは硬直する。

 硬直した動きは、隙間を作る。

 隙間は、こちらの縁になる。


 ドルガの渋滞が、ここにも波及していた。

 確認札の往復が増え、喉の区画にも“確認の確認”が届く。

 作業員が帳面を抱えて立ち止まる。

 立ち止まった背中が壁になる。

 その壁の外側を、レアが縫う。


 白い輪が、もう一度噛みに来た。

 喉の輪はしつこい。

 しつこいのは、守りが本気ということだ。


(噛ませない)


 エヴェリナの糸が点へ落ち、節へ落ちる。

 ショウマの局所化が狭まりの方向を一本へ寄せる。

 一本に寄せた狭まりが空振りの壁へ突っ込む。

 輪が育つ前に歪み、狭まりきれない。


 起動しているのに、閉じ込められない。

 それが骨抜きの感触だ。

 理屈じゃなく、喉の圧で体が理解する。


 喉を抜けた瞬間、空気の質が変わった。

 硬いのに、静か。

 静かすぎる静かさ。

 祈りの駆動音が、さらに一定になり、低く深くなる。


 前方に、もう一つの扉があった。

 前室の扉より厚い。

 喉の扉より“重い”。


 扉の向こうから、白い拍動がはっきり聞こえる。

 音ではない。床が揺れる感覚。

 配線が脈打つ感覚。

 世界が、白く呼吸している感覚。


「……ここから先は」

 レアが息で言った。


 ミラが、短く答える。

「止めます」


 ショウマは線を見た。

 喉の輪はまだ起動している。

 だが、喉は抜けた。狭まりは噛みきれなかった。


 次は、心臓だ。

 拍動の中心だ。

 ここで止めなければ、白はさらに太くなり、器はさらに前へ出される。


 扉の向こうで、白い拍動が一段強くなった。

 待っている。

 喉とは違う“別格”の封鎖が、待っている。


 白い拍動が、壁ではなく――足元から迫ってきた。

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