表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/87

第79話 骨抜き起動

 聖都の白が、太い。


 遠見の線でそれを見た瞬間、ショウマは息を止めた。

 導線が一本に寄り、地下へ落ちる流れが太い。拍動も太い。太いほど、押し返しも強い――はずなのに。


(太いほど、切り口が見える)


 白が散っていた時は、狙いが散った。

 今は一点に集まっている。

 集められた白は、強い。

 強いが、形が単純だ。


 ミラ=ザス・マギアが、作戦室で札を揃えた。

 揃える動きは祈りみたいに正確で、やっていることは戦争だった。


「軍規」

 ミラが短く言う。


 全員が息を整える。

 軍規は飾りじゃない。迷いを切る刃だ。


「騒乱を起こさない。民間と作業員を巻き込まない。意味のない殺傷はしない」

 ミラの視線が一人ずつを通る。

「戻るために行くのではありません。止めるために行きます」


 ショウマは頷いた。

 止める。

 その言葉に、机の上の“札の骨”が重く見える。


 レアが導線を復唱する。

「第二の縫い目から入ります。搬入路、前室、結節点、奥の扉。撤退導線は第二縫い目固定。……捨て窓はもう使いません」


 グルドが指を組み、乾いた声で言う。

「宛先狂わせの儀式は組んだ。止めない。止めた瞬間に異常が確定する。……だから“正しい処理”に落ちないよう、ずらす」


 エヴェリナが穏やかに頷く。

「糸は点へ落とします。面は育てません。輪の芽と節を、順に潰します」


 ドルガが肩を回した。

「外は任せろ。正規渋滞を本番仕様にする。壊さねぇ、怪我も出さねぇ。……でも現場の手は吸う」


 ミラが最後に言い切る。

「――骨抜き、起動」


 夜。

 外縁の空気は、前より硬い。白は眩しくない。冷たい白が、街の輪郭を固めている。


 ドルガの仕込みは、派手ではない。

 だが“正しく”大きい。


 巡礼具の検品が重なる。

 確認札の往復が増える。

 確認の確認が生まれる。

 正しい順序が正しい順序を塞ぐ。


「先に確認だ!」

「いや、こっちが先だ!」

「順が違う!」


 怒鳴り声は事故の怒鳴り声ではない。

 正しさが正しさを邪魔している声だ。


 白い鎧の聖騎士が、列を整理しようとして――整理のためにさらに列を作る。

 列が列を産む。

 札が札を産む。

 人が人を呼ぶ。


 現場は、自分で詰まる。


(吸え)


 ショウマは線で、外縁の視線が渋滞へ寄っていくのを確認した。

 封鎖班の手も、確認担当も、そこへ吸われる。

 吸われた分だけ、第二の縫い目の周辺が薄くなる。


「今だ」

 ショウマが言うと、レアが頷いた。


 白い輪郭の外側へ。

 水路の裏。封緘資材の搬入の匂い。

 清潔の裏の湿り。

 そこに、第二の縫い目が口を開けている。


 レアが空気を撫で、短杭点の返事を読む。

 返事はある。だが揃いすぎていない。

 揃いすぎていないのは、まだ息ができる証拠だ。


 エヴェリナの糸が点へ落ちる。

 揺れは小さくなる。

 事件ではなく局所トラブルに押し込める。


 石蓋が開く。

 地下の匂い。湿り、石、封蝋の残り香。

 梯子を降りる。


 降りた瞬間、空気の硬さが刺さった。

 倉庫群の縫い目ほどではない。だが油断できない硬さだ。

 封鎖輪の芽が、早くなっている。


 搬入路は狭い。

 布包みが通り、瓶が通り、封緘具が通る。

 作業員の目は前だけを見ている。祈っていない。

 祈りは溝と刻印が代わりに回している。


 曲がり角を越えるたび、駆動音が濃くなる。

 一定の低い音。

 祈りが“機械”になっている音。


 グルドの偽装が走った。

 紙の上で宛先がずれる感覚。

 封鎖札は飛ぶ。だが正しい処理班に落ちない。

 落ちない札は現場を苛立たせる。

 苛立ちは手順を増やす。

 増えた手順は、また詰まる。


 前室の扉が見えた。

 厚い扉。手順が厚い扉。


 レアが巡回の一拍を読む。

 一拍。

 その一拍が窓だ。


 ショウマが結界を滑らせ、扉の反応を一点に固定する。

 揺れが広がれば事件。揺れが一点なら局所トラブル。

 局所トラブルなら処理に落ちる。

 処理に落ちれば、時間ができる。


 扉が開く。


 前室の白は冷たい。

 匂いが薄いのに重い。

 ラックに並ぶ箱、同じ結び方の布、同じ印の封蝋。

 分類札が冷たくぶら下がる。


『器材』

『素材』

『封緘待ち』

『冷却』

『適合』


 胸の奥が冷える。

 だが目は逸らさない。逸らせば呼吸が乱れる。乱れは記録される。

 記録は封鎖に変わる。


 奥へ。

 前室の奥へ近づくほど、床の導体溝が白く脈打つ。

 輪の芽だ。


「来る」

 レアが息で言った。


 白い筋が輪を描こうとする。

 輪が育てば狭まる。狭まれば逃げ道が死ぬ。

 起動は避けられない。

 だから、育てさせない。


「エヴェリナ」

「はい」


 糸が落ちる。点へ。

 返事を鈍らせる。輪の芽が弱る。

 だが弱るだけでは戻る。戻れば輪が育つ。


 二つ目の糸が落ちた。

 返事が戻る前に、次の返事先――連結点を薄く殺す。

 輪は輪になりきれず、歪む。


 歪んだ輪は狭まれない。

 狭まれない封鎖は、ただの圧だ。


 ショウマは結界を重ね、狭まりの方向を一本に寄せた。

 一本に寄せた先に、空振りの壁を用意する。

 封鎖はそこへ突っ込み、一拍遅れる。


(効く)


 理屈ではない。

 結果として、輪が育たない。

 鍵を奪った意味が、身体に落ちた。


 ミラが短く言う。

「前へ」


 前室奥の厚い扉――拍動の中心へ繋がる扉が、目の前に迫る。

 扉の向こうで、白い脈が打っている。

 昨日より太い。

 太いほど、圧が強い。

 太いほど、狙いは単純だ。


 扉の縁が、僅かに鳴った。

 自動封鎖が“待っている”気配。

 起動条件の札が、向こうで準備されている気配。


 ミラが、迷いなく命じた。

「次で止めます」


 ショウマは線を見た。

 この扉の向こうに、心臓がある。

 配る意味を作る場所がある。

 そして、止め切れる線が――確かに伸びている。


 扉の隙間から、冷たい白が漏れた。

 白い拍動が、近い。


 扉の向こうで――それが待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ