表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/68

第59話 爆弾の置き場

 捕虜区画は、魔王城の中でも空気が悪い。

 湿っているとか臭いとかじゃない。“息の置き場”が無い。


 扉の前に立つ衛兵が、俺を見るなり背筋を伸ばした。

 敬意じゃない。警戒だ。


「……暴れませんか」

 小声で訊かれる。ここでは、その問いが現実だ。


「暴れたら止める。殺さずに」

 俺が答えると、衛兵はわずかに肩を落とした。安心ではない。覚悟の形が変わっただけ。


 中にいるのは、高城ユウキ。

 “勇者”枠の二番手。光過剰で森を焼いた、火力の塊。

 今は鎖と結界の中にいる。


 ユウキは壁にもたれていた。

 身体はやつれている。光の反動が、皮膚の内側に焦げ跡みたいな痛みを残しているのだろう。呼吸は浅く、肩が時々跳ねる。


 それでも目は死んでいなかった。

 鋭い。尖っている。

 刃物みたいに“疑う”目だ。


 ――こいつは爆弾だ。

 爆弾は、置き場を間違えると味方が吹き飛ぶ。


 その置き場を決めるために、会議が開かれた。


 魔王城の会議室。

 ミラ=ザス・マギアが正面に座り、レア、ドルガ、グルド、エヴェリナが左右に並ぶ。

 俺――影山ショウマは、机の端で線を見る癖のまま座った。


「捕虜、高城ユウキの処遇を決めます」

 ミラの声は硬い。統治者の硬さだ。


 ドルガが最初に口を開いた。

「危ねぇ。正直、殺しとくのが一番安全だ」

 言い切るあたりが、前線の武人らしい。

「暴れたら城が燃える。俺の部下が死ぬ。民も巻き込む。……それが“やらない悪”に反するのは分かってるが、現実は現実だ」


 レアは反射で噛みつかない。最近の彼女は、役割で抑えている。

「安全保障としての意見は理解します。ですが、軍規は……」


「軍規で腹は膨れねぇ」

 ドルガが唸る。


 グルドが咳払いを一つ。

「利用価値は高い。教会の運用、外殻の現場、勇者枠の内部事情。聞き出せる情報は多い」

 老魔導師の声は淡々として、冷たい。

「交渉札にもなる。返すなら、返すで利がある」


「……返す、ですか」

 ミラの目が細くなる。

 返せば教会が得をする。返さなければ、教会内部の不信が育つ。どちらも“窓”になる。


 エヴェリナが穏やかに言った。

「利用、という言葉は慎重に。彼は道具ではありません。ただ……危険な蜂です。巣の外に置くにも、巣の中に戻すにも、刺されます」


 全員の視線が、俺に集まった。

 線を引く役は、いつも最後だ。


「殺さない」

 俺は言った。声は低く、短く。


 ドルガが眉を上げる。

「……使うのか?」


「使い潰さない」

 俺は続けた。

「教会みたいに、人を資材にするな。捕虜を札にして消費するな。――返すかどうかは保留だ」


 グルドが微かに笑った。

「綺麗ごとではないな。線引きだ」


「線引きが無いと、俺たちは教会と同じになる」

 俺の言葉に、ミラが頷いた。

「……軍規を守ります。殺さない。無意味に使わない。監視は強化する。情報は、取れる範囲で取る。……尋問はしない」


 ドルガが渋い顔をする。

「爆弾を抱えることになるぞ」

「抱えない。置く」

 俺が言う。

「置き方を間違えなければ、爆発はこっちの都合で起こせる」


 それは脅しじゃない。戦略だ。

 会議は、その結論で一旦終わった。


 ――そして俺は、爆弾の部屋へ戻った。


 扉を開けると、ユウキが目だけで俺を刺した。

 口元は笑っていない。笑えない。だが負けた顔もしたくない。


「……誰だよ」

 声が掠れている。

「魔王軍の幹部? それとも――」


「影山ショウマ」

 俺は名乗った。

 その瞬間、ユウキの目が一瞬だけ揺れた。

 知っている名前じゃない。だが“異物”として引っかかった反応。


「聞いたことねぇ」

 ユウキは吐き捨てる。

「……殺すなら早く殺せ」


「殺さない」

 俺は即答した。


「じゃあ、利用するのか」

 ユウキの言い方は、どこか慣れている。

 利用される前提で生きてきた声だ。


「使わない。使い潰さない」

 俺は同じ言葉を繰り返した。

「お前は道具じゃない。爆弾でもない。……捕虜だ」


 ユウキが鼻で笑う。

「優しさごっこか?」


「軍規だ」

 俺は言った。

「やらない悪。無差別殺害はしない。捕虜を意味なく殺さない。民を巻き込まない」


 ユウキは黙った。

 黙ったまま、鎖の擦れる音だけが響く。


「……お前、魔族のくせに」

 小さく吐き出す。

「そんな綺麗な言葉、吐くんだな」


「綺麗じゃない。面倒で、遠回りで、腹が立つだけだ」

 俺は椅子に座らず、立ったまま言う。

「でも、それをやるって決めた。教会と同じにならないために」


 ユウキの目がまた刺さる。

「教会、教会って……お前、教会に何されたんだよ」


 俺は答えない。

 答えれば、話が別の方向へ流れる。

 今ここで欲しいのは、感情の共有じゃない。反応だ。


「教会の前線は割れ始めてる」

 俺は事実を投げた。

「物流が詰まって、現場が揉めて、上が『言い訳を許すな』って札を投げてきた。……そして、お前の名前が出た」


 ユウキの眉が動く。

 ほんの僅かだが、それだけで十分だ。


「……俺の?」

「『高城殿がいれば』って現場が言った」

 俺は淡々と続ける。

「その次に、『所在不明の者を当てにするな』『器は一人で足りる』って言葉が落ちた」


 ユウキの口が歪んだ。

 怒りではない。もっと冷たい、理解に近い歪み。


「……いない扱いかよ」

 吐き捨てるみたいに言う。

「二番手なんて、そんなもんか」


 俺は一拍置く。

 そして、さらに事実を投げる。


「外殻が前線に来た。坂上マサトが器として立たされてる」

 その名前で、ユウキの目が一段鋭くなる。

 嫉妬か。焦りか。罪悪感か。

 全部混ざって、刃になる。


「……マサトが?」

 声が僅かに上ずる。

「……あいつ、戦ってんのか」


「戦ってるように見えるだけだ」

 俺は言った。

「立ってる。立たされてる。立ってるだけで白が成立する」


 ユウキは口を開きかけて、閉じた。

 飲み込んだ言葉が、喉で擦れる音が聞こえた気がした。


「……セルベルトが、決めたんだろ」

 ユウキがぽつりと言う。

「上の連中は、そういうの得意だ。正義だの奇跡だの言って……人を使う」


 ――出た。

 セルベルト。

 俺は顔に出さず、頷くだけにする。


「お前は、戻りたいか」

 俺は訊かない。

 代わりに、線引きを置く。


「決めるのは、お前じゃない」

 俺は言った。

「教会の手から外すかどうか。……それを決めるのは、俺たちの戦局だ」


「……は?」

 ユウキが顔を歪める。

「お前、何言って――」


「教会は人を資材にする。外殻も、聖骸核も、その延長だ」

 俺は淡々と言った。

「お前も、いつか資材にされる。いない扱いにされた時点で、もう始まってる」


 ユウキの目が、少しだけ揺れた。

 恐怖じゃない。

 理解だ。


「……俺は、勇者だぞ」

 弱い声だった。

 言い聞かせるみたいな声。


「勇者でも、二番手なら切られる」

 俺は言う。

「現場は都合のいい旗が欲しい。上は都合のいい正義が欲しい。――お前は、都合が悪い」


 ユウキは黙った。

 鎖の音だけが、また響く。


 俺は立ち上がる。

「殺さない。使い潰さない。……監視は続く。必要なら、話す」

 それだけ言って扉へ向かう。


 背中に、ユウキの声が刺さった。


「……俺、もう“いない扱い”なんだろ」


 俺は振り向かない。

 振り向けば、慰めになる。慰めは今はいらない。


「だからこそ」

 扉の前で、俺は言った。

「決めるのは教会じゃない。――俺たちだ」


 扉が閉まる。

 外の空気が少しだけ軽い。


 だが爆弾はそこに残ったままだ。

 置き場所を間違えれば吹き飛ぶ。

 置き場所を正しく選べば、敵の足元で爆ぜる。


 ミラの前に戻ると、彼女は短く命じた。

「監視を強化します。尋問はしない。軍規は守る」


 ドルガが渋い顔で頷く。

「……分かった。だが、俺は見張るぞ。部下を死なせたくねぇ」


「それでいい」

 俺は言った。

「爆弾は、見張られてる方が安全だ」


 線を見れば、前線の針の白はまだ立っている。

 しかも太くなり始めている。

 運用の次は、供給だ。

 供給の次は――本丸だ。


 俺たちは、爆弾の置き場を決めた。

 次は、教会の置き場を壊す番だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ