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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第6話 魔王との契約と、魔王軍の条件

 現実に引き戻されると、部屋の空気が変わっていた。


 炎は、さっきよりも静かだ。

 グルドたちの額に浮かんでいた冷や汗も、少し引いている。


「……これは」


 グルドが呟く。


「聖なる炎の因果に、干渉を……? 馬鹿な、あれはもはや“災厄”級の――」


「おい」


 俺は魔王を見る。


 さっきまで荒かった呼吸が、わずかに落ち着いていた。


「楽になったか?」


「……ああ」


 魔王マギアは、短く笑った。


「完全に消えたわけではないがな。

 だが、確かに“死”の手が一歩、遠のいた」


 ミラが、はっと顔を上げる。


「父上……!」


「落ち着け、ミラ」


 魔王は娘を制し、改めて俺を見た。


「今のは、お前の仕業か、ショウマ」


「そうだな」


 俺は肩をすくめる。


「魔王を焼いてる炎の線を、ちょっといじった。

 “勇者様”の顔に繋がってるところだけ、少し弱くしただけだ」


「なぜ、完全に断ち切らぬ」


 ミラが思わず口を挟む。


「それができるなら、そうしてくださっても――」


「簡単な話だよ」


 俺は、ミラの紅い瞳をまっすぐ見る。


「完全に切ったら、“勇者様”との繋がりが消える。

 敵の顔も、手口も、何もかも見えなくなるだろ」


 それは――


「信用してないから、ですか?」


 ミラの声は、かすかに震えていた。


「我ら魔王軍のことを。……この世界そのものを」


「まあ、それもある」


 否定する気はなかった。


「俺はもう、“枠”に入れてくる連中を信用しない。

 光の使徒だの勇者様だの、正義だの悪だの、そういうラベルもまとめてな」


 教室。

 『不要』の二文字。

 ニュース。

 ワイドショー。

 あの母親の包丁。


「だから保険は残す。

 “勇者様”の顔に繋がる線も、魔王軍の状態に繋がる線も。

 俺の手元に、全部集めておきたいんだ」


 ミラは言葉を失ったように黙り込んだ。

 代わりに、魔王マギアがくつ、と笑う。


「フ……正直だな」


 掠れた声に、僅かな愉快さが混ざる。


「気に入ったぞ、ショウマ。

 世界も我も疑い、保険を残しつつ、それでもこちらの炎を弱めてみせた」


 魔王は、焼けていない方の手を、わずかに持ち上げた。


「そのうえで、なお我らの側に立つかどうかを決めるつもりか?」


「それについては――」


 ようやく本題だ。


 俺は、魔王の目を見据えた。


「俺から、提案がある」


     ◇


「俺は、この世界で“魔王軍の側”に立つ」


 はっきりと言い切る。


「あっち側に、戻る気はない。

 向こうの世界で俺を消費した連中も。

 こっちの世界で“光”を名乗ってる連中も」


 俺にとっては、まとめて敵だ。


「向こうの世界じゃ、俺は“悪役”扱いされた。

 なら、この世界では――自分から“悪”を名乗って、魔に連なる側に立つ」


 それは俺の問題だ。

 魔王軍に「悪」と名乗れと言うつもりはない。


「ただし」


 言葉に、わずかに力を込める。


「いくつか条件がある」


 ミラとグルドが、小さく身じろぎするのが分かる。


「まずひとつ」


 指を一本、立てる。


「俺を“兵隊のひとり”として数えないこと。

 契約するなら、魔王軍の“幹部”として扱え」


 ミラが目を見開いた。


「幹部……!」


 グルドは逆に、ひどく楽しそうに目を細める。


「ほほう。四天王に並ぶ席を、ということでしょうかな?」


「名前はどうでもいい」


 四天王だろうが大将軍だろうが、肩書なんて記号だ。


「ただ、俺を“消耗品”として扱うな。

 捨て駒にするなら、その時点で契約は破棄する」


 教室で『不要』と書かれたときと同じことを、この世界でされるつもりはない。


「ふたつめ」


 指をもう一本、立てる。


「魔王軍の側にいる魔族たちを、“不要”扱いして見捨てないこと。

 もちろん戦略上、犠牲がゼロになるなんて思ってない。

 ただ――」


 俺は、ミラを見る。


「“お前たちの都合”だけで切り捨てるな。

 誰を守るか、誰を捨てるかを決めるとき、少なくとも一度は俺に相談しろ」


 俺は、この世界で“不要”のラベルを貼る側に回る。

 貼られる側になるつもりはない。


「みっつめ」


 最後の指を立てる。


「向こうの世界のことや、“勇者様”に関する情報を、勝手にバラまかないこと。

 俺が話したことを、面白おかしく吹聴するな」


 ワイドショーも、ネットニュースも、もう見飽きた。


「必要があるとき、必要な相手に、必要なだけ。

 何を伝えるかは、基本的に俺が決める」


 グルドが小さく頷いた。


「情報の出処を一本化し、混乱を防ぐ、というわけですな。

 合理的でございます」


「……他にも、細かい条件はいくつかある」


 俺は指を下ろした。


「全部ここで挙げると長くなる。

 だから、“契約”として結ぶときに、条文としてまとめさせてくれ」


 魔王を見据える。


「後から追加で伝える条件も含めて、それを守れなかったとき――

 俺は自由になる。そういう形にしておきたい」


 沈黙。


 部屋の空気が、さらに重くなる。


 ミラは不安そうに唇を噛み、

 グルドは興味深そうに顎髭を撫で、

 護衛たちは固唾を飲んで見守っている。


 そして、魔王マギアは――


 やがて、ふっと笑った。


「フ……よかろう」


 掠れた声に、確かな愉悦が混ざる。


「自らを“悪”と名乗りながら、保険を残し、

 それでもなお魔に連なる者の側に立つと言うか」


 焼けていない方の手を、俺のほうへと差し出してきた。


「契約を結べ、ショウマ。

 我は、魔王マギアとして、お前を魔王軍の“幹部”と認めよう」


「父上……!」


 ミラの声には、驚きと――安堵が混ざっていた。

 グルドも、目を細めて頭を垂れる。


「ありがたきことでございますな、マギア様。

 これで、魔王軍もようやく“反撃”の目が見えてきましたぞ」


 ――やっぱり、こいつらも追い詰められている。


 だからこそ、俺みたいな“死んだ人間”にでも手を伸ばす。


 それでいい。

 むしろ、そのほうが信用できる。


「了解」


 俺は、魔王の差し出した手に、自分の手を重ねた。


     ◇


 契約権限が、ざらりと立ち上がる。


 闇と光の中間のような、ねじれた魔力。

 因果の線が、俺と魔王のあいだで結び直されていく。


 視界の端で、黒と銀の魔法陣が浮かび上がった。


 俺の胸元と、魔王の胸元。

互いの魂に刻まれた“契約の印”が、ゆっくりと同期していく。


『契約――開始』


 耳の奥で、理の神の声が一瞬だけ響いた気がした。


(見てやがるのかよ、神様)


 まあ、いい。


『魔王マギア。

 魔王軍の側に立つことを選んだ者を、“幹部”として認める』


『影山ショウマ。

 魔王軍に戦力を提供し、“魔に連なる者”の側に立つ』


『ただし、定められた条件が破られたとき――

 契約は自動的に無効化される』


 因果の線が、ぐるりと組み替わる。


 俺と魔王。

 魔王軍と俺。


 互いの間に、新しい“枠”が生まれる。


 今度こそ、自分で選んだ枠だ。


 印が完全に刻まれたところで、俺はゆっくりと手を離した。


     ◇


「……これで、契約は成立だ」


 俺がそう言うと、魔王は満足そうに目を閉じた。


「ああ。確かに、魂が繋がった。

 これでお前は、魔王軍の幹部にして――我の“同盟者”だ」


「ショウマ殿……!」


 ミラの顔に、はっきりとした安堵の色が浮かぶ。


「ありがとう。本当に……ありがとう」


「礼を言うのは、まだ早い」


 俺は首を横に振った。


「俺がやるのは、あくまで俺の都合だ。

 魔王軍を助けるのも、“勇者様たち”をぶっ壊すための前準備にすぎない」


 炎色の瞳で、天井を見上げる。


「これで、“枠”は決まった。

 次は――中身を詰める番だ」


 グルドがくつくつと笑う。


「中身、とは?」


「簡単な話だよ」


 俺は魔王を見て、口角を上げた。


「まずは、勇者どもの情報を全部寄越せ。

 名前。顔。やったこと。能力。あと――」


 唇が勝手に歪む。


「“勇者様”が、どれだけ楽しそうに俺の味方を焼いてるのか。

 その辺りの話を、できるだけ詳しく聞かせてくれ」


 ミラが身じろぎする。

 グルドが目を細める。

 魔王の瞳に、炎とは別の光が宿る。


 俺は静かに息を吸った。


 この世界で、“魔王軍の幹部”として生きる。


 “悪役”を、自分から選ぶ。


 その一歩目として――

 まずは、“勇者様たち”の物語を、全部ひっくり返してやる。

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