表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/71

第54話 針の白

 白は、面じゃなかった。

 あれは――刺す。


 影走りの二名が、巡礼路の外縁を滑るように進んだ瞬間だった。


「……っ」


 空気が変わる。

 聖印粉の匂いが鼻の奥に刺さり、足元の影が“輪郭”を持ち始める。普段なら粉は、撒かれた場所を避ければいい。だが今日は違った。


 避けたはずの縁から、白い線が伸びた。針みたいに細く、鋭い。


「影が浮く――!」


 もう一人が叫ぶ前に、短杭の点群が同時に反応する。

 面じゃない。点が点のまま、互いを呼び合って、影の逃げ道だけを潰す。


 影走りは方向を変えた。

 だが“逃げる方向”へ白が先回りして刺さる。


 地面が白く焼ける――というより、そこだけ聖域が立つ。

 壁だ。薄いのに、抜けられない壁。


「撤っ――!」


 レアの声が遠くから飛んだ。

 二人は影に沈む。沈みきれない。沈む途中で引っかかる。針が、影の腹を引っ掛ける。


 絶縁繭が投げ込まれた。

 白の縁と影の縁の間に、糸が落ちる。隔てるための“膜”。その一瞬だけ針が鈍った。


 その隙に、影走りは転がるように逃げた。

 致命傷は無い。だが、脚が震えていた。影が、いつもの“味方”じゃない。


「白が……点で刺してきます」

 息を切らした報告が、魔王軍の前線拠点に落ちる。


 俺――影山ショウマは、目を閉じて線を見る。


 因果は、束ねられ始めていた。

 主幹柱が鈍っているはずなのに、局所だけが異様に明るい。針の白。あれを支えているのは、器だけじゃない。


「……台座がある」


 器(装着者)の周囲に、祈祷役。聖油導体。短杭の点群。護衛。

 点を点として成立させるための“セット”が、きっちり組まれている。


 つまり――殺すべきは命じゃない。

 回路だ。


「器を狩るな。器を孤立させる」

 俺が言うと、ミラがすぐに噛み砕いた。


「点を、点にできない状態へ落とす。供給を切る」

 凛とした声が会議の中心になる。迷いがない。迷うほど、時間が無い。


 レアが頷く。

「交代点を押さえれば、祈りが途切れます。声も、札も」

 影走りが刺されるなら、刺される前に“仕組み”を抜く。


 エヴェリナが穏やかに微笑む。

「導体は……乾かせばよろしいですね。燃やさず、塞いで、分ける」

 母性的な言い方なのに、手段は容赦がない。工程停止の達人だ。


 ドルガが肩を回す。

「押さえは任せろ。殺さずに殴って寝かせるのは、得意だ」

 言い方は荒いが、意味はちゃんと軍規の内側だ。


 俺は線の集約点を指した。

「器は、ここから三つの支えで立ってる。祈祷交代点、導体の合流、短杭の点群――どれか一つじゃ足りない。三つを同時に外せ」


「同時に、か」

 ミラが短く息を吐いた。

「なら、今夜。窓が閉まる前に」


 作戦は小さい。だが、刺さる。

 刺さる白に対して、回路を抜く。針の根元を折る。


 ――夜。


 祈祷交代点は、巡礼路の脇に作られていた。

 仮設の幕屋。香。蝋燭。祈りの言葉。護衛の聖騎士。聖印粉の線引き。


 レアは“滑らない”ことを最初から前提にした。

 影に沈むのではなく、影の端を歩く。刺されない距離を保ち、相手の視線を誘導する。


 護衛が振り向く。

 そこへ、エヴェリナの絶縁繭が落ちた。


 糸が絡む。足首、膝、肘。

 関節が固まり、声が詰まる。呼吸は残す。意識は奪わない。暴れる力だけ奪う。


「……っ、っ……!」


 祈祷役が口を動かす。だが言葉が続かない。

 祈りは“継続”が命だ。途切れた瞬間、回路はただの線になる。


 レアが札を抜いた。

 命令札。更新札。交代の記録。

 白い手袋越しに、その紙が汗ばんでいるのが分かった。


「……焦ってる」

 レアが呟く。

 紙の文字が、墨なのに熱い。


 次。導体。


 聖油は燃やせば早い。だが燃やせば憎しみが増える。

 俺たちは燃やさない。抜く。塞ぐ。分ける。


 ドルガ隊が、導体の“継ぎ目”を押さえた。

 石の溝に流れる油を、別の溝へ逃がす。戻らない方向へ。

 樽は奪わない。樽を倒して空にする。運び手は縛って寝かせる。


「こんな……こんなやり方が……!」

 拘束された運び手が唸る。

 怒りがある。恐怖がある。だが、死は無い。


 俺は結界を張った。

 見えない壁を、導体の合流点にだけ立てる。油が流れる“意味”を失わせる壁。


 流れようとして、止まる。

 止まるから、逆流する。

 逆流するから、現場は混乱する。


 短杭点群は、最後だ。


 面にされる前の点群は、点のままなら脆い。

 俺たちは杭を全部壊さない。壊せば新しく打ち直される。

 代わりに、点を繋げない配置へ崩す。


 エヴェリナの糸が、杭と杭の間を“絶縁”する。

 点は点で残るのに、面にはならない。

 復旧しようとすると、どこから繋ぎ直すべきか分からなくなる。


 ――そして、針の白が反応した。


 遠くで、白が立ち上がる。

 面じゃない。点でもない。針だ。

 影走りの退路を、刺すために。


「来るぞ!」

 ドルガが叫ぶ。


 白い線が、夜の闇を裂く。

 刺さる方向が分かる。分かるから怖い。避けるだけでは、次が来る。


「ショウマ!」

 レアの声が鋭い。


 俺は結界操作を滑らせた。

 針が“刺さる方向”を限定する。

 避けるためじゃない。刺させる場所を決めるためだ。


 白が、指定された地面に刺さる。

 そこだけが明るい。そこだけが聖域だ。

 そして、そこから先には伸びない。


「……鈍った」

 レアが息を呑む。


 祈祷交代点が止まっている。

 導体が乾いている。

 短杭の点群が繋がらない。


 針の白は立っているのに、支えが無い。

 支えが無い針は、ただの光だ。刺せない。維持できない。


 それでも、白は消えない。

 器は残っている。

 つまり教会は、組み直してくる。次はもっと学習した形で。


 撤収。

 捕虜は置いていく。縛ったまま、呼吸を確保し、水も残す。

 俺たちは“悪”だが、無意味な死体は増やさない。


 戻って、札を開く。


 そこには“運用”が書かれていた。

 外殻の護衛再編。祈祷役の交代頻度。導体の二重化。短杭の予備。

 つまり、教会は刺す白を“現場仕様”へ落とし始めた。


 俺は線を見て、顔をしかめた。

 一点だけじゃない。

 別の場所にも、薄い集約が芽を出している。


「……増える」

 俺の声は低くなった。


 ミラが迷わず言う。

「なら、増える前に回路を折ります。次の窓へ」

 硬い声。けど、その硬さは折れない。


 白は刺す。

 だから俺たちは、刺す前に台座を抜く。


 針を折るんじゃない。

 針が立てなくなるように、地面を変える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ