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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第48話 血管遮断――聖油の喉



 外周の灯が増えた。

 短杭の面制圧が始まっている。白が、育ち始めている。


「間に合う?」

 レアが低く問う。


「間に合わせる」

 ショウマは息を吐き、《結界操作》の膜を薄く張り直す。

 消す膜じゃない。輪郭を削って森に馴染ませる膜。


 今日の目的はひとつ。

 心臓へ行く前に、血管を切る。

 流れを止める。



 主幹ノードの裏手。

 搬入口――補給扉。聖油と祈祷具と聖印粉が出入りする喉。

 ここを塞げば、短杭の面は育たない。祈りの手順も鈍る。


 レアが影走りに目配せする。

 左右へ散る。合図は最小。

 相手は手順戦で回している。だからこちらも手順で崩す。


 見張りは二人。軽装。だが油断がない。

 壁際に撒かれた白い灰――聖印粉が、微かに光っている。

 結界の縁を炙るための粉。触れれば、輪郭が出る。


「踏むな」

 ショウマが小さく言う。

「粉は“目”だ」


「分かってる」

 レアは短く答え、足場を選ぶ。

 倒木の上、石の縁、粉の切れ目だけを辿る。

 動きが綺麗だ。速いのに、音がない。


 見張りの背後。

 レアが顎を固定し、呼吸を奪う。倒す前に受ける。音を出さない。

 影走りがもう一人を同じ型で無力化。

 殺さない。落とす。置く。


 ショウマは扉に手を当て、《結界操作》で「閉じている」を抜いた。

 錠前が静かにほどける。金属音は、膜が吸った。


 中は、白い。

 白いだけじゃない。重い。

 聖圧が室内で跳ね返り、肺の奥が押される。


 だが目的地はそこじゃない。

 棚と桶。聖油。祈祷具。聖印粉。短杭束。

 流すための部材が揃っている。


「喉だな」

 ショウマは低く言った。

「ここが詰まれば、心臓は鈍る」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。喉を締めるのは得意ですのに」


「今日は締めすぎるな」

 ショウマは短く切る。

「抑え最小限。騒ぐと面が加速する」


「従順ですわ」

 リュシは半歩下がり、圧を落とす。待機の顔。



 血管遮断は、同時にやる。

 一本だけ切っても、教会は別の血管を繋ぎ直す。

 だから三つ折る。


 一つ目。搬入口の停止。

 二つ目。聖油の供給を空回りさせる。

 三つ目。短杭設営の“育つ意味”を殺す。


 ショウマは桶へ指先を向け、結界を薄く敷いた。

 燃やすための油。巡礼路を通すための導体。

 教会側にとっては「流す」もの。


 なら、その“流す意味”だけを殺す。

 油は油のまま残る。物は壊さない。

 ただ、供給線として機能しなくなる。


 扉の外――遠くで短杭が打たれる音。

 コツ、コツ、と規則的な木音。

 点が増え、面が育つ合図だ。


 ショウマは息を吐き、森全体に薄い膜を広げる。

 短杭から短杭へ繋がる「面にする意味」を、部分的に噛ませない。

 完全に潰せば気づかれる。だから“鈍らせる”。


 面が育つのに、時間がかかる。

 祈祷役が焦る。

 焦れば、手順が乱れる。

 乱れれば、盲目化で抜いた“癖”が刺さる。


「……白が、乗らない」

 扉の外で、誰かの声がした。

「油が足りないのか?」


 違う。油はある。

 ただ、“通らない”。


 レアが扉の隙間から覗き、短く言う。

「設営班が詰所へ戻ろうとしてる。補給に来る」


「来させる」

 ショウマは頷いた。

「来たら、喉が詰まってるのを見て慌てる。そこを抜く」


 影走りが配置につく。

 レアが前に出る。

 ショウマは膜を整える。

 リュシは、一歩も動かない。だが視線だけが鋭い。夜だ。



 足音が来た。

 二人。軽装。杭束を背負っている。

 祈祷役はいない。現場に残している。手順戦の合理。


 補給扉の前で、二人が眉をひそめた。

「……閉まってない?」

「誰が開けっぱなしに――」


 そこまで言った瞬間、レアが背後に立っている。

 顎固定。呼吸奪い。

 倒れる前に受ける。音が出ない。


 もう一人は反射で振り返り、叫びかけた。

 だが声の“届く意味”をショウマが薄く殺している。

 声が、森の中で落ちる。


 影走りが腕を取って無力化。

 殺さない。落とす。置く。


「補給が止まったのは、すぐバレる」

 レアが低く言う。


「バレていい」

 ショウマは淡々と答えた。

「バレた時点で、血管は切れてる。繋ぎ直すには時間がかかる」


 その時、遠くで祈祷の声が強まった。

 詰所側が気づいた。手順が“速く”なっている。

 焦りが手順を押す音。


 そして――白の圧が一段、跳ねた。

 主幹柱が、脈を強く打つ。

 補うために回す。供給を増やす。

 心臓が無理をする時の動きだ。


(来た)

(ここが効く)


 ショウマは結界を一枚重ね、主幹へ向かう流れの“向き”を捻った。

 供給の矢印だけをズラす。

 短杭面へ行くはずの白が、空回りして外周へ漏れる。

 漏れた白は、囮終点へ寄る。

 敵の目も、そこへ寄る。


 胸の針が、僅かに引かれた。

 主幹ではなく外縁へ。

 標がズレる。追跡の意識がズレる。


「……効いてる」

 レアが小さく言う。

 外周の見張りの火が、一つ、そちらへ動いた。



 だが、良いことばかりではない。

 白が漏れた分、森の中の聖圧も揺れる。

 揺れは、敏い者に見える。


「結界が……」

 遠くの声。

「揺れた。そこだ」


 掃討隊の足音が混じった。

 軽装の走りではない。鎧の擦れる音。

 迷いがない。狩りの歩き方。


「来る」

 影走りが指で合図する。


 リュシエンヌが上品に微笑んだ。

「まぁ。お迎えが早いこと」


「止めろ」

 ショウマは即座に言う。

「圧を落とすのは“一拍”だけ。やりすぎるな」


「承知しておりますわ」

 リュシは貞淑に頷き――一拍だけ、夜を落とした。


 空気が、沈む。

 追手の踏み込みが、ほんの一瞬だけ鈍る。

 足が止まるほどではない。だが、詰まる。


 その一拍で、ショウマは桶の蓋を閉め、結界の意味を固定した。

 ここは“流れない”。

 ここは“喉が詰まったまま”。


 レアが無言で先に出る。撤退線を作る動き。

 殿の癖が出そうになるが、押し込めている。役割の顔だ。



 森へ滑り出る。

 背後で声が上がった。


「補給が空だ!」

「油が……通っていない!」

「短杭が繋がらん!」


 白が痩せる。

 面が育たない。

 心臓が強く打っても、血管が詰まっている。


 ――その瞬間。

 主幹の白い柱の脈が、一拍だけ乱れた。

 見える者には見える程度の、わずかな乱れ。

 だがショウマの因果視界では、はっきり“詰まり”として映った。


(効いた)

(心臓は、鈍る)


 だが同時に、灯が増える。

 敵も理解した。

 これは偶然じゃない。誰かが“喉を締めた”。


「……見られたな」

 レアが低く言う。


「見られていい」

 ショウマは前を見た。

「血管は切った。次は心停止だ」


 リュシエンヌが上品に微笑み、ちらりとショウマの手袋を見る。

 言葉にはしない。だが匂わせはある。


 レアが腕を強く組み直す。

 ムッとした感情を押し込め、前へ進む。

 揉める場面じゃない。今は、窓が閉じる。


 遠くで、警戒の祈祷が強まった。

 白が濃くなり、面制圧が速度を上げる。

 教会が本気になる音。


 ショウマは冷たく言った。

「心臓は見た。血管は切った」

「次で止める」


 攻勢の夜は、もう引き返せない。

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