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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第47話 盲目化――目を潰す夜

 今夜が一番薄い夜だ。

 ミラの言葉を背に、ショウマたちは魔王城を出た。


 森へ入った瞬間、空気が変わる。湿り気、獣の匂い、土の冷たさ。

 そして――聖圧。遠いのに、胸の奥を押すような白の圧がある。


 主幹ノード。心臓。

 あそこへ近づくほど、影は薄くなる。息が浅くなる。


「……灯が増えてる」

 レアが呟いた。見張りの火が、前回より明らかに多い。


「窓が閉じ始めてる」

 ショウマは《結界操作》で薄い膜を張った。壁じゃない。輪郭だけを削る膜だ。

 消すのは無理だ。ここは聖域帯が濃い。だから馴染ませる。


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。白が元気ですのね」


「感想は後。今日は目を潰す」

 ショウマは短く切る。

「破壊しない。派手にもしない。癖を抜いて、次の穴を作る」


「従順ですわ」

 リュシは半歩下がり、余計な圧を出さない。待機に徹する顔だ。


 影走りが二名。足音を消すのが仕事の者たち。

 そしてエヴェリナの蟲が一匹――いや、見えるだけで数はもっといる。森の呼吸に紛れて、外周へ先に散っている。



 山腹の陰。木々の隙間から、心臓ノードの外周が見える。


 石壁が幾重にも回り、内側に塔が三つ。中心に白い柱。

 柱の周囲を光が巡り、巡礼杭の線がそこへ集まっている。脈だ。血管だ。


 視界の端で、白い粉が舞った。

 追手が撤退戦で使っていたのと同じ――聖印粉。


(対影装備が、常備になってる)

(ここから先は、狩場じゃない。狩場を潰す側の領域だ)


 影走りの一人が指で合図する。

 巡回、三。短い。交代、一定。合図がなくても動く手順戦。


 ショウマは胸の“針”を意識する。

 近づくほど、針が白へ引かれる。

 それを逆手に取る。引かれる先をズラせば、敵の目もズラせる。


「短杭の設営班、動いてる」

 レアが言う。目線の先、二人組が杭束を抱えて歩いていた。


 その背後に祈祷役。油壺。聖印板。

 短杭は点だ。点を繋げば面になる。面になれば、影は死ぬ。


「設営点を特定する」

 ショウマは低く言った。

「三つ。多分、外周に三角で張る」


 糸線のように、エヴェリナの情報が頭に入る。蟲が見ているものが、こちらにも落ちる。


――設営点:東側の岩棚/南の倒木帯/西の沢上

――祈祷役交代位置:外周詰所

――搬入口:裏手補給扉(聖油・祈祷具)


「……三つ」

 影走りが息を飲む。

「面にする気だ」


「面にさせない」

 ショウマは淡々と答えた。

「だから今日は“目を潰す”。明日、白が増える前に」


 レアが頷く。

「動く」



 最初の仕事は、触らずに見ることだ。

 だからこそ、無力化は最低限。


 東側の岩棚。設営班が一度止まり、祈祷役が油を撒く。

 その瞬間、地面の白が濃くなる。短杭が刺さる予定の“地ならし”だ。


(ここが一点目)


 南の倒木帯。ここは視界が悪い。だからこそ短杭が効く。

 祈祷役が何かを唱え、軽装の者が杭束を置いた。


(ここが二点目)


 西の沢上。水の音がある。足跡が流れる場所。だから普通は追跡が難しい。

 ――逆に言えば、短杭で面を張れば、追跡を“成立”させられる。


(ここが三点目)


 ショウマは心の中で点を結ぶ。

 三角。外周面。これが完成すれば、こちらの隠密は一段死ぬ。


「祈祷役の交代位置も見えた」

 レアが戻ってくる。声は小さい。

「外周詰所。一定の時間で交代。合図じゃなく手順で回してる」


「合図を殺しても無駄、ってやつだ」

 ショウマは歯を噛む。

「なら、手順の“次”をズラす」


 影走りが戻り、指で示す。

 搬入口。補給扉。油と板と粉が出入りする裏動線。

 そこを止めれば、B(血管遮断)が刺さる。


 今日の成果は揃った。

 だが、もう一つ欲しい。

 “更新札”。命令の細部。締切の正確な文字。



 巡回が近づいた。

 先頭は鎧が違う。装備が整い、動きが速い。副長格だ。


 レアが目だけで合図する。

 いける。いまなら一人だけ抜ける。


 ショウマは結界を薄く捻った。

 音の“届く意味”だけを削る。叫んでも、遠くへ飛ばない膜。


 レアが影になった。

 背後へ回り、顎を固定する。呼吸の通り道を潰す。

 倒れる前に、影走りが支える。音を立てない。

 副長格の身体が、森へ吸い込まれた。


 巡回の残りが足を止める。

「……今、何か」

 だが判断が遅れる。叫びが広がらない。


 ショウマが結界で“疑う意味”を一拍だけ薄くした。

 疑いが形にならない。確認が遅れる。


 その一拍で、こちらは離れる。



 森の深部。音の漏れない結界の中。

 副長格は目を開け、歯を食いしばった。


「魔族……」


「魔王軍の影の魔将だ」

 ショウマは椅子から動かない。

「お前らが言うところの極悪人だ」


 副長格が反射で飛びかかろうとする。

 だが動けない。枷はない。不可視の結界が、関節の“動く意味”だけを抑えていた。

 膝から崩れ、悔しそうに呻く。


「……結界、か」


「そうだ」

 ショウマは淡々と言う。

「今日は雑談と簡単な質問だけ。時間がない」


 副長格が唾を吐く。

「舐めるな」


「舐めてない。締切を確認するだけだ」

 ショウマは相手の腰袋を抜く。更新札。命令札。聖印板の控え。

 紙の擦れる音は、結界が吸った。


 ショウマが読む。

 文字の意味が因果に沿って入ってくる。

 そして、確かにあった。


――明朝までに外周“面”完成

――設営点三、祈祷役交代遵守

――影印杭の探索・回収優先

――外殻シェル計画:素材搬送、前倒し継続


 ショウマの指が一度だけ止まる。

 外殻。素材。前倒し。

 教会は、勝つために“使う”。そういう匂いが濃くなる。


 リュシエンヌが上品に囁いた。

「まぁ。きな臭い札ですのね」

 そして、さらりと続ける。

「魅了なら早いのに。……元気な血があれば、ですけれど」


 視線が、ショウマの手袋へ落ちる。

 露骨じゃない。だから余計に腹が立つ。


「許可しない」

 ショウマは即答した。

「今日は聞かない。今日は抜く。目的が違う」


「従順ですわ」

 リュシは笑って引いた。約束の範囲に戻る。


 レアが一度だけ腕を強く組み直した。

 ムッとした感情を押し込める動作。

 だが口には出さない。役割が先だ。


 ショウマは副長格を見下ろす。

「お前は殺さない。置いていく」

「起きたら戻れ。戻って『影が動いた』って言え」


「……なぜ」

 副長格が唸る。

「情けか」


「合理だ」

 ショウマは淡々と答えた。

「殺したら、お前らの正義が余計に燃える。今は燃やしたくない。……今は、止めたい」



 撤収。

 だが、手ぶらでは帰らない。


 ショウマは影印杭を一本、取り出した。

 そのままだと聖圧に負ける。だから、エヴェリナの絶縁繭を被せる。

 圧が鈍る。扱える。刺せる。


「囮終点を作る」

 ショウマが言う。

「敵の目を、外へ引く。面が完成する前に、見当違いの“終点”を置く」


 胸の針が、僅かに引かれた。

 主幹じゃない。外周の一点へ。

 針が引かれるなら、敵の標も引かれる。


 影印杭を刺す。

 深くは入れない。目立たない位置。

 結界で“終点の匂い”だけを残す。

 追えば追うほど、ここへ寄る。

 寄った瞬間、次のB(血管遮断)の穴が開く。


 レアが頷く。

「罠じゃなく、誘導」


「誘導だ」

 ショウマは淡々と答える。

「奇襲ってのは、奇襲される側の油断込みで完成する。……今回は油断じゃなく、手順を使う」


 リュシが上品に微笑む。

「まぁ。意地悪」


「悪なんでな」

 ショウマは短く言った。



 戻り際、心臓ノードの方角で灯が増えた。

 白が濃くなる。面制圧が始まった合図だ。


「……窓が閉じる音がする」

 レアが低く言う。


「目は潰せる」

 ショウマは前を見た。

「癖も抜いた。穴も見つけた。囮終点も置いた」

「だが時間がない」


 リュシエンヌが微笑みを崩さず、囁く。

「次は血管遮断ですのね」


「次は血管だ」

 ショウマは頷いた。

「流れを切る。心臓を鈍らせる」

「そして、その次で止める」


 白い灯が、遠くで増え続けていた。

 教会が本気になるほど、こちらも本気になる。


 影の魔将の悪は、教会に刺さる。

 そのために――今夜は、目を潰した。

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