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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第45話 掃討の牙

 森へ戻った瞬間、空気が軽くなる――はずだった。

 だが、背中に刺さる感覚は消えない。


 追ってくる。

 しかも今までと違う。


 足音が、散らばらない。

 焦って走らない。

 “狩る”歩き方だ。


 レアが振り返らずに言った。

「……質が上がってる」


「護送じゃない。掃討だ」

 ショウマは息を吐き、《結界操作》の膜を薄く張り直す。

 消す膜じゃない。

 “輪郭だけを薄くする”膜。


 この一帯は聖域帯が濃い。

 影を嫌う。

 だから完全に消えるより、森の揺れに紛れる方が現実的だった。


 影走りの二人が、無言で左右へ散った。

 合図は最小。

 合図そのものが見つかる。


 リュシエンヌは上品に微笑んだまま、半歩下がる。

「まぁ。早いお迎えですのね」


「今日は帰る日だ」

 ショウマは短く言った。

「派手に勝つ日じゃない。撤退戦」


 レアが頷く。

「私が筋を作る。ついてきて」



 追手が見えたのは、森の裂け目――細い沢筋に差し掛かった時だった。


 白い灰が、風に舞う。

 粉だ。


 それが地面に落ちると、影の輪郭が僅かに浮いた。

 結界の“縁”が、線として出る。


(聖印粉……)

(対影装備)


 護送隊じゃまず持っていない。

 狩場を潰すための道具だ。


 さらに、短杭。

 一本じゃない。二本、三本。

 点を繋いで面にするつもりで叩き込んでくる。


 そして――動きが手順戦だ。

 叫ばない。

 合図が届かなくても、交代する。前へ出る。横を押さえる。

 合図妨害が効きにくい。


(レオンの更新が、もう届いてる)


 レアが沢の脇へ滑り込み、倒木の陰で息を殺した。

 ショウマも続く。

 リュシは衣擦れひとつ立てずに収まった。


 追手の先頭が短く命じる。

「散るな。面を張れ。影を“寄せる”」


 “寄せる”。

 つまり、逃げ道を削り、同じ方向へ追い込む。


 ショウマは舌打ちを飲み込んだ。

 殺さない。

 だが、止める必要はある。



 レアが、沢の上流へ誘導した。

 水音がある。足跡が流れる。

 だが追手は、その程度の誤魔化しに引っかからない。


 白い灰が撒かれ、面が広がる。

 その瞬間、空気が締まった。

 森が“白”になる。


(この白は、追うための白だ)


 なら、意味を変える。


 ショウマは《結界操作》で、“締まる”意味を部分的に反転させた。

 白い面が、こちらの動線を殺すのではなく――追手の動線を殺すように。


 結果、どう見えるか。

 追手側の足が、急に重くなる。

 踏み込みが滑り、連携が噛み合わない。


「何だ……!」

「足が――」


 叫びが上がる。

 その叫びの“届く意味”を、ショウマは薄く殺した。


 全員には伝わらない。

 混乱だけが増える。


 レアが動く。

 倒木の陰から、影のように背後へ。


 狙ったのは先頭ではない。

 指示を拾って動いている、真ん中の副長格。


 鼻口を抑えない。

 顎を固定し、呼吸の通り道を潰す。

 短く、確実に。


 副長格が膝から崩れた。

 音が出る前に、影走りが支えて引きずり込む。


 殺していない。

 だが、指揮が落ちた。


 追手の動きが一拍遅れる。

 その一拍で、ショウマたちは沢を横切り、崖道へ移った。



 だが掃討隊はしつこい。

 しつこいのに、焦らない。


 白い灰がまた舞った。

 短杭が叩き込まれ、面が再構築される。


「……うるさいほど白い」

 リュシエンヌが上品に囁く。


 そして、さらりと続けた。

「元気な血があれば、もう少し“静かに”できますのに」


 目が、ちらりとショウマの手袋を見る。

 上品に。露骨ではなく。

 だから余計に腹が立つタイプのチラ見せだ。


 レアの空気が一瞬だけ固くなる。

 だが言葉にはしない。

 今は撤退戦だ。


 ショウマは即答した。

「許可しない」


「まぁ」

 リュシは貞淑に微笑み、引いた。

「従順ですわ」


 ショウマはレアへ視線だけ投げる。

 “今は役割”。

 レアは頷いた。



 副長格を引きずって、森の奥へ。

 追手の足音が遠のいた地点で、ショウマは結界を一枚厚くした。

 外から見えないように。音が漏れないように。


 副長格は目を開けた。

 歯を食いしばる。

 鎧の下で、汗の線が細く走っている。


「……魔族め」


「魔族軍の、影の魔将だ」

 ショウマは椅子代わりの倒木に腰掛けたまま言う。

「お前らが言うところの極悪人だ」


 副長格が跳ね起きようとする。

 だが身体が動かない。

 枷はない。

 不可視の結界が、関節の“動く意味”だけを抑えていた。


「……結界か」


「そうだ」

 ショウマは淡々と手袋の指先を直す。

「聞きたいことは多いが、今日は時間がない」


 机代わりに、奪った袋を開けた。

 命令札。更新指示書。符丁の控え。


 読める。

 教会の文字は、因果の線に乗って意味が入ってくる。


 そこに、一文。

 副長格の指示書に紛れた“内部符丁”。


――外殻シェル計画、装着者優先度A。素材搬送、前倒し。


 ショウマの指が止まった。

 胸の奥が、冷たく固まる。


(外殻……)

(次の強化策か)


 レアが覗き込み、短く問う。

「何?」


「教会の“次”だ」

 ショウマは答えた。

「勝てないと判断した時の、エスカレート」


 副長格が薄く笑う。

「……光の使徒と称する人間達が、引かぬとでも?」


 ショウマは見下ろす。

「引かせる」

「引かないなら、折る」


 それ以上の尋問はしない。

 今日は情報抜きが主題じゃない。

 締切を掴めれば十分だ。


 ショウマは命令札を一枚抜く。

 そこにははっきり書いてある。


――明朝までに、主幹周辺“面制圧”完成。

――影印杭の回収・破壊を優先。

――狩場を潰し、影を飢えさせよ。


 レアが息を飲む。

「明朝……」


「窓が閉じる」

 ショウマは淡々と言った。


 副長格をどうするか。

 殺すのは簡単だ。

 だが、やらない悪だ。


 ショウマは結界を一段緩め、動けないままにする。

「眠ってろ」

「起きたら、縄を解ける場所に置いてやる」


 副長格が睨む。

「情けか」


「合理だ」

 ショウマは答えた。

「殺したら、余計に燃える。……お前らの正義がな」



 ドルガの拠点に戻った時、夜が少し薄くなっていた。

 捕虜たちは休ませられ、歩ける者から回復を回している。


 ドルガが出迎え、ショウマの顔を見て察した。

「……追い立てられたな」


「掃討に切り替わった」

 ショウマは命令札を渡す。

「狩場潰しが始まる。明朝までに面制圧」


 ドルガの片目が鋭くなる。

「面制圧……短杭か」


「そうだ」

 ショウマは頷く。

「影印杭も狙われる。俺のやり方が封じられる」


 ドルガが低く唸る。

「じゃあ、攻めるしかねぇ」


「攻める」

 ショウマは同意した。

「心臓は見た。工程も掴んだ。配布先も掴んだ」

「……次は止める」


 レアが短く言う。

「今日の撤退で分かった。追手は強い。でも手順がある。癖もある」


 ショウマは命令札の束をまとめ、最後に一枚だけ残した。

 “外殻シェル計画”。


 その文字が、嫌に冷たい。


(勝ったら、次が来る)

(教会は、勝つために“使う”)


 ショウマは手袋を握り直した。

 怒りは熱じゃない。

 冷たいまま、折れない。


「ミラに報告する」

「そして作戦を決める。今夜が一番薄い夜だ」


 ドルガが頷いた。

「行け、魔将殿。レアも」


 レアが一度だけ腕を強く組み直す。

 殿の癖を押し込み、役割の顔になる。


 リュシエンヌは上品に微笑んだ。

「まぁ。忙しい夜ですのね」


 ショウマは短く言い捨てる。

「忙しくするのは、あいつらだ」


 明朝までに、面制圧が完成する。

 窓が閉じる。


 なら、その前に。

 心臓を止めるための準備を――今夜、始める。

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