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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第44話 心臓の門


 心臓は、静かだった。

 静かで、重い。


 魔王城を出て二晩。

 影走りの支援を付け、ショウマたちは“主幹”の座標に近づいていた。


 同行は最小。

 ショウマ、レア、リュシエンヌ。

 影走りが二名。

 そして、エヴェリナの連絡蟲が一匹。


 戦いに来たんじゃない。

 見るために来た。奪うために来た。

 壊すのは、そのあとだ。



 山腹の陰。

 木々の隙間から、谷の向こうが見える。


 そこにあったのは、砦というより“施設”だった。

 石壁が幾重にも回り、内側に塔が三つ。

 中心に、白い柱が一本立っている。


 柱の周囲を、薄い光が巡る。

 巡礼路の主幹。

 杭の網が、そこへ向かって脈を打つように集まっていた。


 空気が締まる。

 呼吸が浅くなる。

 肌がひりつく。


 聖圧が、この一帯を“聖域”として固定している。


 レアが低く言う。

「……ここが心臓」


「心臓だ」

 ショウマは頷く。

「巡礼杭の血管が、全部ここに繋がってる」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。美しいほどに、悪趣味」


「余計な感想は後」

 ショウマは視線を外さずに言う。

「まず、出入りを数える」


 影走りの一人が、指で合図を出した。

 荷車、二。

 徒歩の隊、三。

 守衛の交代、一定。


 そして――門の内側へ、列が吸い込まれていく。


 首輪。

 縄。

 俯いた影。


「……捕虜」

 レアの声が僅かに硬くなる。


「赦しの作業院から流してる」

 ショウマは淡々と言った。

「ここで“何か”に変える」


 言い切る前に、因果視界が勝手に開いた。


 線が見える。

 巡礼杭から流れてきた聖力の線が、柱へ集まり、施設の奥へ落ちていく。

 その線に、別の線が混じっている。


 潰して固めたような線。

 人の線。

 折れて、削れて、それでも残っている線。


(……やっぱり、ここだ)


 ショウマの喉が冷たく固まった。


 リュシエンヌが、ちらりとショウマを見る。

 匂いで察した目。

 だが何も言わない。今は、従順を演じている。



 潜入は正面からしない。

 外壁の陰、巡礼杭の“補修溝”に沿って入る。


 影走りが先に滑り込み、見張りの癖を見て、盲点を作る。

 レアが影になり、背後へ回り、鼻口を抑える前に顎を固定する。

 呼吸を奪い、意識を落とす。倒さない。置く。


 ショウマは《結界操作》で“巡回の意味”を薄くした。

 一定の手順は崩せない。

 なら、ズレを作る。

 一歩の遅れ、合図の遅れ、その積み重ねで穴が開く。


 施設の裏手へ回り込むと、壁面に小さな扉があった。

 補給用。

 祈祷具や聖油の搬入口。


 鍵は重い。

 だが意味を殺せば、ただの板だ。


 ショウマが《結界操作》で「閉じている」を抜く。

 錠前が静かにほどけ、扉が開いた。


 中は、白い。

 白いだけじゃない。重い。

 聖圧が室内で反響し、肺の奥を押す。


 壁に刻まれた聖印。

 床に走る溝。

 溝の先に、桶が並ぶ。


 桶の中は――透明じゃない。

 淡く光る液体。聖油。

 そして、その奥。


 低い祭壇。

 箱。

 封印帯。印章。番号。

 同じ形式が、規格品みたいに並んでいた。


「……量が」

 影走りの一人が、声を失う。


「流れだ」

 ショウマは低く言う。

「燃料が、ここで作られて、配られてる」


 レアの拳が、ぎゅっと握られる。

「ここで、何をしてる」


 答えは、すぐ来た。


 隣室から、祈りの声。

 複数。

 淡々とした唱和。

 人の声が、道具のように揃っている。


 扉の隙間から覗くと、作業場が見えた。

 白布の作業着。

 司祭と、補助の人員。

 その中央に、黒い石臼のような器。


 器の上に、欠片が落とされる。

 光が走る。

 そして、器の底へ沈む。


 因果視界で見える線が、そこで“潰れる”。

 押し固められ、混ぜられ、一本の“媒体”にされる。


(……人を、燃料にしてる)


 ショウマの視界が、一瞬だけ揺れた。

 名前は出ない。顔も出ない。

 だが、二年三組に似た歪みが混じる。


 胸の奥が冷えて、決まる。


(俺は、ここを壊す)

(必ず、壊す)


 リュシエンヌが上品に囁いた。

「蓄電池どころではありませんのね」


「黙れ」

 ショウマの声は低い。

 怒鳴っていないのに、刃がある。


 レアが一拍だけショウマを見る。

 今、支えるべきだと分かっている目。

 だが言葉は選ぶ。


「……持って帰る情報は?」

 短く、仕事の言葉で切り替える。


 ショウマも頷く。

「帳簿。工程。配布先」

「それと、守りの癖」



 作業場の隅に、机があった。

 運用帳簿。印章台。札束。

 ショウマは結界で“紙の擦れる音”の意味を殺しながら、帳簿を抜く。


 ページを一枚だけめくる。

 赦しの作業院。

 集積所コード。

 箱番号。

 配布先――聖騎士団、司祭団、そして「高城ユウキ」名の欄。


 レアの肩が小さく跳ねた。

「……勇者」


「こいつが燃やした森の線と、繋がってる」

 ショウマは淡々と言った。

「ここから出てる」


 リュシエンヌが微笑み、声を落とす。

「嫌になりますわね」


 その時。

 外で、足音が変わった。


 一定の巡回じゃない。

 “探す”歩き方。

 人数も多い。

 鎧の擦れる音。


 影走りが指で合図する。

 掃討隊の先遣。

 来るのが早い。


(レオンが切り替えたな)


 ショウマは帳簿を畳み、即座に結界を張り替えた。

 退出経路を一つに絞る。

 迷わせる膜ではなく、通す膜。


「撤退」


 レアが頷く。

 影走りも動く。


 だがリュシエンヌが、一歩だけ遅れた。

 作業場の中央――器を見ている。

 微笑みの奥が、夜寄りになる。


「リュシ」

 ショウマが低く呼ぶ。


 リュシは上品に戻り、肩をすくめた。

「ええ。分かっておりますわ」

「壊すのは、今ではない」


 ショウマは短く頷いた。

「今は“持ち帰る”」



 扉を抜ける。

 外壁沿いに滑る。

 結界で“気配の輪郭”を薄くして、影を濃くする。


 しかし聖圧が強い。

 この一帯は、影を嫌う。

 息が浅くなる。心臓が重い。


 背後で声。

「……ここだ」

「結界が揺れた」


 追ってくる側も、ただの雑兵じゃない。

 掃討隊。狩る側。


 ショウマは歯噛みし、結界の意味を捻った。

 “追跡の標”が刺さる先を、一本だけズラす。

 壁沿いの石に、偽の終点。


 足音が、そちらへ一瞬寄る。

 その一瞬で、こちらは外へ抜けた。


 森へ戻る。

 夜へ戻る。


 背後で、聖圧が鳴った。

 心臓が、警戒を上げた音だ。


 ショウマは息を吐き、冷たく言った。

「位置は確定した」

「工程も掴んだ。帳簿も取った」


 レアが短く頷く。

「次は?」


 ショウマは、森の闇を見た。

 怒りは熱じゃない。冷たい。

 だから折れない。


「次は、止める」

「ここが心臓なら――止めれば、全身が鈍る」


 遠くで、白い灯が増えた。

 掃討隊が動き始めた証。


 影の狩場は、もう“守り”じゃ足りない。

 攻勢の刃を入れる段階に入った。

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