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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第42話 次便狩り――吊り橋、燃える

 次便は来る。

 帳簿に書いてある。

 そして、書いてある通りに動くのが教会の強さだ。


 ショウマは絶縁繭に包まれた箱を一瞥し、地図の写しへ指を落とした。

 谷を抜け、尾根腹を回り、最後に一本の吊り橋へ収束する。


「ここだ」


 レアが短く答える。

「吊り橋」


「一本道になる。荷車は詰まる。隊列は伸びる」

 ショウマは淡々と続ける。

「派手にやって、流れを止める」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。楽しそう」


「抑え最小限」

 ショウマが先に釘を刺す。

「血も眷属化も禁止。許可が要る」


「ええ。許可制ですわ」

 微笑みは貞淑。目は夜。


 レアが吐き捨てるように言う。

「約束破ったら、私が止める」


「止められるなら止めてみろ」

 リュシは笑って、ちゃんと引いた。


 ショウマは会話を切る。

「準備する」



 吊り橋は谷を跨いでいた。

 板が並び、鎖が張られ、風が通る。

 下は暗い。落ちたら終わりだと分かる距離。


 だから通路は一点に収束する。

 だから喉笛になる。


 ショウマは橋の手前に膝をつき、影印杭を二本抜いた。

 聖印杭の聖圧が、肌を刺す。

 だが絶縁繭で包んだ杭は、圧が鈍い。扱える。


 一本目。吊り橋の“入口”から少しズラした外縁へ。

 一本目が根を持つと、胸の針が揺れた。


 二本目。反対側の外縁へ。

 胸の針が二方向に引かれ、引っ張りが曖昧になる。


(終点を割る)


 追う命令は一点に刺さるほど強い。

 なら、刺し先を増やして薄める。


 さらにもう一本。

 橋の手前、短杭が打たれやすい“踏み固められた地点”へ。


(ここは受け皿)

(巡礼短杭の流れを吸う)


 ショウマは結界の膜を厚めにして、杭の“溜まる意味”を補助した。

 箱が来れば聖圧で吸い負ける。

 だから最初から補助する。


 レアが影になって周囲を見渡す。

「人の気配なし」


「来るのはすぐだ」

 ショウマは息を整える。

「今日の相手は更新済みだ」


 リュシが上品に囁く。

「護衛が厚い?」


「厚い。だから派手に切る」

 ショウマは吊り橋を見上げた。

 鎖。板。支柱。張力。整合。


(橋として成立している意味)

(そこを殺す)


 破壊じゃない。

 意味の破壊だ。



 やがて荷車の音。

 鉄輪が石を噛み、松明が揺れる。


 輸送隊は前回より明確に増えていた。

 聖騎士が四。軽装護衛が六。

 祈祷役が一。

 短杭を携えた者が二。


 荷車は二台。

 分散。ダミー混ぜ。レオンの更新。


 どちらが本命か。

 見れば分かる。


 封印帯が巻かれ、印章が押され、聖圧が濃い方。

 それが“燃料”だ。


 ショウマの胸の針が、ぐい、と引かれた。

 本命の荷車へ。

 そして同時に、影印杭へ。


(効いてる)

(でも、押し返される前に切る)


 先頭の聖騎士が吊り橋を見上げ、低く命じる。

「渡るぞ。間隔を詰めるな」


 祈祷役が聖油の小瓶を取り出した。

 短杭を打つ準備だ。


(来る)


 ショウマは結界を一段絞り、合図の意味を薄く殺した。

 叫びは叫びのまま落ちる。

 指示が届きにくくなる。


 その一拍で、レアが動く。

 荷車の御者へ。

 鼻口を抑えるのではなく、顎を先に固定する。

 肘を殺し、呼吸を奪う。


 御者が音もなく落ちた。

 馬が鼻を鳴らし、足を止める。


 護衛が叫ぶ。

「何だ!?」


 ショウマは《結界操作》で“最短”を殺した。

 駆け寄る足が迷いになる。


 祈祷役が短杭を抜き、地面へ打ち込もうとする。

 同時に聖油が撒かれる。

 儀式用の資材。巡礼路の導体。


(いい)

(自分で燃える材料を撒いた)


 ショウマは踏み込み、短杭へ結界を叩きつけた。

 “流す”意味を殺す。

 刺さりかけた短杭が、ただの棒になる。


 祈祷役の顔が引きつる。

「なっ――」


 その隙にレアが影となり、祈祷役の背後へ。

 顎固定。呼吸奪い。

 意識が落ちる。倒さない。置く。


 護衛が陣形を作り直す前に、吊り橋へ荷車が詰まった。

 先頭の車が止まり、後ろの車が追いつき、隊列が伸びる。


 ここからが派手だ。



 ショウマは吊り橋の“鎖”を見た。

 板が揺れ、張力が鳴いている。

 橋は張力と整合で成り立つ。


 なら、整合だけを殺す。


《結界操作》


 ショウマは吊り橋全体に、薄い膜をかける。

 膜が触れるのは材質じゃない。

 “橋として成立している意味”。


 耐荷重の整合。

 張力の均衡。

 揺れを戻す復元。


 その“戻る”の意味を、少しだけ抜いた。


 ギィ……ッ、と鎖が鳴く。

 板が波打つ。

 揺れが揺れのまま残り、戻らない。


 聖騎士が叫ぶ。

「橋が――!」


 次の瞬間、吊り橋が沈んだ。

 落ちたのは板の半分。

 完全崩落ではない。

 人が即死する形にはしない。


 だが荷車は違う。

 重い。聖圧が乗っている。

 荷車の車輪が板を裂き、荷台が傾いた。


 封印帯の巻かれた箱が、ずるりと滑る。


(落とす)

(回収不能にする)


 ショウマは結界で箱を包み、落下の“方向”だけを制御した。

 人が落ちない方へ。

 谷底へ。


 箱が暗闇に吸い込まれていく。

 聖圧の塊が落ちる。

 空気が震える。


 胸の針が、ズン、と谷底を指した。

 追跡の終点が、そこに固定された。


(井戸だ)

(聖圧の井戸)



 背後で、炎が上がった。


 祈祷役が撒いた聖油が、地面に残っている。

 そこへショウマが結界で“点火条件”だけを成立させた。


 火種を投げない。

 魔法で火を出さない。

 ただ、燃えるための意味を揃える。


 白い炎が走る。

 壁になる。

 輸送隊の背後が、火に包まれた。


「退路が……!」

 護衛が叫ぶ。


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。お見事」


 レアが苛立ち混じりに言う。

「褒めてる暇あったら見張れ」


 リュシは貞淑に頷き、夜の圧を一拍だけ落とした。

 護衛の踏み込みが止まる。

 抑え最小限。約束の範囲。


 ショウマは吊り橋の端で、息を吐いた。

 殺していない。

 だが“流れ”は止めた。


 燃料は谷底へ落ちた。

 巡礼路はそこで終点を持ち、回収に手間がかかる。

 次便の流れは途切れる。


(これが俺の悪だ)



 撤収は早い。

 ショウマは倒れた祈祷役の袋を回収した。


 印章。

 運用札。

 小型の聖印板。

 次の設営点更新。

 そして箱番号に対応した符丁。


(幹線が見える)


 レアが短く言う。

「追撃来る」


「来る前に消える」

 ショウマは即答し、結界で炎の“届く意味”を薄くした。

 燃えるが、追ってくる側の視界を食う。


 三人は影へ溶ける。



 遠く。

 レオンは報告を受けた。


「第二便も……抜かれました」


 レオンは怒鳴らない。

 淡々と地図を見下ろし、言う。

「護送では足りない」

「次は掃討に切り替える」


 セルベルトが静かに口を挟む。

「高城様にご助力を。……光の御手があれば」


 レオンは一拍だけ黙り、答えた。

「必要なら呼ぶ」

「だが、まずは影を理解する」



 ショウマは手袋を直し、奪った印章を握った。

 聖圧が、じわりと指先へ沈む。


「次は心臓だ」


 レアが頷く。

「幹線」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。もっと派手になりますのね」


「派手でも、やることは同じだ」

 ショウマは低く言った。

「奪うだけじゃ足りない」

「流れは、止める」


 谷の向こうで、白い炎がまだ揺れていた。

 吊り橋は半分落ち、巡礼の道は詰まった。

 聖骸の箱は、谷底の暗闇に沈んでいる。


 回収させない。

 燃料を戻させない。


 それが、影の魔将の悪だった。

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