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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第41話 奪った箱は、血を呼ぶ

 荷車は重い。

 重さは車輪じゃなく、荷台に乗った箱が作っている。


 聖圧。

 祈りの圧が空気を固め、肩の奥へ沈む。

 そのせいで、馬の息も浅い。鼻が白く曇る。


 ショウマは手綱を握り、結界で“暴れる意味”だけを薄く殺して進ませた。

 音も消せない。

 だが“届く意味”は削れる。


 鉄輪の軋みが谷に溶ける。

 溶けても――胸の針は、刺さったままだ。


 いや。

 刺さり方が変わっていた。


(俺じゃない)

(箱だ)


 引っ張りが、自分の胸から荷台へずれる。

 標の終点が“箱”になっている。

 奪った代償は、追跡が太くなることだった。


 レアが荷車の横を走り、短く言った。

「追いつかれる」


「分かってる」

 ショウマは即答した。

「分岐へ誘導する」


 地図の写しにあった谷の分岐。

 道が二つに割れ、片方は狭い崖道。

 荷車なら迷えば詰まる場所だ。


 だから先に“終点”を置く。

 追う命令の矛先を、こちらが選び直す。



 分岐に着くと、空気がさらに締まった。

 箱がここにあるだけで、聖圧が強くなる。


 ショウマは杭束から一本、影印杭を抜いた。

 聖印の刻みが掌をひりつかせる。

 結界で接触を薄く殺し、地面へ押し込む。


 流す→溜める。

 通す→吸う。

 固定する→落とす。


 影印杭が根を持つ。


 胸の針が、ふっと揺れ――だが、軽くならない。

 吸いが弱い。

 箱の聖圧が強すぎて、杭が飲み切れない。


 レアが息を詰めて言う。

「効き、落ちた」


「箱が目印になってる」

 ショウマは歯噛みし、結界を厚くする。

 杭の“溜まる器”を補助し、標の命令の端を無理やり引っ掛ける。


 次の瞬間。

 針の引っ張りが一瞬だけずれた。

 荷台から、地面の一点へ。


(……今だ)


「右だ」

 ショウマが叫び、狭い崖道へ荷車を入れた。


 馬が躓きかける。

 ショウマは結界で“滑る意味”を薄く殺し、足元を整える。


 背後で、聖圧が一段遠のいた気がした。

 影印杭が、追跡の“矛先”をほんの少しだけ引き受けた。


 稼げるのは――時間。

 それだけで十分だった。



 夜の終わりに近い時間。

 安全柵の地点に合流すると、影走り残隊が先に待っていた。


 捕虜の列は、ぎりぎり保っている。

 息を整えている者、目を閉じて必死に歩いている者。

 ここで止まれば起きられない。


 荷車が入った瞬間、捕虜の何人かが怯えた。

 箱の聖圧が、鎖場の記憶を掘り返す。


「……それ……」

 誰かが喉を鳴らす。


 レアが即座に前へ出る。

「見ない。今は見ない」

「歩ける者は歩く。座るな」


 ショウマは短く言った。

「これは教会の燃料だ」

「追跡と殲滅のための道具」

「奪ったのは止めるためだ」


 それ以上は言わない。

 今、説明しても列が崩れる。


 リュシエンヌが中段で上品に微笑む。

「まぁ。怖がらせてしまいましたのね」


 レアが冷たく落とす。

「お前が言うと腹立つ」


 ショウマは切った。

「腹立つのは後。今は処理する」



 羽音のない黒点が落ちた。

 連絡蟲。

 続いて、インセクターが二体、影のように現れる。


 エヴェリナの支援は早い。

 糸紡ぎ虫の繭。

 白い聖圧を“絶縁”するための包み。


 インセクターが、黙って糸を吐く。

 箱に糸が巻きつき、薄い膜が幾重にも重なる。


 聖圧が、少しだけ鈍った。

 空気の締まりが一段落ちる。

 息がしやすくなる。


「……効く」

 ショウマが言うと、レアも頷いた。

「完全じゃないけど、マシ」


 そう。

 完全遮断ではない。

 追跡は残る。針は刺さったままだ。


 だが扱える。

 扱えるなら、次が打てる。



 問題は一つ。

 箱を開けるか。


 レアは慎重だ。

「罠の可能性がある。開けるなら、準備が要る」


 リュシは上品に、別解を差し出す。

「元気な血があれば、封印を崩すのは早いですわ」

 目が、ちらりとショウマの手袋を見る。


 ショウマは即座に結論を置いた。

「吸血は許可制。今は許可しない」

「眷属化は禁止」


 リュシは貞淑に微笑む。

「ええ。従順ですわ」


 レアが低く言う。

「開けるの?」


「少しだけ」

 ショウマは答えた。

「中身確認が目的だ。全部は開けない」

「固定だけ弱める」


 必要な悪だけやる。

 それが線引きだ。



 ショウマは箱へ近づき、結界の膜越しに封印帯へ触れた。

 聖印が走る。

 祈りの導体。

 触れるだけで、肌がひりつく。


 《結界操作》。

 “封じる”の意味の端を削る。

 警報が鳴るほどは崩さない。

 固定だけ、弱める。


 封印帯が、わずかに緩む。


 その隙間から――因果が覗いた。


 濃い。

 濃すぎる。

 潰して固めたような線が束になっている。

 人の線。

 泣き声の残り香。

 叫びの温度。


 ショウマの喉が乾いた。

 熱くならない。

 冷える。


(……これが、聖骸核)


 視界の端で、二年三組に似た歪みが一瞬だけ混じった。

 名前は出ない。顔も出ない。

 だが“近い”。

 嫌なほど近い。


 レアが気配で察する。

「……何が入ってる」


「人だ」

 ショウマは短く言った。

「……人の残り」


 リュシエンヌの微笑みが、一瞬だけ獣寄りになる。

 匂いで理解したのだ。

 だがすぐ上品に戻す。


「まぁ。なんて、罪深い」


 ショウマは封印帯を戻した。

 今は全部を見ない。

 見た瞬間、ここで壊したくなる。

 壊せば列が死ぬ。


(壊すのは、今じゃない)



 その頃。

 教会側。


 セルベルトは祈りの間で声を響かせていた。

「魔族が聖なる核を奪いました」

「民を守るため、追討を」

「悪しき魔に連なる者どもに、赦しは不要です」


 被害を誇張する。

 恐怖を煽る。

 教義の火を焚きつける。


 しかし現場は違う。


 レオンは報告を受けても怒鳴らなかった。

 地図を見下ろし、淡々と言う。

「次便の護衛を倍にする」

「設営点を変える。定型に頼るな」

「奪われた箱を終点にして追える。……追跡を更新する」


 セルベルトが静かに言う。

「影は学習しました」


「ならこちらも学習する」

 レオンはそれだけ答えた。



 ショウマの側。


 針は刺さったままだ。

 箱を持つ限り、追跡は太くなる。


 だが捨てれば、教会がまた燃料にする。

 なら――燃料ごと流れを止める。


 ショウマは帳簿を開き、指で次の便の記述を叩いた。

 箱番号。予定日。護送。巡礼路。


「次を叩く」


 レアが短く言う。

「次便」


「次便だ」

 ショウマは頷く。

「奪うだけじゃ足りない」

「……流れを止める」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。派手になりそう」


「派手でも、やることは同じだ」

 ショウマは手袋を直し、低く言った。

「俺の悪は、教会に刺さる」


 絶縁繭に包まれた箱が、静かに聖圧を漏らす。

 追跡の針が、それに反応して微かに疼く。


 次は、追う側が更新してくる。

 だからこちらも更新する。


 次便を狩り、燃料の流れごと止めるために。

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