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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第38話 杭束を増やせ

 尾根のくびれ(鞍部)を離れた途端、胸の針が少しだけ楽になった。

 追う命令が、まだ“そこ”に吸われている。


 ショウマが列へ戻ると、捕虜たちは黙って歩き続けていた。

 レアが先頭で歩幅を整え、倒れそうな者の肩を支えさせ、列を“群れ”の形に保っている。


「戻った」

 レアが短く言う。


「ああ」

 ショウマは頷いて最後尾へ回り、結界を薄く張り直した。

 音と光の漏れを殺すだけの膜。

 今は戦うより、崩れないことが勝ちだ。


 中段でリュシエンヌが上品に微笑む。

「お帰りなさい、影の魔将殿」


「抑え最小限、守れてるか」


「ええ。血の香りも、我慢しておりますわ」


 レアの目が冷える。

「余計なこと言うな」


 リュシは貞淑に口元へ指を添える。

「本音を言っただけですわ」


 ショウマは短く切った。

「本音は黙って飲み込め。列が崩れる」


 正論で押し切る。

 それが一番早い。



 夜が少し薄くなり、空の端が灰色に滲む頃。

 胸の針が、ぐい、と一度だけ強く引かれた。


(……吸いが弱まった)


 影印杭は効いている。

 だが、永続じゃない。

 誰かが近づけば、杭は見つかる。抜かれる。壊される。


 レアも気づく。

「……戻ってくる」


「来る前に、もう一本取る」

 ショウマは結論を出した。

「杭束を増やす。巡礼路の骨を奪う」


 レアが頷く。

「列は?」


「列は進める。止めない」

 ショウマは中段を見た。

「リュシ。抑え最小限で列を守れ」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「はい。従順ですわ」


 レアが小さく舌打ちする。

 ショウマはそれを無視して、連絡蟲を指先で呼んだ。


 エヴェリナの線は早い。

 地図の写しに、細い分岐線が追加される。


――杭束運搬、谷筋通過

――護衛増(レオン命令)

――狭所あり、奇襲可


 ショウマは地図の点を指で押さえた。

 谷筋の狭所。

 人が通れば列になる。杭束を担げばなおさら詰まる。


「ここで狩る」


 レアが短く答える。

「無力化」


「殺さない。杭と聖具を奪う」

 ショウマは念を押した。

「時間も奪う」



 谷筋は湿っていた。

 岩壁が迫り、足場が細い。

 ここを通る隊は、前後に伸びる。横に広がれない。


 ショウマは結界を“狭く厚く”張った。

 壁ではない。迷わせる膜。

 足場の意味を薄くし、合図の意味を薄くし、距離感を狂わせる。


 レアが影になって先に入る。

 呼吸を殺し、気配を殺す。

 狙うのは護衛の目だ。


 やがて足音。

 松明の火が揺れて、列が見えた。


 運搬役が四。

 杭束を二人一組で担いでいる。

 護衛が――五。

 昨日までより多い。確かに増えている。


(レオン、仕事が早い)


 先頭の護衛が低く言う。

「急げ。次の設営点に間に合わせろ」


 その瞬間、レアが背後にいた。

 鼻口を抑える前に顎を固定し、肘を殺し、呼吸を奪う。

 意識が落ちる。倒さない。置く。


 次の護衛が反射で振り向く。

 ショウマは《結界操作》で“方向感覚”だけを抜いた。

 一歩が二度踏みになる。剣が空を切る。


 レアが滑り込み、同じように無力化。


 だが三人目は違った。

 合図を出す前に、腰の袋から小型の聖印杭を抜こうとした。

 可搬式。打ち直しが速い。


(設営班に持たせ始めたか)


 ショウマは弓を捨てて一歩踏み込み、結界を指先で叩きつけた。

 杭の“流す”意味だけを殺す。

 刺さりかけた聖印杭が、ただの棒になる。


 護衛が目を見開いた。

 その一拍で、レアが顎を取り、息を落とした。


 運搬役が叫ぼうとする。

 だが叫びは叫びのまま落ちる。

 ショウマが合図の意味を薄くしている。


 残りの護衛が詰めてくる。

 数が多い。押し切られると杭束を捨てる羽目になる。


 そこへ、夜が一段落ちた。


 リュシエンヌが、谷の入口に立っていた。

 列の護衛を任せたはずなのに、ここにいる。


 ショウマが眉を寄せるより早く、リュシが上品に言う。

「少しだけ。抑え最小限ですわ」


 紅い瞳が、護衛の踏み込みを止める。

 身体が冷える。心臓が一拍遅れる。

 夜の圧だ。


 ショウマは低く言った。

「……列は?」


「レアの部下が代わりに見ておりますわ。影走りの残りが合流しましたの」

 さらりと答える。

「あなたが決めた“勝ち筋”が崩れるのは、わたくしも嫌ですもの」


 護衛が動けない一拍の隙に、レアが三人目、四人目を沈めた。

 最後の一人は逃げようとする。


 ショウマは結界で“戻る道の最短”だけを殺す。

 一歩が迷い、二歩目で壁にぶつかったように止まる。

 そこでレアが無力化。


 谷筋が静かになった。



 杭束を確保する。

 聖印板も一枚、運搬役の袋から出てきた。

 巡礼路の簡易図と、設営点の刻印。


(……当たりだ)


 ショウマはそれを結界で包み、聖圧の漏れを抑える。

 持っているだけで目印になる道具だ。


 リュシエンヌがちらりとショウマの手元を見る。

「元気な血があれば、もっと楽に――」


「許可しない」

 ショウマは即答した。

「今は必要ない」


 レアが一歩、前に出る。

「必要になっても、勝手に噛むな」


 リュシは貞淑に微笑む。

「ええ。許可制、でしたわね」


 言い方が腹立つ。

 だが今は勝った。杭束も増えた。


 ショウマは地図の写しに、奪った聖印板の刻印を重ねて読んだ。

 次の中継点が見える。

 杭束の集積。祈祷具の補給。設営班の交代地点。


(ここが“血管”だ)


 背後で、胸の針がちくりと動いた。

 遠くで聖圧が揺れている。

 影印杭が見つかったか、近づかれた。


 ショウマはため息を飲み込み、低く言った。

「戻る。列を動かす」

「今夜稼いだ時間を、次に変える」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「巡礼を、追う側に回る夜ですのね」


「そうだ」

 ショウマは杭束を背負い直し、結界の膜を締めた。

「次は“杭を狩る”じゃない」

「杭の網を、抜く」


 谷の外で、遠くに白い灯が見えた。

 巡礼路が、また伸び始めている。

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