表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/71

第36話 影印杭(えいいんぐい)

 杭束は、重い。

 木や鉄の重みじゃない。

 聖印に刻まれた祈りの圧――“聖圧”が、肩から骨へ沈み込む。

 近づくだけで掌がひりつき、呼吸がわずかに浅くなる。


 ショウマとレア、リュシエンヌが影に戻ると、捕虜の列はまだ崩れていなかった。

 ただ、顔色が落ちている。

 寝不足と恐怖と、歩き続けた足。


 レアが列を見回し、短く落とす。

「座るな。立ったまま息を整えろ。座ると起きられない」


 捕虜たちは頷き、壁や木に背を預けた。

 誰も文句を言わない。言える余裕がないし、従うのが最短だと分かっている。


 ショウマは最後尾へ回り、結界を薄く張り直した。

 熱と音を薄く殺す。足元の意味を整える。

 列が転ばないようにするだけの結界。


 胸の針は、まだ刺さっている。

 追う線の粘りが消えない。


(……奪っても終わらない)


 ショウマが戻ると、レアが杭束を見て顔をしかめた。

「それ、ここで出すな」


 捕虜の何人かが怯えた目を向ける。

 聖具の気配に、身体が反射する。鎖場の記憶が疼くのだ。


「分かってる」

 ショウマは杭束を地面に置かず、結界の膜で包んだまま浮かせるように保持した。

「……これ、持ってるだけで目印になる」

「聖印杭は祈りを地面に流す“錨”だ。巡礼路(聖域帯)と共鳴して、聖力が寄る。つまり、標に掴まれやすい終点になる」


 レアが眉を寄せる。

「寄る?」


「司祭の追跡が“掴みやすくなる”って意味だ」

 ショウマは短く言った。

「だから奪った。だから危険だ」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。爆弾ですのね」


「近い」

 ショウマは頷いた。



 羽音のない黒点が落ちてきた。

 エヴェリナの連絡蟲。


 指先に乗り、すぐ落ちる。

 地図の写しに、糸みたいな線が追加され、さらに小さな文字が滲んだ。


――杭、聖力漏れ強

――糸紡ぎ虫、絶縁繭で隔離可

――改造案:流す→溜める(吸う)


 ショウマは文字を追い、口角がほんの少しだけ上がった。

「……速いな」


 レアが覗き込む。

「絶縁繭?」


「蟲の糸で包んで、聖力の漏れを鈍らせる」

 ショウマは即答する。

「それと――」


 指先で「改造案」をなぞる。

 流す→溜める。吸う。


(吸わせる)


 線は消せない。

 なら、落とす場所を作る。

 追う命令の“終点”を、人間じゃなく杭へ寄せる。


 ショウマは結界の膜越しに杭束を見下ろした。

 聖印が走っている。

 祈りを“通す”意味が深く刻まれている。


(これを、逆にする)


 リュシエンヌが、ちらりとショウマの手元を見る。

 手袋。

 指先。

 血の気配を探る目だ。


「元気な血があれば、もっと綺麗に――」


「使わない」

 ショウマは即座に切った。

「今回は結界だけでやる」

「吸血は許可制だ」


 レアが短く追い打つ。

「当然」


 リュシは貞淑に微笑む。

「ええ。従順ですわ」

 従順の笑み。だが目は夜。


 ショウマはそれを無視して、結界を薄く杭へ触れさせた。

 “触れる”のではない。“意味”に触れる。

 刻まれた命令を読み、形を掴む。


 流す。

 通す。

 固定する。


(なら、溜める)

(吸う)

(落とす)


 結界の膜を、ほんの少しだけ捻る。

 杭の“通る意味”の端を削り、“溜まる意味”の器を作る。


 その瞬間、胸の針が――わずかにずれた。

 引っ張りが、まっすぐじゃなくなる。


 ショウマは息を止め、確かめる。

 針がまだ刺さっているのに、方向が曖昧になる。


(……効く)


 レアが顔を上げた。

「今、揺れた」


「ああ」

 ショウマは頷く。

「吸わせた」


 リュシエンヌが上品に口元へ指を添えた。

「まぁ。影が聖力を飲む」


「名前が要るな」

 ショウマは低く言った。

「作戦会話で毎回説明するのは面倒だ」


 レアが即答する。

「じゃあ、何て呼ぶ?」


 ショウマは一拍だけ考え、言い切った。

影印杭えいいんぐい


 影の印を刻んだ杭。

 聖印杭を、影の受け皿に変えた杭。


 レアが短く頷く。

「覚えた」


 リュシが微笑む。

「素敵。あなたらしい」



 連絡蟲がもう一度、地図に糸を落とした。

 聖域帯が通る定型ポイント。

 林の入口。鞍部。谷の分岐。


 ショウマはその中の一つを指で押さえる。

 尾根の鞍部。

 通らざるを得ない地形。迂回すると大回りになる場所。


「ここだ」


 レアが頷く。

「置きに行く」


「置く」

 ショウマも頷く。

「置いて、吸わせて、足を止める」

「その瞬間に、列をさらに遠ざける」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「巡礼を迷子にする夜ですのね」


 ショウマは結界の膜で杭束を包み直し、聖力の漏れを抑えた。

 絶縁繭が来るまでの仮封。

 それでも危ない。だから短期決戦だ。


 胸の針はまだ刺さっている。

 だが今は、初めて“ずらせる手段”がある。


 ショウマは手袋を直し、低く言った。

「……次は追われるんじゃない」

「追跡を、こっちが使う」


 影印杭を置きに行く。

 巡礼路を、影の罠に変えるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ