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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第35話 杭設営班を狩れ

 白い灯が、森の縁を舐めるように伸びていた。

 巡礼路。臨時の聖域帯。

 追う線が“道”を持った瞬間、逃げる側は一段不利になる。


 だから――奪う。


 ショウマは地図の写しを指で押さえた。

 エヴェリナの連絡蟲が落としていった更新線が、白い列とは別に細く分岐している。


「杭設営班、こっちだ」


 レアが頷く。

「護衛は?」


「少数。けど練度はある」

 ショウマは淡々と言った。

「狙うのは人間じゃない。杭束と聖具だ」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「まぁ。道具だけ奪うなんて、随分お優しい」


 レアの目が冷える。

「優しいんじゃない。必要だから」


 ショウマが短く切る。

「喧嘩は後。行くぞ」



 夜。

 捕虜の列は、岩陰の“安全柵”の内側に寄せて置いた。

 ショウマの結界が、熱と音と光の漏れを薄く殺している。


 レアが最後に確認する。

「動くな。喋るな。起きてろ」


 捕虜たちは頷くだけだった。

 命令じゃない。生き方の指示だと理解している顔。


 ショウマとレア、リュシの三人は、そこから影へ出る。

 蟲が先導した。羽音のない黒点が、木々の間を滑るように移動していく。


 しばらくして、森が開けた。

 低い丘。小さな広場。踏み固められた土。

 ここが“定型の杭打ち地点”だと、空気が教えてくる。


 白が濃い。

 祈りの残り香。

 そして、鉄の音。


 松明が二つ。

 人影は六。うち二人は聖騎士装備、残りは軽装。

 軽装の背には、長い杭束が括り付けられている。


 杭設営班。


 ショウマの因果視界に、線が見える。

 杭束から地面へ、細い白線が伸びかけている。

 “これから道を作る”線だ。


「今打たせると、追跡が太くなる」

 ショウマが低く言う。


 レアが短く答える。

「止める」


 リュシが上品に囁く。

「殺さない、ですね」


「殺さない」

 ショウマは一言だけで釘を刺した。

「余計なこともするな。眷属化は禁止」


 リュシは貞淑に微笑む。

「ええ。従順ですわ」


 言い方が腹立つが、今は使える。



 まず護衛の二人。

 近い方の聖騎士が周囲を見回し、合図を出しかけた。


 その瞬間、レアが背後にいた。

 鼻口を抑える前に、顎を先に固定する。

 肘の動きを殺し、呼吸を奪う。


 短い抵抗。

 意識が落ちる。


 倒さない。置く。

 草の上へ、音なく寝かせる。


 もう一人が気配で振り向く。

 ショウマが《結界操作》で“方向感覚”だけを殺した。

 相手は一歩踏み出し、同じ場所を二度踏む。

 自分がどこを向いているか分からない。


 そこへレア。

 同じように無力化。


 護衛が消えた。

 残り四人――軽装の設営員たちは、気づいていない。

 杭束を下ろし、聖印杭を一本ずつ並べ始めている。


 祈祷役らしき男が、小さな聖印板を取り出した。

 セルベルトほどの格じゃない。だが“道を伸ばす係”だ。


「急げ。夜のうちに二本だ。標が追っている」


 その言葉で、ショウマの胸の針がちくりと動いた。

 追跡の中心が、もうここへ寄ってきている。


(やっぱり、追う側は早い)


 ショウマは息を吐き、弓を構えた。

 矢は一本。狙いは人間じゃない。


 杭束。


 矢が縄を射抜いた。

 束が崩れ、杭が二本転がる。


「何だ!?」


 設営員が振り向く。

 その瞬間、ショウマは《結界操作》で“合図が届く意味”を殺した。

 叫んでも、叫びは叫びのまま落ちる。


 レアが影になり、近い二人を“呼吸を奪う”形で落とす。

 倒さない。置く。


 残り二人が杭へ飛びつこうとする。

 ショウマは結界で“掴む”の意味を薄く殺した。

 手が滑る。焦りが増える。


 その一拍の隙に、レアが三人目を無力化。

 最後の一人は祈祷役で、聖印板を握りしめたまま震えている。


 リュシエンヌが一歩だけ近づいた。

 斬らない。触れない。

 ただ、紅い瞳で見下ろす。


 男の膝が、ふっと落ちた。

 恐怖で腰が抜けたのではない。

 夜の圧で、“踏ん張る意味”が削られた。


 ショウマが短く言う。

「動くな」


 男は頷いた。

 汗が垂れる。


 リュシが上品に囁く。

「噛みませんわ。……たぶん」


「たぶん禁止」

 ショウマは即答した。


 レアが吐く。

「禁止って言って」


「禁止だ」

 ショウマは言い直す。


 リュシは微笑む。

「はい」



 ショウマは祈祷役の男の前にしゃがみ、聖印板を指先で弾いた。

 結界で“握る意味”を殺す。

 板がぽろりと落ちる。


「お前らの仕事は、杭を打って道を伸ばすことだな」


 男は震えながら頷く。


「杭はどこから出てる。補給はどこだ」


 男は口を閉ざしかけた。

 だが、ここで嘘をついても意味がないと悟る顔になる。


「……後ろだ。二つ先の中継に、束がある。運搬は交代制だ」


 ショウマの因果視界で、線が小さく揺れる。

 本当だ。致命の嘘ではない。


「杭を打つ“定型”は?」


「道、広場、林の入口……祈りが通る線の上」


 それは捕虜の言っていた内容と一致する。

 情報が重なった。確度が上がる。


 レアが短く言う。

「時間」


 ショウマも頷く。

 長居はできない。ここが荒れればレオン隊が寄る。


「お前は気絶してろ」

 ショウマは結界で“意識を保つ意味”を薄く殺し、男を眠らせた。


 殺さない。

 線引きは守る。



 奪う。


 ショウマは杭束の残りを持ち上げようとして、顔をしかめた。

 白が熱い。

 掌にじわりと焼ける感覚が来る。


(聖印杭、素手で持てる代物じゃないな)


 即座に《結界操作》。

 杭の“熱い”という意味を削る――のではなく、熱が触れる“接触”の意味だけを薄く殺す。

 直接触れなければ焼けない。


 杭束を、結界の膜で包む。

 白い道具を、影が抱える形になる。


 リュシエンヌが目を細めた。

「まぁ……あなた、器用」


「褒めてる暇あったら周囲見ろ」


「ええ」

 上品に返して、ちゃんと見ている。


 レアが杭束の一端を担ぐ。

 顔は不機嫌だ。

 だが不機嫌でも仕事はする。


「重い」


「白の重みだろ」

 ショウマは短く言った。

「今だけ我慢しろ」


 三人は影に戻る。

 広場の松明が、背後で小さく揺れる。


 倒した護衛と設営員は生きている。

 だが杭は消えた。

 道は伸びない。



 森を抜ける途中、ショウマの胸の針がまた動いた。

 遠くで白がざわつく。

 巡礼路が“引っ張り直される”気配。


(気づくのが早いな)


 レアが短く言った。

「追ってくる?」


「来る」

 ショウマは即答する。

「でも今夜は十分だ。一本奪えた」


 リュシが上品に微笑んだ。

「一本で、足りるの?」


「足りる」

 ショウマは杭束を見下ろす。

「一本でいい。仕組みを知れる」

「次は“道”を逆利用する」


 レアが頷く。

「エヴェリナに渡す」


「そうだ」


 リュシエンヌがちらりとショウマの手元を見る。

 血の匂いはしていない。今日は作戦用の一滴すら使っていない。

 それが気に入らない目だ。


 レアが即座に刺す。

「見るな」


 リュシは貞淑に笑う。

「見ていませんわ」


 ショウマはため息を飲み込み、短く言った。

「……帰る。列を動かす」


 今夜は勝った。

 追跡の“道具”を奪った。

 だが巡礼は終わらない。


 白い列が、必ず追ってくる。

 だから次は――追う側に回る準備をする。


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