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世界に二度殺された俺は、“悪”として全部ぶっ壊す 〜自分以外のクラス全員光の使徒になったので、魔王軍の幹部になりました〜  作者: 安威要


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第34話 撤退行軍と、巡礼の再点火

 勝ったのに、苦しい。

 夜明け前の空気は冷たくて、列の足取りは重い。


 捕虜たちは走れない。走らせない。

 それでも、勝利条件は達成した。

 確認できた捕虜を連れて、狩場を抜けた。


 だから今は――崩れる瞬間が一番怖い。


 先頭でレアが歩幅を落とし、短く落とす。

「速くしない。揃える。歩ける者が支える」


 隣の者が、震える肩を抱く。

 倒れそうな者の腕を取る。

 列は“群れ”になって進む。


 ショウマは最後尾で結界を薄く張り続けた。

 合流を殺す。最短を殺す。

 伝令が通る意味を殺す。


 だが結界の縁が、時々、白く汚れる。

 昨日より多い。

 針が、胸の奥で動く。


(まだ繋がってる)


 リュシエンヌは中段を歩き、捕虜の列を見渡していた。

 上品な微笑みは崩れない。

 ただ、夜の圧が少し薄い。反動が響いている。


「……疲れましたのね」

 ショウマの指先を、ちらりと見る。


 レアの視線が刺さる。

「見るな」


 リュシは貞淑に口元へ指を添える。

「見ただけですわ」


 ショウマは短く言った。

「今は揉めるな。列が崩れる」


 正論で押し切る。

 それが一番早い。



 小休止。

 岩陰に列を寄せ、呼吸を整える。


 水袋を回し、乾いた喉へ少しずつ流す。

 泣きそうな顔が、少しだけ落ち着く。


 その時、捕虜の中の一人が口を開いた。

 他より姿勢がまだ保っている。指先に豆がある。

 重い物を運ぶ側の手だ。


「……あんたら、鎖場を壊したんだろ」


 声は掠れているが、言葉は整っている。

 ショウマが視線だけで促す。


「知ってることを吐け。短く」


 捕虜は頷き、三つだけ落とした。

「赦しの作業院は……点在してる」

「巡礼杭を打つ場所は、だいたい決まってる。道、広場、林の入口……“祈りが通る線”の上だ」

「杭を打つ班がいる。司祭だけじゃない。工兵みたいな連中だ」


 レアが眉を寄せる。

「杭設営班」


「そうだ」

 捕虜は唾を飲む。

「連祷堂が止まっても……巡礼路を作れば追跡は続く。杭と祈りで、臨時の聖域帯を伸ばす」


 ショウマの中で、嫌な形が一つに繋がった。

 逃げ続けるほど不利になる。

 敵は“仕組み”で追ってくる。


「……助かった」

 ショウマは短く言って、水袋を戻した。



 遠く。

 白い列の後方で、セルベルトが聖印板を見下ろしていた。


 巡礼の聖標が、淡く脈打つ。

 消えない。

 むしろ、次の形へ移っている。


 レオンは歩きながら、声を落とした。

「目的地を塗り替えられた。なら、目的地を増やす」


 聖騎士たちが小型の杭束を背負っている。

 可搬式。

 打ち直しが速い。設営が速い。


 セルベルトが静かに言う。

「標はまだ繋がっています。……次は血に寄ります」


 レオンは頷く。

「なら追う」


 巡礼路は、作り直される。

 影が逃げるほど、白は伸びる。



 ショウマの側。


 休憩を終え、列が動き出した瞬間だった。

 胸の針が、急に強くなる。


 ぐい、と引かれた。

 方向が分かる。

 敵が“どこへ”伸ばしてきたかが分かる。


(……再点火)


 結界の縁が白く汚れ、意味殺しが鈍る瞬間が増える。

 いつもなら空振りするはずの“最短”が、少し通る。


 ショウマは歯噛みする。

 逃げ続けたら追い詰められる。

 列が遅い限り、必ず追いつかれる。


(次は、杭を壊す)

(いや――)


 壊すだけじゃ遅い。

 敵は打ち直す。可搬式だ。

 なら奪う。仕組みを奪って逆に使う。


 レアが横に並び、短く言った。

「針、強くなった?」


「……ああ」


 レアは即座に結論に飛ぶ。

「血を使うなら、見せない。隙を作らない」


 リュシエンヌが上品に微笑む。

「見ていませんわ。……ただ、必要なら協力しますの」


 レアの目が冷える。

「協力って言い方が嫌」


 ショウマは一度、足を止めさせた。

 列の先頭へ手を上げ、レアに合図を出す。

 レアが列を止め、捕虜を座らせる。


 ショウマは二人へ、短くルールを置いた。

「血は作戦用だ」

「リュシの吸血は、俺の許可制」

「戦闘中の暴走は禁止。眷属化も、俺の許可が要る」


 リュシエンヌは微笑む。

 従う笑み。だが夜の目。


「ええ。影の魔将殿」

「許可をいただけるよう、努めますわ」


 レアが吐く。

「言い方が腹立つ」


「腹立つのは後」

 ショウマは短く切った。

「今は生き残る」



 羽音のしない黒点が落ちてくる。

 エヴェリナの連絡蟲。


 地図の写しに、糸みたいな線が追加される。

 追手の進路。速度。設営隊らしき分岐。


 そして、小さな文字が一つ、浮かぶように滲んだ。

 エヴェリナからの提案だ。


――糸紡ぎ虫、足跡偽装可

――小型斥候で杭設営位置、逆探知可


 ショウマは地図を見下ろし、息を吐いた。

「逃げじゃないな」


 レアが頷く。

「狩り」


 リュシエンヌが微笑む。

「まぁ。あなたらしい」


 遠くに、白い灯が見えた。

 巡礼路が伸びてきている。

 追う線の“応答”が、空気を白く締める。


 ショウマは弓を握り直し、低く言った。

「次は杭を折るんじゃない」

「……杭を奪う」


 列を守る。

 そのために、追跡の仕組みを狩る。


 影は、追われる側から追う側へ回る。


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