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第8話『天候術師と魔術師シズク』


 「やぁ、お嬢さん。こんな時間に何してるの?」


 「何よ……ナンパ!?悪いけど私今はそんな暇ないんだから!」


 ──勘違いされている。


 どうして僕が、君をナンパしなくちゃいけないんだ。怪しいから声を掛けただけなんだけどね。まぁ、お互い様だし、警戒してるってのが正しいのだけど。


 そんなこと言う割には、何で照れているんだ。勘違いした上に、まんざらでもないってことでしょうか。


 あまり関わると勘違いが増してマズそうだし、早々に理由を聞いて宿に戻ろう。僕は、そう決断したのでした。


 「どうして君みたい可憐な女の子が深夜に歩いているんだい?もう夜も遅い……帰った方がいいんじゃないか?」


 「初対面で可憐な女の子呼びですって!ごめんなさい、まだ私あなたのことはよく知らないの。友達からでもいいかしら?」


 告白してフラれたみたいになってるー!


 この女の子は、何を考えているんだ。勘違いが加速して、いけない方向に突っ走っているじゃないか。


 可愛いなとは思ったけれど、まさかここまでの事態になるなんて、予想もしてなかったんだ。


 勘弁して欲しい。


 何で恥ずかしがっているの?


 恥ずかしいのは、僕の方なんですけどね。


 訂正するのもメンドーだし、話しを戻すことにした。何か目的があって来たに違いない。僕はそれが聞きたいのです。


 「まだ帰れない。この都の皇女殿下に会うまでは」


 「なるほど……この都の領地主は皇女殿下だったんだね。何か用でも?」


 「──私の村……カミスイ村の水源を取り返すのよ」


 それは非常に宜しくない状況だ。カミスイ村、僕達は明日その村に向かうつもりなんだ。その村人が、こんな目立つ行動をしようものなら、テラスの計画が水の泡となる。


 この暴挙を見逃す訳にも行きません。僕は、どうにかその少女を説得して、今日の襲撃を辞めさせないといけない。


 救えるものも救えなくなるし、このまま城内へ侵入出来たとして、この城には数千の兵士がうじゃうじゃいるんだ。


 ただの無駄死にになってしまうし、そんなくだらない事で死んで欲しくはないのです。どうにか穏便に済ませよう。


 「今日は、無駄ですよ。行くなら明日にしなさい。今は集会で兵士が数万といます。明日なら手薄になる筈なんで、狙うならその方がいい」


 「……なんだ。あなた優しいじゃない。名前はなんて言うの?」


 「魔術師クウ・スコライズです。そりゃ、どうも。無茶はしないで下さいよ」


 「分かったわ。私は見習い水属性魔術師のシズクよ。機会があったら覚えておく。今日は……ありがとう」


 ──勿論……嘘である。


 でまかせを言って立ち去ってくれたから、まぁ良しとしておきましょうかね。どうせ、明日はカミスイ村に行くんだ。シズクとも会うでしょう。


 計画の邪魔をされると困るので、明日にはシズクに事情を説明しておこう。


 説明して分かってくれるかな。勘違い系美少女に上手く伝えられるかが僕にとって一番の不安でしかありません。


 今日のところは、宿に戻り、僕は就寝するとこにした。相変わらず、イズナに殴られて眠れなく、気がつけば早朝になっていた。


 それまで、僕は一睡も出来なかったんだ。寝不足で倒れそうだったけど、テラスやイズナと共にカミスイ村に向かうことにしたのです。


 「クウ、何よそれ。昨日は眠れ無かったの?」


 「魔獣に襲われて、勘違い系の女の子に振り回されていたんだよ。一睡も出来なかった。あんなにもの分かりが悪い人、僕初めて見たよ。そして、あんなにも殴られるなんて思いもしなかった」


 「クウ様ダメなのです!睡眠は大事なのですよ?」

 

 睡眠を妨害した魔獣は、君のことですよ妖狐族のイズナさん。こんな純粋無垢に言われてしまったら、怒るにも怒れないじゃないですか……。


 睡眠不足は多少堪えるけど、カミスイ村の訪問で支障をきたしたらマズいですからね。眠いのを我慢して、しっかりと努めを果たしましょう。


 「そう、悪夢を見ていたのね。クウにも、怖いものがあるだなんて意外だよ。今日はしっかり寝れるように、私も協力するわ!」


 「はは、僕はテラスも怖いんだけどね」


 「──何か……言った?」


 「いえ、何もございません。さぁ、出発しましょう。村の様子も気になりますからね。死人が出ているかもしれない。先を急ごう」


 水の都アトランティアを旅だった僕達は、その隣にあるカミスイ村に向かうのだった。


 村の水源を根こそぎ奪う、そんな連中を許していい筈もない。今を生きる飲み水すらない状況であれば、事態は更に深刻になるだろう。


 僕達がそれを止めてみせよう。少なくとも、その役目はシズクにさせてはならないんだ。


 あの瞳は、死を覚悟してきた眼、そのものだった。彼女も自分の村を護る為に夜中を狙って忍びこんだんだろうね。


 そんなくだらないことで、死なせてたまるか。例え成功して、皇女殿下を暗殺したとこで、シズク自身、何にも救われないじゃないか。


 それは、僕達の役目である。誰も不幸になんかさせないし、悲しみの涙なんか流させやしない。


 ──それを僕は胸に秘めて、この都で何が起こっているのかを村人に聞きたいのだ。僕に出来ることなら、何だってしてみせるのだから。

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