第15話『天候術師、勇者と再会する』
「やっと隣街の宿屋に着いたね。イズナが疲れているしテラスは一緒に部屋を借りて来てくれ」
「やっと野宿生活が終わるのね……。長い道のりだったわ。クウも早く部屋に荷物を置いて来てよね」
エルフの森がまだ遠くて僕達は、一時的に近くの街で休息を取ることにした。長きに渡る野宿生活は、本当に過酷でした。
夜通しモンスターの襲撃にも遭うし、シズクが騒ぎ出すで面倒極まりない。現状、シズクがこの場に居ない訳なんですが、それにも理由があります。
あれ?何でしたっけ。
よく覚えてないんですよね。どうしてシズクが居ないのかを考えようとしましたが、考えるだけ無駄ですね。
僕は、考えることを放棄した。
「ちょっと師匠……何で置いて行くんですか!?大変だったんですよ!?」
「遅かったねシズク。どこで何してたんだい?」
「師匠がモンスターの群れを惹きつけろって言ったんでしょ!忘れたんですか……」
半べそをかいているシズクが妙に可愛くて、申し訳ない気分になってしまいました。とりあえず惚けてみるけど、罪悪感が込み上げて来ます。
シズクがモンスターを惹きつけてくれていたから、僕達はこうして安全にこの街に来れたのです。
慰めておかないと後が怖いので、精一杯の謝罪をしておこう。拗ねていないと良いのですが、どうでしょうね。
扱いが雑だっただけに、僕はシズクに恨まれていそうなんで不安が隠せませんでした。
「酷いですよ……。こんなに頑張ったんだから褒めて下さい!」
デレて来たぁー!
我が弟子ながら僕のツボを抑えているなんて……。
とんでもない美少女です。
褒めろと言うのなら仕方ないですね。
しっかりと甘やかしてやりましょう。
ご褒美がいるって言うなら、僕が出来る最大限で与えようと思うんだ。
かと言って、甘やかし方なんて僕は知らないぞ。こうなれば本人に直接聞くことにした。
「具体的にはどうしたらいいんだい?」
「頭を撫でて下さい!」
「はぁ……。これでいいんだろうか」
「師匠……最っ高です!ありがとうございました。これで元気になりましよ!」
うちの弟子はチョロかった。
あれで良かったのだろうか。
シズクの顔が赤くなっていたけど、体力不良だったのかもしれませんね。そういう事にしておきます。
シズクが帰還した事により、テラスとイズナの部屋で合流を果たし、僕達は宿屋の食事を取る事にした。
久々のまともな食事です。みんなの労いも込めて、この場は楽しむことにしましょう。
「ご馳走ですー!クウ様ありがとうなのですよ」
「イズナ、いっぱいあるからゆっくり食べるんだぞー」
「クウはイズナを溺愛し過ぎでしょ!もっと私にも可愛いって言ってよ!」
「別にそうでもないだろ。ってか、テラスにだって僕はちゃんと普段から可愛いって言ってるじゃないか」
「ちょっと、それは内緒でお願いします……」
照れないでくれ。
僕まで恥ずかしくなるじゃないか。
こうして、普段通りの食事をしていたんですが、ある四人の乱入者により、この温かい雰囲気をブチ壊されたのです。
二度と会いたくなかったのですが、向こうから現れたのなら回避も出来ません。突然の事で僕もキョトンとしてしまったけど、僕の想像の上を行く発言をされて困惑した。
「──探したぞクウ・スコライズ!」
「勇者様!?どうして僕を探していたです?」
「とぼけるなよ!お前が俺らに嫌がらせをして変な魔術を施したんだろ!」
勇者と会ってしまったから驚いたのではない。その容姿があまりにも酷く、醜くなっていたので驚いたんだ。
鎧は全て外されているし、ローブもボロ布を被っている。
かつて、同じ冒険をしていた勇者様とは、別人であるかの風貌をしていたのです。
「僕が魔術を使えないことぐらい知ってましたよね?そんな大それた魔術が使える筈ないじゃないですか。言いがかりですよ」
「うるさい!お前が抜けてから魔物の戦闘でも勝てなくなって……。終いには金も底を尽き貧乏生活なんだよ。どうしてくれるんだ!」
人のせいにするなんて、けしからんですね。そんなことを言われたって、僕は全くの無関係である。
僕がいなくなってからって話しだし、天候術のバフが切れた頃なのでしょうが、僕は勇者様達に追放された身です。
言われる筋合いなど、持ち合わせてはいない。
追い返したいが、何だか可哀そうで言いづらいんですけどね。そうも言っていられなかったんだ。
「何だよツレがいたのか。俺らにかけた魔法を解除しろ。さもないとクウの可愛い仲間達を痛ぶってしまうかもしれないな!」
「な、何するですか!?離せです!」
イズナが勇者様に捕らえられてしまい、テラスやシズクは残りの勇者様に武器を突きつけられてしまった。
──僕だけが狙いなんだろ。
関係のない僕の仲間を人質に取り、取引をしようだなんてゲスのすることだろう。
基本はこんなにも怒ることもないんですが、この時だけは違ったのです。それほどまでに、感情を昂らせるなんて自分でも思わなかったんだ。
気がついたら僕は、勇者様四人を杖一本でブッ飛ばしていた。
「──僕の仲間に……触れるなぁ!!!!」
四人まとめて、宿屋の外まで飛ばしてしまっていて、僕自身ですら困惑していたんだ。
殴るつもりだった訳じゃない。
だけど勇者様は、僕の大事な仲間を傷つけたんだ。
感情が先に出てしまっただけ。
それだけならまだ良い。
たった一瞬だけでも、僕は殺気を出してしまった。
もう表に出さないと誓ったドス黒い心。
ソイツを呼び戻したのは、いつ振りでしょうね。
きっと、国王に拾われる前であろう。
僕は悪魔ではなく、人でありたいんだ。
それは、凄く怖いことだから。
もう金輪際、この感情はしまっておこうと誓ったんです。
シラけてしまった場に僕は、軽く謝罪をして仲間の元に向かいました。派手にやってしまったし、テラスにも怒られるだろろうね。
渋々、席に戻るとテラスが満面の笑みで僕に顔を向けてきたのです。
「クウ……おかえり」
「ごめんねみんな。せっかくの食事が台無しだ。また、改めて……」
「凄いですよ師匠!勇者四人を杖一つで片付けるなんて……さすが私の愛した師匠です!」
「クウ様ありがとうなのです。死ぬかと思ったのですよ」
怖がらせてしまったかもしれないと思ったのですが、拍子抜けしてしまいましたよ。
隠してる自分を見せるのは、あまり好きじゃなかっただけあって、僕は安堵したんです。
そうだとしても、僕は大好きな仲間を護れたことを良かったと喜ぶことにしたんだ。
勇者騒動を終えて、みんなで部屋に戻ろうとしたが、シズクに呼び止められて二人きりという状況になっていた。
やはり、さっきの僕の行動が気になったのでしょう。
シズクにはしっかりと聞かれたことについて、真摯に答えようと思います。僕の大切な仲間として、たった一人の弟子として。
「師匠……なぜあんなに強いのですか。普通は勇者に魔法も無しで敵う筈ありませんよ?」
「普通じゃないんですよ。そう……普通じゃない。ただ言葉を覚えるよりも先に殺しを覚えるしかなかった。そんな哀れな悪魔だったんだ」
それ以上は、何も聞かれなかった。
軽蔑したでしょうかね。
シズクに顔を向けると、ただ真っ直ぐ、真剣な眼差しで僕を見つめていたんです。それは軽蔑の眼ではなく、心情のこもった優しい瞳だった。
「もう話しは無さそうですね。明日はエルフの森に到着出来るでしょうし、ゆっくり休んで下さい」
「……私は師匠の強さや優しさにも惚れているんですよ。自分を蔑まさないで下さい。今日の自分を誇りに思って下さい。師匠は、誰かを幸せに出来る魔術師なんですから」
それだけ言ってシズクは、自室に戻って行った。
誰かを幸せに出来る魔術師か。
もし、そんなものがあるのなら僕はそんな存在になりたい。
手が届くかは分からないけれど、憧れていたんです。
天候術が、人を幸せに出来る魔術になるとね。
シズクなんかに励まされて若干悔しいけど、それ以上に心が軽くなった気がするな。気を抜いたら、塞ぎ込んでしまいそうだったので少しは助かったのです。
──勇者騒動の果て。
──僕はまた悪魔になろうとしていた。
それを救ったのは弟子であるシズクだ。大して僕の過去を聞くことはしなかったけど、僕の魔術は誰かを幸せにすると言ってくれたんです。
もしそんなことが出来るなら、僕は人を幸せにする為の明日が欲しい。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、『ブックマーク』と下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!
※感想、レビュー等、お気軽にお願いします。




