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第11話『天候術師とシズクの覚悟』


 「まさか……正面突破するつもり?」


 「問題があるんですか?」


 「あるに決まってるでしょ。兵士が何人も構えているのよ!?」


 シズクに怒られてしまいました。


 君もそうしようとしてたじゃないか。


 もう城門前だってのに、わがままが過ぎますね。もう兵士に見つかっていますし、引くに引けないんだ。


 勿論、僕達は普通に歩いて、皇女殿下の元まで行きますよ。


 誰も殺さず、被害の出ないやり方です。


 誰にも見られないよう、僕は天候術を行使した。


 ────天候術式・ヤミノゲンム。


 「な、なんだ!視界が真っ暗で何も見えないぞ。侵入者の仕業か!」


 目が見えなくなった兵士達は、大慌てで混乱しています。


 行動を制限させたのでこれ以上、攻撃もされません。さっさと先を急ぎましょう。シズクにバレると、説明がメンドーだからね。


 きっと、兵士達が狂っているようにしかシズクは思わないんだろうが、それでよいのです。


 難なく正面突破した僕達は、順調に場内に侵入し皇女殿下の待つ王室へ向かって行った。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 「どうなっておる!何故に侵入者が捕まえられんのだ!」


 「どうやら、視界を奪われているらしいのです。他の兵士を用意しますので暫しお待ちを……」


 「──もうその必要はありませんよ皇女殿下」


 「なっ……!お前達か、侵入者とやらは……!」


 会話の途中で割入ってしまって何か申し訳ないけれど、どうやら僕達は、皇女殿下の待つ王室に辿り着くことがでした。


 邪魔者を排除出来なくて、焦っていたところでしょうか。


 僕相手じゃ、まぁこんな所でしょう。


 兵士を何万集めたところで、僕にはそれが通用しない。


 どうせ、何したんだか分からないんだろう。僕達を城内に入れてしまった時点で、皇女殿下はもう詰んでいる。


 それすら分かっていない皇女殿下は、僕達に敵意を剥き出しにして、罵り始めるのだから滑稽なものです。


 「ガキが複数にカミスイ村の共々か。何しに来よった虫ケラが!死に急いでいるらしいな。妾を知らん訳ではないだろう。妾の魔術で殺されたいか!」


 「いえいえ、僕達は話し合いに来たのです。僕は魔術師クウ・スコライズ。カミスイ村の水源を返して頂いたく参上致しました」


 「チッ!そのローブは宮廷魔術師か。馬鹿を言うでない。まるで泥棒のような言い草だな。新米魔術師が!これは正当な対価だ。その変わり、その虫ケラの村を魔獣から救っている」


 ──否……それは嘘である。


 間違いなく、魔獣を放っているのは皇女殿下だ。その証拠を突きつけてやろう。歪む顔を思い浮かべると、僕も多少はスッキリしそうですね。


 勿論、話し合いなんて建前だ。逆上して僕達を襲い始めるだろう。その時、悪事が露呈した皇女殿下を取り押さえて、穏便に水源を取り返す。


 民を苦しめた報いを受けるがいい。


 自分の罪に溺れてさせてやる。


 「皇女殿下、実は魔獣を連れて来たのです」


 「まさか、それは──」


 村人の前で見せつける意味があったんだ。昨日、討伐した魔獣を皇女殿下の前に僕は差し出したのです。


 すると、その魔獣は液状化し、皇女殿下の手に吸い込まれて跡形もなく消え去った。


 水をスライム化して、魔獣に見立て村人を襲っていたんだ。


 証拠を残すのがマズイから、兵士達に討伐させて証拠隠滅を測ったのだろう。僕にバレちゃって、運が悪かったですね。


 そのスライムは、術者の元へ戻り消え失せた以上、庇いようもない決定的な証拠を突き付けることが出来ました。


 後は、村人次第です。その後の判断は任せましょう。


 「よくも騙して水源を奪ったな!俺達の水源を返しやがれ!」


 「うるさい奴らじゃ。もうよい……貴様らは皆殺しだ」


 ──スパイラル・ウォーター!


 螺旋状の細い水の束を複数放出して、ゴミでも見るかの様な眼で村人達を殺そうとしてきたんだ。


 真っ先に動いたのはシズクで、村人を護ろうと水魔法で応戦している。


 水魔法使いの戦闘が始まりとりあえず僕達は、被害が出ない様に少し下り行く末を見護ろう。


 「クウ……後を頼んでいい?あの女は絶対に許さない。私の大切な人達を騙し……虫ケラ呼ばわりするアイツは何が何でも倒してみせる!」


 「行っておいで。シズクの気が済むまで真っ直ぐに。自分の想いに決着をつけるといいよ。僕は黙って見ておくから、あんな汚い泥水なんかシズクの美しい魔法で打ち消けせばいい!」


 「う、美しいって……。なにそれプロポーズ!?まだ段階が早いって言うか、まだデ、デ、デートだってしてないのよ!」


 「誰もそんなこと言ってないだろ!村人達は気にせずに魔術を使って下さい」


 勘違いは、ブレないんですよね。どう間違ったら、あんな解釈になるんだろう。ただただ疑問です。


 冗談を言えるぐらいだからきっと大丈夫だとは思うけど、シズクもまだ見習い魔術師だ。きっと、命のやりとりをする実戦は、初めてだろう。


 シズクがピンチになったら、僕が立ち塞がり代わりに皇女殿下の相手をしよう。


 何も心配は要らないよ。


 だからこそ、全力を出して皇女殿下に一矢報いるんだ。


 ──シズクの燃える闘志を後ろで見ておくとしよう。きっと凄い筈なんだ。彼女には、魔術の才能が間違いなくあるんだから。


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