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ヒロイン


ああ、なんて私は不幸。

これは神様が私に試練を与えているのよ。

だって、私はヒロイン。


完全にちょっとおかしい、駄目な思考だと思う。

だけど、落ち込んだ時には、こう考えると元気になる。


「ああ、今日は私の大好きなプリンがなかった。きっと神様が私に甘いものを食べないように試練を与えているのね」

「……その癖、やめたほうがいいって」


 プリンを頼もうとして売り切れだと知り、嘆いていると幼馴染のジェミーが溜息交じりに言う。

 彼は私の悲劇のヒロイン癖にいつも苦言を漏らす。

 

「なんで?こんな風に考えるとプリン、諦めが付くのよね。じゃないと、悔しいじゃない」

「気持ちはわかるけど、聞いてたら頭おかしい人だって思われるよ」

「そうかもね。とりあえずジェミー以外の人の前では言わないようにするわ」

「俺の前でも言わないでよ」

「いいじゃない。長い付き合いなんだし、婚約者なんだし」


 パンと軽く肩を叩いたけど、ジェミーの反応は鈍い。


「どうしたの?なんか」

「ライザさあ、なんで、俺にだけいつもそんなん?もうちょっと配慮とかしないの?俺、婚約者なんだけど」

「は、配慮?」

「なんていうか、意識とかしないの?」

「意識?」

「俺、一応、君の婚約者だよね。友達とは違うよね?」

「友達じゃないの?」

 

 ジェミーにそう指摘されたけど、よくわからない。


「友達じゃないよ」


 胸にグサッときた。

 私は幼馴染で婚約者で、ずっと仲のいい友達だと思っていた。


「わかった。次から意識する」

「本当に?」

「うん」

 

 幼馴染だからいつも甘えていたけど、私はちょっと図図しかったかもしれない。

 婚約者というのは、もう少し距離が遠かった気がする。

 周りを見ていると、そう思うし。

 なんだか気まずくなってしまい、私は図書館へ逃亡した。


 もしかして、ジェミーに好きな人ができたかもしれない。だから、私の態度が嫌だったかも。そうだったら、婚約を解消したほうがいいかもしれない。

 私たちは幼馴染。だからちょうどいいと二年前私たちの間で婚約が結ばれた。

 私は悲劇のヒロイン。

 これはいわゆる婚約破棄のパターンよ。

 破棄されるまで待つのがいいかもしれないけど、なんか辛い。

 破棄だと外聞が悪くなると思うし、ジェミーの相手にも申し訳ない。

 お父様に話してみよう。


 きっとジェミーはずっと我慢してきたんだ。

 それで今日耐えれなくなって。

 私は悲劇のヒロイン、振られる運命よ。

 その後、きっと誰かが拾ってくれるのよ。


 そう思っているとやっぱりそうみたいで、図書館で男の人に話しかけられた。歳が近い男性と話すことはあまりないので、物凄い緊張した。


「君はジェミーの婚約者?可哀そうに。ジェミーは他に好きな人がいるんだよ。僕でよければ相談にのろうか?」

「いえ、大丈夫です」


 私はまだジェミーの婚約者。

 妄りに他の男性と二人で話すものではない。

 ジェミーにはやっぱり好きな人ができたのね。

 だったら婚約者解消したほうがいいわ。

 でも悲しい。

 ジェミーはとても大切な人。

 一緒にいて安らげるし、だから彼にだけは私の悲劇のヒロイン癖を見せれた。私だってわかってる。変な癖だって。

 でも、ジェミーに好きな人ができたら、諦めるべきだ。

 


 結局、その日、私はジェミーに会わず屋敷に帰宅した。 

 夜仕事から戻ってきたお父様に話したら、ちょっと待ってくれと言われてしまった。

 そうよね。色々準備が必要なのよ。

 婚約期間は二年だった。

 彼と出会ったのは、八歳の時。

 一緒に遊んで、学んで、楽しかった。

 彼は友達というよりも私の半身、そんな感じがする。

 失うのは辛い。

 ううん。失いはしない。

 ただ私は近くにいられないだけ。


 私は悲劇のヒロイン。

 これは私への試練。

 笑って婚約解消しましょう。


「ライザ」


 翌日の早朝、ジェミーが家にやってきた。


「ちょっと話があるんだけど」

「学校終わってからでいい?」


 じっくり話すには学校が終わってからがいい。


「だめだ。今は話したい」


 せっかちなジェミー。

 どうしたんだろう。

 そんなに婚約を解消したいのかな?

 心の準備はできて、ううん。できていない。

 だけど、私は悲劇のヒロインだから、頑張れる。


「ライザ。婚約解消したいってどういうこと?」


 応接間に移動し、お茶も出ないうちにジェミーが切り出した。

 本当に焦ってる。

 大丈夫なのに。


「うん。そうよ。ジェミーは好きな人がいるんでしょ?隠さなくてもいいよ」

「好きな人?いるよ」

「やっぱり?昨日親切な人にもそう言われたの」

「親切な人?もしかして、ハルクか?」

「ハルク?名前は知らないわ。だって、私ジェミー以外とほとんど話さないし」

「そうか、そうだな。髪は赤色だったか?」

「うん。確か」

 

 髪は真っ赤だった。

 珍しい色だったから覚えている。


「やっぱりハルクだな。ほかに何か言われたか?」

「えっと、相談に乗ってあげようかって」

「乗ってもらったのか?」

「ううん。だって、私の婚約者はまだジェミーだったでしょ?だから男性と二人で話すのはよくないもの」

「それはわかってるんだな。ライザ。君は俺と婚約を解消したいのか?」

「わからない。ジェミーが好きな人と一緒にいられないなら、解消したいわ」

「じゃあ、継続な。俺は今好きな人といるから」

「え?私?」

「そうだよ。君だよ。ライザ」


 好き。

 好き。

 ジェミーから言われたのは初めてだ。


「ちゃんと伝えなくてごめん。ライザ。どうか俺と結婚してほしい。君のことが好きだ」

「私は悲劇のヒロインだから、ジェミーが私のこと好きなわけがない」

「また悲劇のヒロインか。ライザ。現実を見て。悲劇のヒロインなんて小説の中だけだよ。現実にはいない。不幸に耐え続けて幸福が来るなんて都合のいいことはありえない。不幸であったら、そこから出る努力をしないといけないよ」

 

 ジェミーのいうことは正しい。 

 私は嫌なことがあったり、悲しいことがあるといつも自分を悲劇のヒロインに仕立てて、乗り切ってきた。

 嫌なことや悲しいことに立ち向かっていくことはなかった。


「まあ、俺もこれからも傍にいるし、何か嫌なことがあったら一緒に頑張っていこう」

「うん。ありがとう」


 ジェミーはやっぱり最高だ。

 私の悲劇のヒロイン癖はなかなか抜けないけど、ジェミーは気長にまってくれる。

 悲劇のヒロインは卒業しよう。


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