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5話

後天的に発病する。原因不明の病。クラック症候群。

その症状は、多岐に渡るが、一貫して言えることが一つだけある。

それが、人格の乖離だ。

丸っきり別人の人格を創りあげる者も居れば、普段その者の性格では考え得ない思考をしたりするだけの者もいる。

小心者が目立ちたがり殺人鬼に豹変したり。

汚職議員が正義感の権化に生まれ変わったりする。

そう言った不可解な現象を引き起こすのが、クラック症候群だ。

と、言われている。

「でも、都市伝説の域だろ?」

「そうだ。国はクラック症候群の存在を隠したがってるからな」

で?と、僕は続きを促す。

「その、クラック症候群と豪遊会の急な活発化に、どんな関係があるんだ?」

「分からないのか?今まで、街一つを動かす力を持ちながら、表立って動くことのなかった豪遊会。それが急に、表舞台に手をかけ始めた。似てないか?」

「何に?」

「クラック症候群にさ」

あー。確かに特徴は一致してる。

でも、だから、なんだ?という疑問は残る。

解せない僕に、カンタはニヤケ顔で続ける。

「分からないのか?つまり、豪遊会の誰が。それも、組全体の動きを変えてしまえる程の大きな影響力を持った誰かが、クラック症候群を発病した」

……へえ?

根拠としては、まだ薄い。だが、もしそうなら、医療関係者をあたれば、豪遊会へのコネクションが作れるかもしれない。

そう思い、考え始めると、そんな僕を見て、カンタは、ぷッ!と笑った。堪えきれないと言った風に。

「そんなわけ無いだろ!バカだなぁ!お前は」

「は?」

「いいか?クラック症候群は、その存在が都市伝説と噂される程の奇病だ。仮に組織の誰かが発病したとして、短期間で組全体を巻き込む程の力はないだろ」

「だから、それは影響力のある奴が…」

「1人の影響力なんてたかが知れてるだろ?」

腹を抱えて笑いながら言うカンタ。

心底面白そうだ。むかつく。

「ま、まあ?でも、ぷッ!無くはない、可能性ではあるけどな…これも、クラック症候群同様、都市伝説程度の噂だよ」

「そうかよ…で?クラック症候群説はもういいから、今1番有力な筋を教えてくれよ」

「そりゃまあ、考えりゃ分かるだろ?」

は?なんだ、僕を笑いものにするだけして、職務放棄か?この情報屋は…。

「ちげーよバカ。今のが既に情報だ。確かに、お前をからかう為に少し余計な脚色もしたがな」

「あっそ。で?バカな僕にも分かるように説明してくれるかな?」

「わーったよ!そー怒るなって…全く…いいか?豪遊会の動きが活発化しているのは、お前の見立て通り真実だ。だが、何故か…お前は、そっから豪遊会のとっかかりをみつけようとしている」

「そうだね。その通りだ」

「そう。その思考回路は、悪くない。だが、結論から言うと、取っ掛りになるかどうかは、保証できない。」

「というと?」

「1週間くらい前かな、長年、豪遊会の頭目を務めた豪 力也(ごう りきや)が病院に救急搬送された。」

「え?」

それは、初耳だ。

まあ、僕は、清く正しい一般市民なのだから、ヤクザの頭目が病院に運ばれたことなど、知らなくて当然だが。

「分かるか?バカ。豪遊会と言う組織。それも、ただの組織じゃない。縦の繋がりが何よりも重要視される。ヤクザのトップだ。それが不在となれば」

「変えを用意しなきゃ行けない」

僕の割り込みに、カンタは、ニヤリと笑った。

「ま、そーゆことだ。どうだ?知った所で、取っ掛りどころか、付け入る隙もありゃしないだろ?」

「いーや。あるよ」

「は?」

「豪遊会のトップが今は居ないってことなら、それで別の奴が仕切ってるってことなら、付け入る隙くらいは、ある」

カンタは、一気にジト目になった。

さっきまであんなに楽しそうだったのに、何だかんだコイツも、他人を心配する良心は持ち合わせているらしい。

「ちげーよ。俺は、命を粗末にするバカが嫌いなだけだ」

「そうかよ。僕も嫌われたものだね」

「あー。大っ嫌いだ。とっとと俺の前から消えろ」

そう言われて、ゴキブリでも追い出すかのように外へ叩き出された。

やれやれ。

まだ、聞きたいことは、沢山あった。

豪遊会の根城とか、頭目の搬送先とか、色々。

まあでも、この感じだと、歩いて探すしかないかな。

と、思った矢先、スマホが鳴った。

見知った番号からの着信だ。

通話ボタンを押して、スピーカーを耳に当てた。

「やあ、檸檬。君の方から電話なんて珍しいね」

「まあね。そろそろこの、天才レモン様ちゃんの頭脳が必要だと思ってね」

様ちゃん……新しいな。

「あー。必要だ必要だ。どうにも、僕の狭い思考じゃここいらが限界みたいだよ」

「はは!そうだろうね。忠文の貧相な思考は、人の思いつきを切った貼ったするだけの事に特化した面白みのないものだからね」

全く。この姫様といい、カンタといい。

多くを知る連中は、みんな、こう、やりずらいのだろうか?

しかしまあ、カンタと違って嫌な気はしない。

何故だろうな。やっぱり、見た目か。

「さて、レモンちゃんの頭脳を貸してやる前に、訂正しておきたい事がある」

「訂正?」

「そう。訂正だ。まず、これは、あの情報屋が意図的に隠していたことだが、豪遊会の頭目は、もう死んでる」

え?

「で次に、これが特に重要なのだが」

「まって?勝手に次に進まないで?僕はまだ、死を飲み込めてない」

「…それは、そうだろう。忠文が死んだ訳じゃないしな」

「いや、そうなんだけど、でも、人がさ、死んでるなんて聞かされたら普通はそう、すんなり話せないんじゃないか?」

「普通……ね。」

「え?」

「普通って?なんだと思う?」

「普通は、普通だろ。」

「答えになってないよ。例えば、人が死んだら悲しむのが普通か?それが、例えば、悪事の上に立ったヤクザのドンでも?忠文の中で、リョウマと死んだ豪遊会の命は、等価なのか?」

「……違うね」

「そ。違う。誰だって、知らない誰かや、敵かもしれない誰かより、友達や味方の方が大事なものだ」

その通りだ。どうやら、僕は、また普通から外れて居たのかもしれない。

「どうだ?言葉遊程度だが、これで次の話に行く準備は出来たかな?」

「ああ。ありがとう。もう問題ないよ。檸檬。次に進んでくれ」

「分かった。これが、特に重要な話しだ」

「うん」

「クラック症候群は、存在すゆ」

……すゆ。すゆんですね。檸檬姫。

だが、と、檸檬は続けた。どうやら、押し切るつもりらしい。

「クラック症候群は、あの情報屋が説明したような、なまっちょろい病気じゃない」

「え?」

「クラック症候群は、名前の通り、壊れる病気だ。ある一定の境を超えて、よく言う、堪忍袋の緒が切れるなんて状態に近い」

「ただ、クラック症候群患者は、この場合、堪忍袋の緒がいつ、どこで切れたかを覚えて居ないし、おもいだせない。」

「詳しいね」

「そりゃ、自分の病気だからね」

…なるほど。

「じゃあ、檸檬が強炭酸粉コーラを仕切ってやった事も」

「うん。後から、新聞やラジオで知ったし、レモンがやった事だと理解もしてる。手口も覚えているけどなぜ、そこまでしたのかは覚えていない」

……楽しそうだったから。と、言っては居た。

多分、両方真実だろう。楽しそうで始めて、楽しそうを煮詰めて居たら、いつの間にか終わっていた。

そういう感覚だったんだろうな。

なんとなく、共感出来るものがある。

天才だから、出来たのではなく、出来るまでやっていたら天才になっていた。って感じか。

天才で、世の中にとっては、天災でもあった少女に共感出来るというのは、なんというか、悪い気はしなかった。

「そりゃ、共感もできるだろうね。だって忠文も、同じだからね」

「え?…いや、待ってくれ。僕はそんな病気だなんて診断されたことはないよ」

「そりゃ、まあ、御国としては、機密の病だからね」

「でも、僕にその自覚は…」

「自覚症状が無くても、病は病さ。むしろ、クラック症候群に関しては、自覚していないケースの方が圧倒的に多い」

「そうなのか?」

「そうだよ?レモンみたいな出来るまでやってしまう病みたいなのも居れば、忠文みたく、出来ると思い込んでしまう病。の人もいる」

出来ると、思い込む…。

「そうだろ?そもそも、二重スパイなんて、忠文のしょっぼい脳みそで出来るわけない。自分でもそう思うだろ?今は」

…ああ。確かに、今はそう思う。

「けれど、1度やってみたいと、思ったら不思議と出来ると思ってしまう」

スパイは、金に目がくらんだから。

けれど、結局受け取った金より、命の方が重いと、後になって、否。依頼を受け、金を握った瞬間も、そう思っていた。

でも、僕は、金をえらんだ。

「そう。それが忠文の症状だよ」

「症状……」

不思議とそう言われると、そうなのかもしれないと思い始めた。

「忠文は多分、世界を分断する威力の核爆弾のスイッチを貰ったら色々考えて、押さない方が良いという結論を瞬時に出した上で、押すんだよ。自分だけは、生き残れる。なんて思ってね」

そうかもしれない。

そして、誰もがそうであると。僕は思っていた。

「そう。レモンも、そうだけど、レモン達は、それが普通だと思って生きてきた」

ねえ。と、檸檬は改めて問う。

「ねぇ。忠文、普通って、何?」

その問いに、僕は答えられなかった。

通話の切れたスマホを右手にぶら下げたまま、僕は暫く、その場に立ち尽くした。





天才少女である檸檬の思い付きは、それが何かの病気だと言われても頷けるだけのものだった。

アパートに帰るなり、僕は、1枚の証明証をもらった。

保険証と似たサイズのそのカードは、黒を基調に、金色の文字で、豪遊会と記されている。

「なにこれ?」

「なにって。豪遊会の構成員にのみ配られる会員カードのダミーだよ」

は?

「へ、へぇ?流石天才。こんなものまで作れるんだね」

「そんなもの、誰でも作れる。さ、忠文。時間が無いからスーツに着替えて?」

「なんで?」

「間諜を、やるんだろ?今から、豪遊会頭目の葬式に出ておいでよ」

あー。なるほど。それでこのカードか。

「いやでも、ヤクザだし、いきなりそんなに接近するのは危険すぎない?もう少し外堀から…」

「それは、忠文の表の意見だよ。レモンは知ってる。カード渡された時から、実は行きたくて仕方ないでしょ?理由は、1つ。出来そうだから」

ああ。やはり、この少女は、列記とした病気のようだ。

僕はこんな、異次元の存在を前に、今どんな顔をしているんだろう。

以前ならともかく、今は容易に想像できる。

どうやら、僕も、病気なようだ。


こんな時だけど、1つ分かった気がする。

編集者達が、僕にこぞって求める。愛って奴が。





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