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第3話

ジュジュワーー。

やはり、肉はいい。

音、香り、見栄え。それだけで、人を幸福にしてくれる。食べ物なのに、食べる前から幸せを付与してくるなんて、素晴らしい。

僕は、リブステーキを、檸檬は、サイコロステーキを頼んだ。

ステーキと言ったらでかい肉の方が食べ応えないか?と聞いたら、胃袋にはいれば一緒だし、切るのが面倒だから、でかい肉は苦手だと返された。

そんなこと言い出したら、美味い食べ物というのは、大体どれも面倒なものだが。

ともあれ。

目の前では、わが、5000円城の檸檬姫が1口サイズを更に2分の1にカットしたサイコロステーキをもしゃもしゃとほうばっている。きる手間を省いたお陰で、檸檬姫は、両手にフォークを装備するという、先進的な食事マナーで久々の肉と対面していた。

「どうだ?美味いか?」

「うん!美味しい!」

そいつは、良かった。けれど、マナー以前に、汚いので口に物をほうばった状態で喋らないで欲しい。

まあいい。本題に、入ろう。

「で?さっきの話なんだけど、どう思う?」

咀嚼し終えた肉を。まるで、液体でも飲むかのように、ごくごくと、食道に流し込み、はて?と、檸檬は首をかしげた。

「どうって?」

「お前、僕の話し聞いてなかったのか?」

「聞いてたよ。忠文がスパイになって、その交換条件として、大手出版社との作家契約をとりつけたんでしょ?」

「大体あってるけど、重要なのはその先だよ。」

「ああ。二重スパイの話?」

「そう!」

それはさー。言いながら檸檬は、左手のフォークで残っているサイコロステーキの1つを刺す。

「完全に、忠文の趣味の範疇でしょ?」

いやまあ、その通りなのだが。

「趣味なんだから、忠文の好きにしたらいいじゃん。それとも、そんなにレモンの助言が欲しいの?」

そんなつもりは、無かったが。

どうも、僕は、助言や、意見を、檸檬に求めていたらしい。

多分、心のどこかで、気づいていたのだ。

自分がこれからやろうとしていることが、危険を伴い、尚且つ、それなりの難易度と、非人道的な部分を孕んでいることに。

札束を貰って、気持ちが大きくなっていたのかもな。

少し時が経つだけで、僕は、不安になっている。

「やれやれ、この程度で萎縮するような覚悟なら、何でやろうと思ったんだろうな」

金のため、なのだろうか。その金だって、命あってのものなのに。

僕のそんな独り言に、今度は、笑顔で檸檬が返答する。

「決まってるじゃん!楽しそうだったからだよ!」

「楽しそう?」

「そっ!レモンがやってるマリカと一緒!」

「ゲームとは、違うだろ」

「一緒だよ!勝つか負けるか分からないハラハラ感が楽しそうで、楽しくて、心地よくて、だからやりたくなるんだ!」

「そうかな?でも、今は不安だけれど。」

「それは、未知、だからね」

「未知?」

「そう。未知。知らないことを、知るのは楽しいけど、知らない事を知ろうとすることは、怖いからね」

「……」

なんだろう。こんな、食い意地しかないような少女に、人生観を諭された気がした。

やれやれ、うちの姫様には、敵わんな。



ステーキを、食べ終えると、僕は洗面台に向かい、歯磨きをする。

檸檬は、いつもの様にパソコンと睨めっこかと思ったが、珍しく、口を濯ぐ僕に話しかけてきた。

「忠文。さっきの話!レモンも手伝ってやろう!」

そう言ってこちらを見る檸檬は、腰に手を当て胸を張っている。やけに誇らしそうだ。

口をゆすぎ、水を吐いて、タオルで口元を拭き、答える。

「どうした?急に」

「どうもこうもない!お前が外で何をしようと興味ないけど、それで帰りが遅くなるのは嫌だ!」

あー。なるほど。

つまり、自分が手伝えば、僕の帰りが遅い期間もみじかくて済むとでも思ったのか。

いかにも段落的な思考だが、強炭酸粉コーラのリーダーとはいえ、このネット衰退社会で何を手伝おうというのだろう。

「確かに、ネットは衰退した。というか、させたけど、でも、情報媒体が紙しかないわけじゃないよ」

「え?」

それは、どういう。

僕が呆けていると、呆れ返ったと言わんばかりのジト目になった檸檬が続きを語りだした。

「だってそうでしょ?少し考えればわかる。スマホも、パソコンも、まだ現役だ」

確かに、言われてみればそうだ。

紙媒体が普及したとはいえ、スマホのリマインダーや、パソコンのカレンダーなんかを、未だに使う人々は少なくない。というか、見やすさの面から、その両方をつかい情報を管理するのが今の社会の通説だ。

「でも、だからといって、インターネットが衰退している以上、その情報は、アナログ的手段でしか行き来出来ないんじゃないのか?」

「確かにね!でも、レモンは、一流クラッカーだから!」

そう言うと、檸檬は、ふふんと鼻を鳴らしながら、繋ぎのポケットから何かをとりだす。

「なんだそれ?」

「USBメモリだよ」

はあ。それは、流石に僕でも見ればわかる。

「なんだ?それを差し込んで、出版社側の情報でも持ってこいってことか?」

「いや、敵対してるのは、あくまでそのバックにいる組織。豪遊会だから、いくら出版社の情報を盗んでも意味ないよ」

「ならどうやって使うんだよ」

「まあ、そう焦らないで!よく聞いてね忠文!」

ワクワクすると言った面持で、檸檬は語り出す。

まるで、自分の夏休みの自由研究を親に自慢する子供みたいだ。

「レモンが持ってるUSBメモリは、どれも特別製なの。例えば、今見せているこれは、20000テラバイトのの容量に、ありとあらゆるデータ破壊プログラムを詰め込んだようは、ウイルスメモリだよ」

20000テラバイト……そんな容量のUSBメモリは聞いた事がない。

僕が驚いていると、檸檬は、こんなの、序の口だと言わんばかりに説明を続けた。

「他にも、同じ容量が満タンになるまで、接続機内部のデータを吸い取るメモリとか、データそのものを、AIに書き換えさせるメモリとかもある」

「なんでもありだな」

「そう。なかでも、凄いのが、これ。」

今度は、別のメモリを取りだした。

「これはね?檸檬が開発した独自回線を刺さっている間だけ強制インストールさせるメモリ」

何を言っているのかよく分からなかったが、つまり。

ネットに繋がっていない機器同士を接続して、めちゃくちゃにいじり回せるメモリらしい。

これらのメモリ。

確かに、凄いことは分かったし、仮に情報戦になればかなりのアドバンテージだろう。

まあ、豪遊会のパソコンにそのメモリを差し込むことが出来れば。の話しだが。

「違うよ!メモリの有用性は、ただレモンが自慢したかっただけ!」

はい?じゃあ、尚のことお前に手伝えることなんて無いだろうに。と、思いかけたところで、檸檬が口をはさんだ。

「分からないの?」

「え?」

「これだけのものを、思いつき、作るだけの情報戦のプロなんだよ?レモンは」

「それは、分かった」

「そんな人間の与える助言が、無駄な訳ないでしょう?」

ああ、それは、確かに。

なら、早速お手並み拝見といくか。

「なら、早速。檸檬、僕はまず何から始めればいいと思う?」

「二重スパイ。なんでしょ?」

「ああ。そうだ。」

「なら、嘘をつけばいいよ」

「嘘?」

「そう。何も知らないよりも、間違って知っている方が怖いからね」


かくして、うちのニート姫は、1夜のうちに、軍師になって、僕は、副業の勉強をはじめた。


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