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第17話:「仲間との出会い」

 図書館の暗がりに身を隠し、私たちは息を潜めていた。

 古代のデータサーバーが林立する巨大な円形ホールの片隅、崩れた天井の下に作られた小さな空間。

 リーナが緑の魔法で編み上げた蔦のカーテンが、私たちの姿を隠している。


「もう三時間……まだ諦めないのね」


 リーナが小声で呟いた。

 彼女の顔には疲労の色が濃く出ていた。


 私は静かに頷き、再び耳を澄ませる。

 遠くから足音と声が聞こえる。

 魔術師協会の追っ手たちは、まだこの図書館内を探索していた。


「魔法痕跡探知によれば、ターゲットはまだ施設内に留まっています」


 遠くから聞こえる男性の声。

 彼らは組織的に動いていて、単純な逃げ隠れでは長くは持たないだろう。


「ティア、図書館の中心部までの別ルートはない?」


 私はティアに小声で尋ねた。

 彼女は無表情のまま目を閉じ、内部データにアクセスしている。


「検索中です」


 彼女の首筋の青い線が僅かに明るく脈打つ。

 エネルギー残量はかなり低下している。

 この状況が長引けば、ティアはシャットダウンしてしまうかもしれない。


「あるとすれば……天井裏の保守用通路です」


 ティアの言葉に、私は頭上を見上げた。

 確かに、壊れたパネルの間から狭い空間が見える。

 天井裏を移動するという考えは悪くない。


「でも、あんな高いところに……」


 リーナの心配はもっともだ。

 天井まで5メートルほどある。

 大人の彼女たちでさえ登るのは難しいだろう。


「私が……」


 言いかけた時、遠くで大きな音が響いた。

 何かが倒れたような音。

 次に、追っ手たちの足音が一気にその方向へ向かっていく。


「何が……?」


 リーナの疑問に、ティアが答えた。


「別の侵入者の可能性が高い」


 別の侵入者?

 協会の人間ではない誰かが、この図書館に入ってきたのだろうか。

 それとも、魔獣か何かが紛れ込んだのか。


「チャンスかもしれない」


 私は立ち上がり、蔦のカーテンの隙間から外を窺った。

 追っ手たちの姿は見えない。

 音のした方向とは反対側の通路が無防備になっている。


「行きましょう」


 リーナが蔦のカーテンを静かに開き、私たちは素早く身を乗り出した。

 ティアが先導し、私たちは暗い通路を進む。

 小さな私の足では、大人たちについていくのが精一杯だ。


「北側通路から中心部へ直行します」


 ティアの指示に従い、私たちは分岐点を曲がった。

 そこで突然、顔を上げた私は息を飲んだ。


「誰かいる!」


 通路の先に、一人の人影が立っていた。

 高さ180センチほどの男性。

 黒と茶色の革の服を着て、腰には奇妙な装置が下がっている。

 顔は半分マスクで覆われているが、若い目が私たちを見つめていた。


「やあ」


 男は意外にも友好的な声で言った。

 彼の手には協会の制服はない。

 代わりに、古い金属製の装置を持っていた。


「協会の者じゃないな」


 ティアが冷静に状況を分析する。


「ああ、違うよ」


 男は片手を上げ、静かに私たちに近づいてきた。

 もう片方の手はポケットに入れたまま。

 警戒を解いていないことは明らかだ。


「遺跡探索者のレン。君たちも協会から逃げてるみたいだね」


 遺跡探索者?

 旧世界の遺跡を調査する民間の探検家のことだろうか。

 村長の話によれば、そういった人々は協会とは別の立場で活動しているという。


「どうして私たちが逃げてると?」


 リーナが警戒心をあらわにして質問した。


 レンは小さく笑い、背後を親指で指した。


「さっきから数人の青ローブが必死に何かを探しているからね。普通の見学者じゃないだろう」


 彼の口調は軽いが、目は鋭く私たちを観察している。

 特にティアを長く見つめていた。


「君は……旧世界の……」


 彼の目が輝いた。

 機械マニアが珍しい遺物を見つけたような、そんな眼差しだ。


「その通りです。私はAIアンドロイド、ティアと呼んでください」


 ティアはいつもの無表情のまま自己紹介した。


「信じられない……」


 レンは驚きと興奮を隠せない様子で、一歩近づいてきた。

 私は咄嗟にティアの前に立ちふさがった。


「近づかないで」


 小さな体で守るのは滑稽かもしれないが、本能的な反応だった。


「悪い、興奮しすぎた」


 レンは申し訳なさそうに手を上げ、一歩下がった。

 彼は30代前半くらいだろうか。

 茶色の髪を短く刈り、背が高く引き締まった体つきをしている。

 探索者らしく、身のこなしは俊敏そうだ。


「そこの子は?」


 彼は私を指差した。


「私はミラ。この子はリーナ」


 私は自己紹介しながらも、レンの様子を注意深く観察していた。

 彼が私の幼い外見と大人びた話し方のギャップに気付いたかどうか。


「どうして君たちがここにいるのか知りたいところだけど、今はその時間はなさそうだな」


 レンは通路の向こうを気にしながら言った。


「追っ手が戻ってくる。僕についてくるなら、安全な場所を知ってる」


 信じるべきか迷った。

 初対面の人間を信用するのは危険だ。

 しかし、このまま行き当たりばったりで逃げ回るのも限界がある。


 ティアが私の耳元で囁いた。


「彼の持つ情報と支援は有益かもしれません。しかし、警戒は必要です」


 彼女の判断は的確だ。

 リーナも小さく頷いているのが見えた。


「分かった。案内してもらおう」


「賢明な判断だ」


 レンはにっこりと笑うと、通路の奥へと向かって歩き始めた。

 私たちは少し距離を置いて彼に従った。


「君、遺跡探索者なんだよね? ここで何をしてるの?」


 リーナが静かに尋ねた。


「同じさ。知識を求めて」


 レンは振り返らずに答えた。

 彼の足音はほとんど聞こえない。

 長年の探索で身についた身のこなしなのだろう。


「この図書館は旧世界の技術情報の宝庫。特に僕は機械関係に興味があってね」


 彼の言葉に、再びティアへと視線が向けられた。

 彼の目に宿る好奇心は隠しようがない。


「ティアさんのような存在は、探索者なら誰でも一度は見たいと思う伝説だよ」


「伝説?」


 思わず聞き返すと、レンは小さく笑った。


「ああ、旧世界の真の遺物は、ほとんど伝説になっている。特に自律行動型のアンドロイドは、存在自体が疑問視されてきた」


 彼は私たちを先導しながら、小声で説明を続けた。


「魔術師協会が管理している旧世界の機械は、ほとんどが動かないガラクタ。それを彼らは『聖遺物』と呼んで研究している」


 そう言いながら、彼は突然立ち止まり、壁の一部に手をかざした。

 薄暗い光が彼の手から漏れ、次の瞬間、壁の一部が動いて小さな通路が現れた。


「魔法?」


 リーナが驚いた声で尋ねた。


「違うよ。旧世界の技術さ」


 レンは手首に巻いた装置を見せた。

 古い金属で作られたそれは、かすかに光を放っている。


「センサーに反応するアクセスキー。旧世界では普通に使われていたものさ」


 私は思わず目を丸くした。

 旧世界の技術に詳しいだけでなく、実際に使いこなしているとは。

 このレンという男は、ただの探索者ではないのかもしれない。


「さあ、中へ」

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