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第11話:「目覚める力」

 リーナの覚醒した魔法の力は圧倒的だった。

 緑色の光の網で魔獣を捕らえ、動きを止める。

 ティアはその隙に素早く襲いかかり、弱点を的確に攻撃していく。


 私は周囲の村人たちに指示を出す。


「みんな! 火を持って爬虫類型の魔獣を追い払って! 狼型は集団で向かわないで、一匹ずつ対処するのよ!」


 大人の判断力と子供の体というギャップがある中でも、危機的状況では村人たちも私の指示に従ってくれた。


 セバスチャンも村の別の場所で奮闘していた。

 青白い魔法で次々と魔獣を撃退し、時折村人を守る防御魔法も展開している。


「強化されたグリーンライト・ウェブ!」


 リーナが咄嗟に詠唱を放ち、複数の狼型魔獣を緑の光の網で包み込んだ。

 魔獣たちはもがくが、その網からは逃れられない。


「ティア、今!」


 ティアは一瞬で魔獣たちの間を駆け抜け、鋭い刃で次々と急所を突いていく。

 その動きは人間離れした精度と速さで、まるで舞うようだった。


 村の西側では、村長が魔法のバリアを展開し、まだ魔獣が侵入していない地域を守っていた。

 彼の姿を見つけ、駆け寄る。


「村長さん!」


「ミラ! リーナ! 戻ってきたのか!」


 村長は驚きながらも、安堵の表情を見せた。


「状況は?」


「東と北からの侵入を食い止められず、多くの家が損傷した。だが、人的被害は最小限に抑えられているようだ」


 ほっと胸をなでおろす。

 建物は再建できるが、命は取り返せない。


「村長さん、全員を石塔に避難させましょう」


「ああ、そうしよう。だが、これほど多くの魔獣が一度に現れるなんて……」


 村長の言葉に、ティアが応答した。


「通常ではありえない事態です。何かが魔獣を引き寄せた可能性があります」


 その言葉に思うところがあった。

 ちょうど私たちが村を出た直後に起きたこの襲撃。

 偶然だろうか。


 考えている時間はなかった。

 新たな魔獣の群れが北側から迫っているのが見えた。


「来るわ!」


 リーナの緑の魔法とティアの戦闘力、そして私の指示—三人の連携で次々と魔獣を撃退していく。

 村人たちも徐々に組織的に動き始め、火や音で魔獣を混乱させる作戦が功を奏していた。


 セバスチャンが私たちの近くに来て、一瞬驚いた表情を見せた。


「君たちは……」


 しかし、今は尋問している場合ではないと判断したのか、すぐに戦いに戻っていった。

 彼の魔法は高度で強力だが、それでも今回の魔獣の数は彼一人では手に負えなかったようだ。


「最大の群れが来ます!」


 ティアの警告に、北の方を見ると、これまで以上に大きな魔獣の群れが村に迫っていた。

 中央には巨大な狼型魔獣—リーダーらしき存在が見える。


「あれがボスね……」


 リーナと目を合わせ、無言の了解を交わす。

 彼女は頷き、深呼吸をして魔力を集中させ始めた。


「ミラちゃん、ティアさん、あのリーダーを倒せば他の魔獣も退くかもしれない。私が足止めするから、ティアさんが急所を攻撃して」


「了解しました」


「ミラちゃんは……」


「私はリーナの魔法を強化する!」


 そう宣言して、私は右手の紫色の模様に集中した。

 魔法の勉強ではまだ基礎しか学んでいないが、体の中に流れる魔素の感覚はつかめてきていた。


「ティア、リーダーの弱点は?」


「分析中……」


 ティアの目が青く光り、データにアクセスしている。


「『バイオレットアルファ』、特殊な指揮能力を持つ変異個体です。頭部の二つの突起が弱点。破壊すれば統率力が失われる可能性が高いです」


 頭部の突起……確かに、リーダーの頭には二本の角のような突起がある。


「リーナ、あの角を狙って!」


 彼女は頷き、両手を前に突き出した。

 緑色の光が渦を巻き、彼女の周りには植物のツタのような魔法の線が現れた。


「グリーンバインド・アロー!」


 光が矢となって飛んでいくが、リーダー魔獣はそれを察知して素早く避けた。

 しかし、その隙にティアが猛烈な速さで接近する。

 リーダーが反応する前に、ティアの鋭い刃が一本の角に命中した。


「やった!」


 しかし、完全には折れず、リーダーの激しい反撃でティアは吹き飛ばされた。


「ティア!」


 彼女は優雅に着地し、無事なようだった。

 しかしエネルギーが減少しているようで、青い線の輝きが以前より弱まっている。


「エネルギー残量42%。まだ戦闘可能です」


 リーダー魔獣が私たちを狙って突進してきた。

 その速さと力は、今までの魔獣とは比べものにならない。


「リーナ!」


 彼女は再び魔法を放とうとしたが、先ほどの大魔法で消耗したのか、緑の光が弱まっていた。


「まだ……!」


 リーナが歯を食いしばって魔力を絞り出す姿を見て、私は決意した。


「一緒に!」


 私はリーナの隣に立ち、彼女の手を取った。

 すると不思議なことに、私の右手の紫色の模様とリーナの緑の魔法が共鳴するように輝き始めた。


「これは……」


 村長が驚いた声を上げた。


「魔法の共鳴現象……!」


 私の紫色の魔法とリーナの緑の魔法が混ざり合い、新しい光の色を作り出す。

 まるでエネルギーが倍増したかのような感覚が体を満たす。


「いくわよ、リーナ!」


「うん!」


 二人同時に魔法を放つと、紫と緑が混ざり合った光の矢が空気を切り裂いて飛んでいった。

 その速さと威力は圧倒的で、リーダー魔獣は避けることができず、頭部の二本の角を直撃した。


 角が砕け散ると同時に、リーダーは苦しげな悲鳴を上げた。

 周囲にいた他の魔獣たちも、突然混乱し始める。


「効いた!」


 しかしリーダーはまだ倒れない。

 怒りに満ちた目で私たちを睨みつけ、最後の力を振り絞って突進してきた。


「危険です!」


 ティアが私とリーナの前に立ちはだかり、攻撃を受け止めようとする。

 しかし、リーダーの力は凄まじく、ティアの体が吹き飛ばされそうになる。


「ティア!」


 私たちの叫びと同時に、青白い光線がリーダー魔獣を貫いた。

 セバスチャンだった。

 彼は強力な魔法で最後の一撃を与え、ついにリーダー魔獣は倒れた。


 リーダーの死に、残りの魔獣たちは次々と混乱し、逃げ出していく。

 どこからともなく歓声が上がった。

 村人たちが安堵の声を上げる中、私はティアとリーナに駆け寄った。


「大丈夫?」


 ティアは立ち上がるのに少し手間取っていた。

 エネルギーがかなり消費されているようだ。


「エネルギー残量28%。機能は維持できますが、戦闘能力は大幅に低下しています」


 リーナも疲れ切った表情で座り込んでいた。

 覚醒状態は解けたようで、普段の彼女に戻っている。

 しかし、その目には新たな自信のようなものが宿っていた。


「あんな魔法、初めて使ったわ……」


 村長が私たちに近づいてきた。


「よくやった。三人の活躍がなければ、村は壊滅していたかもしれない」


 セバスチャンも近づいてきて、じっと私たちを見つめていた。

 彼の鋭い目には、明らかに疑問と興味が浮かんでいる。


「君たちは村を出ていたのではなかったのか?」


 冷静な問いに、リーナが答えた。


「うん……でも、騒ぎを聞いて戻ってきたの」


 セバスチャンは沈黙した後、小さく頷いた。


「そうか……」


 彼は特にティアを注視し、何か言いかけたが思いとどまったようだった。

 代わりに、意外な言葉を口にした。


「礼を言う。君たちの助けがなければ、私一人では対処できなかった」


 魔術師協会の調査官からの謝意。

 意外だった。


 村人たちが次々と集まってきて、私たちに感謝の言葉を述べ始めた。

 特に子供たちがリーナを取り囲み、彼女の魔法に感動の声を上げている。


 ティアも、普段は警戒されがちだったが、今は村人たちから感謝の言葉をかけられていた。

 無表情のまま対応する彼女だが、どこか嬉しさを感じているような気がした。


 村長が周囲を静かにさせ、言った。


「夜襲を撃退したが、村の復旧作業が必要だ。まずは怪我人の手当てを優先しよう」


 リーナが立ち上がり、「私、手伝います」と言って、負傷者の元へ向かっていった。

 彼女の回復魔法は今や村の大きな力だ。


 ティアは私の横に立ち、静かに言った。


「今回の事態は不自然です。魔獣の大規模な集団行動には、何らかの外的要因が考えられます」


「魔術師協会とは関係あるのかな……」


「不明です。しかし、注意が必要です」


 セバスチャンが少し離れたところで、何かメモを取っている。

 彼は今回の事態をどう報告するのだろう。

 私たちの存在を知られてしまった以上、再び逃げる必要があるかもしれない。


 しかし今は、村の復旧を優先すべきだ。

 小さな体でも、できることはある。


「手伝おう、ティア」


 彼女は静かに頷き、共に村人たちの救助活動に加わった。


 夜が明け始める空の下、破壊された村の中で人々が助け合う姿。

 そして三人で力を合わせて戦った記憶。

 これらは私の心に深く刻まれることになった。


 魔獣は去り、今は平穏が戻ったが、新たな試練がすぐそこに迫っていることを、私は予感していた。

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