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太陽の瞳

作者: 黒丸鴉



灰色の街で・・・・・・、




 自由が支配する、とある国の首都。




 その円形を描く街は、いくつもの城壁が街を遮っている。その壁には差別の言葉が幾多も落書きされ、その壁自体が差別の意味を持つ。


 中心に行くほど街はこぎれいな白に近づき、外周に近づくほどそこは土にまみれた黒になる。全く甘くないロールケーキのような街――いや、クリームだけは甘いかも知れないが。




  灰色の地では、煉瓦造りの家々が所狭しと並んでいる。それは下手な積み木のようで今にも崩れそうだ。


  家々の隙間を毛細血管のような道路が走り、その動脈に位置する商店街では、家々を壁にした店が立ち並ぶ。




  店主は天幕を張り、かごに入れた果物を売る。


  店主達は道行く人々を呼び止めようと競い合うように声を出し果物を掲げる。




 灰色の街には店主の掲げる林檎の赤がとても映えるが、柑橘のさわやかな香りはほこりの臭い漂うこの街に似合わない。


 下を向き歩いていた一人の男がその香りに引かれ顔を上げる。その男は太陽を見たかのように目を細め、また灰色の地面を見つめる。


 まるで叶わぬ世界を見たかのように。




 その男は街ゆく人に溶け込み見えなくなった。道路を歩く人たちは、みなボロ布のようなチュニックを着ていて見分けがつかない。


 顔つきすらもそのチュニックと同じだ。


 


 家々の隙間には細い路地があるが、そこに目を向ける通行人はいない。




 だがその闇の中にも人がいる。その闇の中にも命の輝きがある。




 そこには暗い隙間から少しは明るい商店を眺める少年がいた。


 その少年は枯れた花のように力なく、壁に寄りかかることでやっと座っていられた。




 身体はやせ細り今にも折れてしまいそう。


 土と、ほこりと、もはやボロ布としか表しようのない服、それに川のような髪が混ざり合っている。




 少年は食事と呼べるような食事をとっくに忘れ去っており。


 命をつなぐためだけのパン屑すら失った。




 小さな身体の少年には、残飯を漁り食事を手に入れるほどの力――同じような境遇の者を打ち倒す、少しの暴力すら持っていなかった。


 それでも生きたいと願った少年は、土をなめるように生きていた。


 パン屑すらごちそうだった。


 口に入れる物を得るという、ただそれだけの奇跡は尽き、少年は死に近づいていた。




 それでも、少年は生を望み、空を仰いだ。もはや、水を得る力すら残されておらず。


 空から水が降るのを望むだけだ。


  路地の隙間からに差し込む青く、閉じた空には、赤々と太陽が昇っており、奇跡は起きない。




 太陽の燃え上がるような煌めきは気絶するほど眩しく、自らはさらに暗く濃い影になったように少年は感じていた。




 かすんだ視界の中、少年は再び林檎を眺め、「太陽のようだ」とかすれた声でささやいた。


  少年にはその林檎すら太陽のよう遠かった。果てしなく遠い林檎に向かい少年は手を差し出す。




 すぐにその手は力を失い地面に落ちようとする、その手が落ちた瞬間に少年の命も落ちるかに思えた。






 ――その手は落ちなかった。






 とても柔らかく暖かいものが少年の手を包んだ。


  少年の霞んだ視界には、少年の手を握る一人の少女が写っていた。




 少年にはその少女が天使に見えた。


 自分を迎えに来た天使に。




 ――ぼくの手なんか握ったら、天使さまの手が汚れてしまう。


 そう少年は思ったが、手を動かす力はもはや残ってはいない。




 しかし、少年は間違っている、その少女は少年に死を与えるために来たのではなく、少年に生を与えるために来たのだ。


 その少女は少年に惹かれていた。




 生を望む、その目に引かれていた。





 少年は気づいていない、見上げていた太陽のように自らの瞳が輝いていることを。




 


 少年は命をつなぐ。




 太陽の瞳をした少年は、天使のような少女に命を拾われた。




 これは灰色の街で起きた小さな出来事。




 太陽の瞳を持つ少年が生を掴んだ。




 ただ、それだけのちっぽけな話。

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