表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
檻の中  作者: 水上夕羅
6/8

6


 キキは、それからも毎日歌った。時々、セイと一緒にも歌った。しかし、キキの美しく澄んだ声が、日毎にか細くなっていくのを、セイは感じていた。

「ねえキキ、無理しないで。もう、声を出すの辛いんでしょ……?」

 キキは苦しそうに微笑むばかりで、歌うことをやめなかった。

「キキ、お願いだから」

 どんなにセイが懇願しても、キキは歌い続けた。高い音が出なくなっても、途切れ途切れになっても、歌うことをやめない。セイはもうキキを止めようとはしなかった。歌っている時のキキは、とても穏やかな表情をしているから──。

 キキはどんな時も、歌を途中でやめなかった。しかし、その日、キキの歌声は途切れた──。

「キキ!キキ!」

「セ、イ……」

 キキの瞳は虚ろだった。キキの横たわる身体の傍らで、セイは彼女の手を両手で握りしめる。嫌だ。こんなのは、嫌だ。

「セイ、あたた、かい、ね」

 キキの手は冷たくなっていく。自分の体温を分け与えようと、ぎゅっと彼女の手を握りこむが、温度は失われるばかりだった。

「キキ、どこに行くの。僕を置いて行くの。嫌だ、嫌だよ、行かないで」

 ぽろぽろと涙が零れ落ちる。しかし、それを拭うことはせず、頑なにキキの手を離そうとしなかった。

「セ、イ……」

「なに、なにキキ」

 キキがかすれた声でセイに語りかける。それが最後の言葉に思えて、セイは必死で耳を傾けた。

「泣かないで、セイ。私は、今から、大空へ、行くの」

「大空へ……?」

 聞き返すと、キキは儚く微笑んだ。

「大空へ行く方法、私ね、もう一つだけ、知ってるの」

「え?」

「私は、大空へ羽ばたくの。何にも阻まれず、自由に、飛ぶの。やっと、ずっと夢見た世界へ、行ける……。だから、泣かないで……」

「無理だよ、泣くな、なんて……」

 キキの手を握りながら、涙は溢れ出てくるばかり。すると、キキはかすれた声で歌をうたい始めた。

「キキ……?」

「ねえ、セイ……一緒に、うたって……」

 キキはそれきり目を閉じて、ただただ歌った。セイも目を閉じ、それに合わせて声を重ねる。不思議なことに、セイにはこの歌が過去のどの歌よりも美しく感じた。

 やがてキキは歌をやめ、セイを真っ直ぐに見つめた。

「私、ここでセイに会えて、良かった」

「キキ、待って、キキ」

「セイ、行ってきます──」

 キキはゆっくりと目を閉じ、それきり何も言わなかった。セイはただ歌い続けた。彼女を追いかけ、彼女に、音を重ねていった──。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ