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その日からキキは、毎日歌をうたった。セイは目を閉じ、静かにそれを聞く。毎日飽きることなく続けられたが、ある日キキは言った。
「ねえ、セイ。あなたも一緒に歌いましょうよ」
思いがけない提案に、セイは目を丸くした。
「む、無理だよ!!」
あんなに美しい歌声に自分の声を重ねるなど、考えられない。するとキキは言った。
「大丈夫よ!あなた、前に私の歌を真似たことがあったでしょう?それ、本当に上手だったわ。私がちゃんと教えるから、一緒に歌いましょうよ」
あまりに目を輝かせて言うものだから、とうとう了承してしまった。不安はあったが、キキと一緒に歌えたらきっと楽しいと、そう思った。
そうしてキキは、セイに歌を教えてくれるようになった。何度も、丁寧に、セイがちゃんと付いて来られるように教えてくれる。その時間はとても心地良いものだった。前の檻にいたときは分からなかったが、自分は音を真似ることに長けているらしい。
そして数日後、セイは初めてキキと一緒に歌うことになった。セイは少し緊張していた。それが伝わったのか、キキは静かに手を繋いでくれる。
そして、キキの合図でそれは始まった。キキの美しく澄んだ高音。セイもその音を追いかけ、高く上り詰めていく。二つの高音は螺旋状にうねり、重なり合う。それは檻を飛び越え、どこまでも突き抜けて、そして消えた。
辺りは無音。高音の余韻に浸り、静まり返る。静寂を破ったのはキキだった。
「す……」
「え?」
「すっっごい!ねえ、すごかった!私、大空を羽ばたいているようだったわ!」
「大空?」
耳なじみのない単語に、セイは首を傾げる。キキは興奮を落ち着け、教えてくれた。
キキの話によると、大空、というものこそ、いつか青年が言っていた青の世界のことらしかった。
「その青はどこまでも無限に続いていてね、なんのしがらみもないのよ」
「無限に続く青……」
「私、一度で良いから大空を見てみたいわ」
そう言って、遠い目で檻の向こう側を見つめた。