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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
8/58

年下の姉、年上の妹

ブリッジに入ってきたレネは、黒色のタンクトップの上に深緑色の整備用シャツを着て、下は同じ深緑色のカーゴパンツに黒いブーツという格好で、首にはタオルをかけていた。

先程まで修理していたのだろうか。

服はところどころ油や土で汚れている。


「あ。団長もいるんだ。やほー。」


レネはダウリンの方に歩きながら、片手を軽くあげる。


「やぁ。レネ」


ダウリンも同じように片手を上げて、レネに挨拶する。


「さっき、リリ先輩が団長を呼び出してた話ですか?」


シーバは同じチャンネルを使っている人全員に会話が聞こえるようになっている。

赤い靴団では情報共有のために皆が同じチャンネルを使っているので、リリとの会話をレネも聞いていたことになる。


「そうだよ。今さっきまで、リリとその件で話してたとこ。」


レネは2人の席の近くまで来たところで、ダウリンとリリの様子を見て、何かを察したようだ。


「なるほど。それで何か団長を頼らなきゃいけなくなって、リリ先輩が拗ねているって訳ですね。」

「いや、そう言うことでも無いんだけど・・・」


レネは少し変なように誤解しているようだ。

ダウリンがどう説明しようかと考えていたら、レネは艦長席の前に回り込んで、そっぽを向いているリリの前に来てしゃがむ。

レネは背が高いので、しゃがんでも艦長席に座るリリと目線がさほど変わらない。


「リーリセーンパイ。機嫌直そ。」

「・・・」


まるで子供をあやすかのように穏やかなトーンで話しかけるレネに対して、リリは反応せずにあさっての方向を向いたままじっとしている。


「もう少し気楽に考えようよ。たまには団長に手伝ってもらうくらい、いいじゃん。罰が当たるわけじゃないし。」

「・・・」


レネはリリの顔を見つめながら微笑む。


「ほんと頑固だよね、リリ先輩って。ま、そうやって意地を張ってるところが、また可愛いんですけど。」


そう言って笑うレネに、とうとうリリは我慢ができなくなったようで、レネの方に顔を向けた。


「うっさい、レネ。変なこと言うな。それに私は別に団長に頼らなきゃいけなくなって怒ってるんじゃないんだから。」

「はいはい。わかりました。そうやって膨れっ面になってるところとか超可愛いですよ。プロマイド売ったら、バカ売れしそう。」

「話を聞きなさいよ、レネ!怒るよ!」

「もう怒ってるじゃないですかー。」


そう言って、レネはニコニコしながらリリの頭を撫でる。


「もう!こらっ、頭を撫でるな!」


リリはレネの手を払いのけようとするが、レネがリリの腕を高速で掴んで離さない。

うぐぐと唸りながらしばらくリリは抵抗したが、重量のある機材を軽々と運ぶレネの筋力には当然敵わず、すぐにリリは諦めてレネのなすがままに頭を撫でられ続けた。


リリの方がレネよりも年齢は上だが、レネが身長が高い分、2人が並ぶとレネの方が年上のように見える。

2人がじゃれ合っている姿を見ても、まるで拗ねている妹を姉が頭を撫でながら愛でているようである。


「それで、リリ先輩。さっきの拗ねてた話って新しい依頼のこと?」

「・・・そうよ。」


レネの強引な介入によって、さっきの会話がなんとなく有耶無耶になったせいか、リリは気を取り直して、レネにカルシータからの依頼の話を始めた。

ダウリンはその話を聞きながら内心、レネに土下座する勢いで感謝していた。


「団長、出発はいつ頃になるんですか?」


リリの説明を一通り聞いた後、レネは立ち上がって艦長席の後ろに周り、両肘を乗せて寄りかかるような姿勢になりながら、ダウリンに質問した。

レネは背が高いので、艦長席の背もたれがちょうど肩の高さに来ている。


「できれば、明日の朝には出たいなと思っているんだけど。」

「それなら、修理は間に合いそうですね。私の方はあとチェックだけですし、ニルクの方もあと2時間もあれば終わると思います。」

「そうか。ならよかった。」

「でも、ちょっと気になることが一つあるんですよね。」


そう言って、レネは少し悩ましいような表情をする。


「気になること?」

「実はここに来たのもそれを確認したくて。リリ先輩、サブ2タンクのゲージって見れます?」

「サブ2?ちょっと待って。」


リリが目の前の操作卓の中から横一列に並んだボタンの一つを押す。

ボタンを押すと目の前の計器群の針が一斉に左端に振れ、またすぐに右側に針が振れて止まる。

針は先程指していた位置とは違う場所を指している。

リリはたくさんある計器の中の一つの計器を針の位置を確認する。


「今が、ちょうど半分くらいかな。ん?結構減ってるなぁ。」

「あー。やっぱりそうかぁ。」


レイナが頭に手を当てながら苦い顔をする。


「サブタンクって、帝国でる時に両方満タンにしてなかったっけ?」


リリは座席に体を預け、背もたれに寄りかかっているレネの方に顔を上げる。


「満タンにしてる。普通はほとんど減らないんだけど。さっき修理してたら、サブ2タンクから魔力炉に繋がってるパイプに変色してるところを見つけて。この減り具合からすると、多分そのパイプから漏れてると思う。」

「まじか。パイプの交換ってできないの?」

「部品が手元にないし、一度タンクの中身を空にしなきゃいけないから、どのみちハウスに戻るか、整備港がある街にいかないと交換は難しいと思う。一応、この後応急処置で遮断テープで覆うようにはするけど、漏れる量が少し抑えられるだけだと思う。」

「そっか。んー。」


リリが操作卓の方を見つめながら、腕を組んで少し考える。


「サブ2タンクってさ、設備系じゃなくて武装系に繋がってるんだよね?」

「そう。サブ1が艦内設備、サブ2が武装設備に繋がってる。」


リリの質問にレネは簡潔かつ的確に答える。


「満タンにしてから3日間くらいで半分か・・・。そしたら、途中でもう一度タンクを満タンにしようか。今回の依頼で戦闘するとしたら多分明後日だから、明日どこかで燃料補給すれば、依頼をこなしてもタンクが空になることはないと思う。」

「なるほど。」

「ま、漏れてるのは気持ち悪いけど、港によって修理する時間もないしね。問題は給石所が近くにあるのかってとこなんだけど、ここからビルク方面に行く航路の途中で確か給石所があったと思うんだよね。」


そう言って、リリは右側の操作卓の下にある引き出しを開けて、付箋がいくつもついて端が少し寄れた地図本を取り出す。

デカいチーズのロゴが表紙に描かれた、ベストセラーの地図本である。

本の中には世界地図はもちろんの事、街の史跡や観光スポット、公式の航路、休憩場所や給石所なども地図上に記されており、国を転々とする熊狩団には必携のアイテムである。


リリは使い込まれた愛用の地図本を広げ、指で航路を辿りながら本をパラパラとめくる。

レネもリリの頭の上から地図本を覗きこんでいる。


「あった。155航路沿いに1件ある。」

「お。それじゃあ、リリ先輩の作戦でいけそうってことだね。よかった。」


レネが少しほっとした表情を見せる。


そうしてリリとレネが作戦を考えている一方で、ダウリンはその様子を見ながら、2人が初めて出会った時のことを思い出していた。

最初の2人はお互い意見が食い違って、すぐに喧嘩をするような関係で、とにかくなだめるのが大変だった。

どちらかが団を抜けるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、気がついたら今のように、まるで本当の姉妹のように仲良くなっていた。

何故、犬猿の仲だった2人が急に密接な関係になったのか?

昔2人に聞いてみたことがあったが、2人とも教えてくれず、今もその理由は知らない。

あの時悩んでいた自分が、今の目の前の2人の光景を見たら、どう思うだろうか。

驚く?いや、ほっとするかもしれないな。

あの時は2人とも、本当に団から抜けてほしくなかったから。


「団長。その顔、禁止。」


リリの鋭い声で、ダウリンの意識が現実に引き戻される。

気づくと2人ともこちらを見ていて、リリはしかめっ面で睨み、レネは目を細めて笑っていた。


「え。俺って、今どんな顔してた?」

「なんかー、ニヤニヤしてましたよー。子供の成長を見守る、パパみたいな。」


レネが笑いながら答える。

ダウリンはすかさず両手で顔を押さえる。


「・・・そうか。気をつけるよ。」

「で、団長。レネの件はさっきの作戦でいい?」


この団の最終的な決定権は当然団長のダウリンにある。

リリの確認に、ダウリンは頷いた。


「いいよ。それでいこう。」

「OKー。じゃあ。あとの詳しい作戦の詰めは今日の夜で。」

「あぁ。じゃあ、みんなにも伝えておかないとな。」


ダウリンは指輪を触り、シーバを起動した。


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