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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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ブリッジのお茶会

カルシータとの雷通を終えたダウリンは、団長室の上にある「RB」のブリッジに向かった。

ブリッジに入ると、芳醇なお茶の香りがダウリンの鼻腔をくすぐる。

ブリッジの中に目を向けると、艦長席からウサギの耳のフードが飛び出ているのが見えた。

さらに艦長席の左隣には普段置いていないサイドテーブルがあり、その上には白磁器のティーポットと、茶葉が入った缶、そしてクッキーが皿の上に並べられているのも見える。


ダウリンは艦長席の方に歩きながら、ウサギ耳に声をかける。


「リリ。さっきは連絡ありがとう。」


ダウリンの声にウサギ耳がピクンと動く。

まるで本物の耳のようだ。


「なんだ、団長か。いいえー。カルシータさんとの話は済んだの?」


「あぁ。さっき話をしてきた。」


ダウリンは艦長席の右側にある副艦長席に横に腰掛けて、通路を挟んで反対にある艦長席が正面に見えるような形で座る。

この席は普段は使われていないため、ダウリンがブリッジにいる時はなんとなくこの席に座っている。


ブリッジは幅が約10メトル、奥行きが約15メトルほどの2段構造となっている部屋だ。

入り口から通路を進むと、まずダウリン達が座る艦長席のフロアになる。

艦長席のフロアは、中央に艦長席、右側に今ダウリンが座っている副艦長席がある。

そして艦長席の左側、サイドテーブルの左横には重厚な鉄板で組まれたと思われる鉄の箱が置いてある。

この箱は「RB」のコアとなる部分で、この中には「RB」の心臓かつ脳といえる大規模精霊システムが格納されている。


さらに艦長席と副艦長席の間を抜けて通路を進むと、下のフロアへ続く階段につながる。

10段ほどの階段を降りると、そこは操舵・通信・艦内制御などを担当するフロアだ。

さらにその奥、ブリッジの前面には、下のフロアから天井までのおよそ2階分の高さの全てが強化ガラス張りとなっていて、艦の前方がよく見える形になっている。

とはいえ、今は迷彩シートが掛けられ、ほぼ何も見えないが。


ダウリンは下のフロアをちらっと見る。

下のフロアにはダウリンが今座っている席とおなじものが5席あり、それぞれの席の前には各種パネルやらボタンやら計器類やらがずらっと並んでいる操作卓が置かれている。

ダウリンとリリが座る席の目の前にも操作卓はあるが、下のフロアにある操作卓の方が何倍も大きい。

ただ、その操作卓は今は全て止まっていて動いていない。

なぜなら、下のフロアはこの船を運用し始めてから今まで一度も使った事がないからだ。


その理由を彼女、「RB」の頭脳である大規模精霊システムのアルビーならこう言うだろう。

「この「RB」が自ら思考し行動する画期的で天才的な艦だからだぞ。」


そもそも彼女の話では「RB」は本来7人で運用する前提で設計された艦らしいが、太古の昔に捨てられてダウリンが見つけるまでの間、あまりに暇すぎてアルビーが自らを改造し続けた結果、艦長席から操作するだけで艦を動かせるようになったそうだ。

その話を自慢げにされた時は、すごいという感想よりも先に、自分で自分の体を改造する事を想像して気持ち悪くて身震いした事を覚えている。


そういうわけで、この艦はその大きさの割に1人で操作可能という、造船会社が聞いたら卒倒しそうな滅茶苦茶な作りの艦になっている。

そして、そんな滅茶苦茶な艦の最も重要な場所とも言える艦長席には今、艦長のリリ・ラーヌビットが両膝を抱えるように座り、両手でティーカップを持ちながらお茶の香りを楽しんでいた。

上はウサギ耳のフードがついた半袖のピンクのパーカーに、下は白色のハーフパンツを履いていて、自分の体と背もたれの間にはピンクのフリルがついた可愛らしいクッションが挟まっている。


依頼がない休みの時には、リリはいつも艦長席でこんな風に1人でお茶会をしている。

ダウリンも時々お呼ばれするが、艦長席の光景だけ切り取れば、まるで少女の部屋みたいだなとダウリンはいつも思っている。

おじさんには少々眩しい。


そんな、見た目は艦長という言葉から最も遠いところに位置していそうなリリだが、艦長歴は10年を超える。

「RB」の操作なら誰よりも上手いし、さらには熊狩団の艦長でもあまり学んでいる人はいないであろう、対熊戦術論、艦隊運用論といった戦略戦術論もあらかたマスターしていて、知識の面でも頼りになる存在だ。


リリは右手に持ったカップを口元に運ぶと、お茶を静かに一口飲み、ほぅと小さい口から溜息をこぼす。

お茶を堪能しているその顔は僅かに微笑んでいる。

その表情から察するに、どうやら今回は当たりのお茶を引いたようだ。

ふと、リリがダウリンの視線に気づく。


「え、何?ちょっと、そんなに見ないで欲しいんだけど。なんか顔についてる?」


リリは少しこっちを睨らみながら手を顔にあてる。


「いいや。随分美味しそうに飲んでいたからさ。今回は当たりのお茶だったのかなって思って。」

「あぁ。そういうことか。まぁそうね。このお茶、帝国で最近できたお茶屋のなんだけど。この前たまたま見つけてさ。試しに買ってみたら、結構私の好みだったんだよね。特に香りがよくて。」


金の淵のティーカップをサイドテーブルの上にある、同じデザインのお皿に置きながらリリが答える。


「そういえば、ここに入った時も、とてもいい香りがしてたよ。なんか果物みたいな感じの。」

「でしょ!このお茶、ベースの茶葉はどこでも買えるような普通の茶葉なんだけどね。ペンタスベリーとウグツ木、あと多分イコニコ茸が隠しで少しだけ入っていて、とにかくすごくいい香りが立つようになってるんだよね。」

「そんなブレンドの中身までわかるんだ。」

「当たり前でしょ。お茶好き何年やってると思ってるの。」

「すいません。失礼しました。」


リリの目が急に鋭くなったので、ダウリンは反射的に敬語で謝ってしまう。


「ここの茶師さんは相当の腕だよ。普通はこんなに別々の種類を混ぜたら香りが喧嘩しちゃうし、味や色味も落ちちゃうから。こんどあのお店に行く時は他のものも買わなきゃ。久しぶりにいいお茶に巡り会えたわ。」


リリがこんなに興奮気味に話しているのは珍しい。

リリはお茶には本当に目がなくて、任務の間に立ち寄った先々の街で、様々な茶葉や茶茸、茶木を買い求めている。

さらには自分でオリジナルのお茶の開発もしていて、様々な茶材をブレンドしては、試行錯誤を繰り返している。

ただ、時折艦内で異臭がしたり、げっそりとやつれた顔をしていることもあるので、お茶の開発は難航しているようだ。


リリはお茶の話をして満足したのか、小さい両手を組んで手のひらを前方に突き出しながら体を伸ばす。


「ふぅ。で、団長。さっきのカルシータさんの用件は何だったの?」

「なんだと思う?」

ダウリンはなんとなくリリの質問に質問で返してみた。


「うーわ、うざ。きも。めんどくさ。」


リリの容赦ない言葉がダウリンの胸に突き刺さる。


「リリさん、そんなに言わなくても良くない?」

「私は回りくどい奴が嫌いって、いつも言ってるでしょ。」


それはそうだと、ダウリンは納得する。


「カルシータからの新しい依頼だよ。みんなには悪いけど、急ぎの依頼だったから決めてきたよ。」


ダウリンはカルシータの依頼の内容をリリに説明した。

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