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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第2章 エルツェン
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パンの配達

「それじゃあ、配達に行って来ます。」

「おう。」


ダウリンは店の裏口から出て、配達用の小型艇に乗り込む。

後ろの荷台には焼き上がったパンが棚一杯に詰めてある。


「ダウリン。」


小型艇のキーを入れてエンジンをかけようとしたところで、裏口から出て来たヒナトに声をかけられた。


「あれ?店番は?」

「丁度人がいないから。それより気をつけてね。」

「あぁ。大丈夫だよ。むしろ俺は君の方が心配だけどね。」

「私はそんな弱くないもん。なめないでよ。」

ヒナトが不満気に頬を膨らます。

「それくらい元気なら大丈夫か。」

「そういえば。今日は午後から嵐が来るって話だから、なるべく早めに帰って来た方がいいよ。」

「嵐か。」


ダウリンは空を見上げる。

建物の隙間から見える空は青く、嵐が来るようには見えない。


「了解。早めに配達を終えてくるよ。」

「うん。帰ったら、またあのお茶、淹れてあげるよ。」

「いいね。ついでにクッキーもつけて欲しいな。」

「シシカ屋のね。よっぽど気に入ったんだね。」


ヒナトが嬉しそうに笑う。


「おい、ヒナトー!お客さん待たせてるぞー!」


裏口の奥から店長の大声が聞こえる。


「やっば。それじゃあ気をつけてね、ダウリン。」


ヒナトは手を振ると慌てて、裏口に引っ込んだ。

その様子にダウリンは苦笑する。

小型艇のエンジンをかけると、小気味良い音が鳴った。




ダウリンがパン屋『星うさぎ』を手伝うようになって一週間経った。

仕事にもすっかり慣れたし、配達もしているので、街での顔見知りも増えた。


ダウリンは大通りを右に曲がる。


『星うさぎ』で働くようになってわかったことがいくつかある。


まず『星うさぎ』は意外と人気店であること。

全身筋肉の塊で、見るからに鬼軍曹という風貌の店長が作り出すパンは、まるで可憐な少女のように繊細だ。

ジョッキを片手で割りそうなゴツい手から、よくもこんな芸術品のようなパンが出来上がるものだと感心する。


お陰でパン屋は毎日盛況で焼いても焼いてもすぐに売り切れる。

この前は美味いパンがあるとの噂を聞きつけて、1週間もかけて遠い国から来たという客もいた。

どうやらこの店は、そこそこ名が通っているらしい。


次にわかった事は、エルツェンが随分とシュラーに助けられているという事だ。

配達をしていると、街中のあちこちでシュラーのロゴが入った看板が目に入る。

シュラー自体は飲料メーカーだが、世界的な企業になってからは多角化経営もしているようだ。

いろんな企業を買収して事業を拡大し、今や世界でも有数の巨大グループ企業になっていると、街の人が自慢気に教えてくれた。


特にエルツェンでは、街で売られている商品のほとんどがシュラーグループじゃないかと思うくらいに、いろんな商品にグループのロゴが貼ってある。

配達先のレストランのオーナーは、昔シュラーの会合でレストランを使ってもらったことがあったが、大統領がシュラーの社長に終始ご機嫌取りをして頭を下げていたと、教えてくれた。

その時は内心、国の代表より企業の社長が偉いだなんて冗談だろうと思った。

しかし、エルツェンで過ごす時間が長くなるにつれ、あながち冗談じゃないかもしれないと思うようになった。



ダウリンは一軒目の配達先にパンを届けると、また小型艇を走らせる。



あのリュヒトという男についても色々とわかってきた。

彼はシュラーの現社長の長男で、街の人の評判はすこぶる悪かった。

なんでも、至る所で威張り散らかして、やりたい放題しているらしい。

社長夫人が甘やかしすぎて、教育がうまくいかなかったというのがもっぱらの噂だ。

最近でも、リュヒトに意見をした社員が即日クビにされたという話で客達が盛り上がっていた。

その他にも、下請けの工場に圧力をかけて潰したり、賄賂に応じなかった会社が干されたり、暗い噂が後を立たない。


リュヒトを制した時、ヒナトがなぜ酷く心配していたかが、今ではわかる。

リュヒトには逆らわない。

それがこの街で平和に暮らす為の賢いやり方なのだ。


では、賢くなかった者はどうなってしまうのか。


その答えをダウリンは今も体験している。

2日ほど前からだろうか。

配達している時に、後ろからダウリンの事を追いかける人間がいた。

追跡者は2人。

常に一定の間隔を保っているので素人ではない。

気づかないふりをしながら観察していると、どうやら追跡者達はダウリンが人気のない場所に来た時を狙っているようだった。

だからダウリンは遠回りであっても、あえて人が多い道を通り、どうしてもひと気のないところに行かなくてはならない場合は、追跡者を先に巻いてから行くようにした。

そのせいだろうか。

今日ダウリンの追跡者が4人に増えた。


小型艇のサイドミラーを見る。

30メトルくらい後ろを小型艇が2艇、中型艇が1艇つけているのがわかる。

さて、どうしたものか。

配達を先に終わらせてから撒くか、先に撒いてしまうか。

ダウリンは首を傾げながら考える。

すると、鐘の音が聞こえた。

エルツェンには各所に時の鐘が設置され、1時間毎に時を告げるのだ。

いつもは次の配達先に着く頃合いに聞こえるので、今日は少し遅れていることがわかる。


まずは配達を終わらせるか。


ダウリンは小型艇の速度を少し上げた。


すいません。久しぶりの更新です。

なかなか忙しくて書けない時間が続いてますが、気長にお付き合いください。

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