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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第2章 エルツェン
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湖畔を望む公園

エルツェンは東側の湖畔地域と西側の丘地域に大きく分かれている。

湖畔地域は国の主要機関や駅、港などが集まっており、近代的に発展している地域だ。

一方西側の丘地域は住居が多く、石と木造りの家々が並んでいる。

この辺りは東と違って古くに開発された土地で、タッシュコートがいなくなってから、難民の住居問題解決の為に、急いでモーブの伐採と根絶処理をして、家をどんどん建ててできた場所である。

当然、その時は都市計画なんてものはなかったので、道は狭く入り組み「坂の迷路街」と揶揄されるほどに複雑怪奇な街となった。

そんな迷路街の一角、建物と建物の間の細い道を抜けた先にある、湖が見える公園のベンチに、中年の男が寂しそうに座って、湖を眺めていた。


ダウリンである。


「どうしよ。」


我ながら、こんな情けない事はない。

1人で大丈夫だと自信満々に来たら、街に来て1時間もしない内に、すっからかんの金無しである。

リリが聞いたら、ものすごい剣幕で怒られることは間違いないだろう。

考えただけで胃が痛くなる。


「はぁ。なんとかお金を作らないとなぁ。」


正直、衣食住はどうとでもなる。

かつて、大昔に自暴自棄だった時は半年の間何も飲まず食わずにいたが、それでも死ぬことはなかったし、

寝る場所も街はずれの樹海に雨避けの自然の囲いを作って、落ち葉のベッドを拵えれば案外快適に過ごせる。

さすがに衣服だけは魔術の力を借りるしかないが、清潔にしておく事は可能だ。

ただ、金が無ければ肝心のハニー探しができない。

元々は知り合いのつての情報屋を使おうと考えていたので、1から考え直す必要がある。

なんとしても、団のみんなが合流した時に何も情報がないという状態だけは避けたい。

皆に白い目で見られて、耐えられる自信がない。


幸いこの街は働く場所には困らなそうだが、元々の金額まで貯めるには相当時間がかかりそうだ。

もしかしたらと思って持ってきた、奥の手を早速使うことになるかもしれない。


ダウリンは鞄の中から古い封筒を取り出す。

封筒の宛先にはダウリンの名ではなく、「リンド・ジミヤ様へ」と達筆な文字で書いてある。

ダウリンは封筒の裏に書いてある送り元の名前を見て、ため息をつく。




気が引けるなぁ。

こういった事であまり巻き込みたくないんだけどな。




ダウリンは封筒を再び鞄にしまうと、目の前に広がる街並みとその先にある湖を眺めた。

空には少し雲が出ているので時折日が陰るものの、陽光は穏やかに降り注ぎ、吹く風も暖かい。

公園の端に植っている緑桜の木には緑色の花が満開に咲いている。

今、世界は眩しく輝いていて、美しかった。

その分、それとは真逆な今のどん底の状況がより強調されている気がする。


日がまた雲に隠れ、先ほどまで陽光で煌めいていた公園に翳りができた。


あてもなく彷徨ってここまで来たけど、とりあえず夜が来る前にどこか寝れそうな場所を見つけておいた方がいいな。

とりあえず西の先の森まで行って、寝床を確保しよう。

樹海なら人目もないから魔術も使える。

さて、森の野宿は何年振りかな。




「ちょっとぉぉぉ!止まってェェェ〜!」




急に女性の叫ぶような声が聞こえ、ダウリンが声のした方を振り向くと、公園の入り口からパンの絵が書かれた小型浮遊艇<スリーク>が飛び出してきた。

女性が必死の形相でハンドルを握っているが、どうもブレーキが効かないようだ。

このままだと、小型浮遊艇は女性を道連れに公園の柵から飛び出して、崖下に落ちてしまう。


「百合宮三節 瀬走り」


ダウリンは術を唱えると、走り出した。

補助系魔術を得意とした百合宮家の代表作。

対象者の脚力を強化する魔術だ。

一瞬にして小型艇の前に走り出ると、向かってくる小型艇の前方に蹴りを入れる。

小型浮遊艇の前面がダウリンの足で凹み、その勢いを急激に止められたせいで前のめりになる。

ダウリンはそのまま片足だけで小型浮遊艇を浮き上がらせるように支え、勢いを殺す。

後方は完全に浮きあがり、小型艇に乗っていた女性もその運転席から、そのまま前方へと投げ出される。


「いやぁぁぁ!」


女性が悲鳴を上げながら宙を飛ぶ。

ダウリンは小型浮遊艇から足を離すと、すぐに女性の落下ポイントに先回りをして、落ちて来た女性を両手で抱え込んだ。


「よっと。大丈夫ですか?お嬢さん。」


ダウリンが声をかけるが、女性は涙目で、あまりの恐怖に歯の根が合わないような様子で、小刻みに震えながらあうあうと首だけを縦に振った。

ダウリンは女性を抱えたまま、先ほどまで座っていたベンチに戻ると、女性を座らせる。

その後、小型浮遊艇を確認すると、小型浮遊艇はダウリンの蹴りで完全に止まったようで、横倒しになっていた。

あれならもう暴走することはないだろう。


「あ、あの。助けて頂いてありがとうございました。」


座っている女性がダウリンを見上げなら礼を言った。

それにダウリンは笑顔で応える。


「いえ、たまたまですよ。それよりよかった。危ないところでしたね。」

「はい。本当に死ぬかと思いました。」

「どうしたんですか?故障したとか?」

「多分。実はわたし小型浮遊艇に乗るのが今日が初めてで。ずっと慎重に運転してたんですけど、途中からブレーキが効かなくなってしまって。」

「なるほど。もしかして、ブレーキずっと使ってました?」

「え?あ、はい。慎重に運転してたので。」

「多分それですね。ブレーキを使いすぎると魔術紋の制御機構が熱を持ってうまく動かなくなるんですよ。そうなるとブレーキをしてもスピードが落ちず、暴走してしまうんですよ。」

「そうだったんですか。」


暴走の原因を理解した女性は、すごく落ち込んだ顔になる。


「誰かに教えてもらわなかったんですか?」

「確かに店長に、ブレーキは使いすぎないでとは言われていたんですけど。大丈夫って言って見栄張って店を出たから、事故を起こしてはいけないと思って慎重になっちゃって。」

「そうですか。パンの配達も、なかなか神経を使いますからね。」

「はい。え?あれ?なんで私がパンの配達してるってわかるんですか?」

「それは、小型浮遊艇に書いてあったんで。パンの絵が。」

「あぁ、確かに。はい。実は、ちょっと行ったところのパン屋で住み込みで働いているんです。あ!パン!」


そう言って女性は慌てて、小型浮遊艇の元へ小走りで向かっていった。

小型浮遊艇の後ろには箱のようなものが取り付けられており、どうやらそこにパンが入っているようだった。

女性は箱の扉を開けて中身を確認すると、ひどくがっかりして悲しそうな顔をした。

そして、大きなため息をついて、とぼとぼと歩きながら戻ってきた。

その様子にダウリンも箱の中身がどうなっているか、大体察した。


「だ、ダメでした?」

「いくつか潰れちゃってました。帰ったら店長に謝らないと。」

「すいません、必死に艇を止めることだけ考えてたので。後ろの荷物の配慮ができず。」

「いえ、そんな。謝らないでください。私が悪いんですから。」

「ですが、それ配達用のパンですよね。私がそのパンを買えればよかったんですが、生憎手持ちもなくて。」

「そんな。助けてもらっただけで十分です。」


女性は謝るダウリンに必死で手を横に振る。

そして、はっと気がついたような表情をする。


「そうだ!助けてもらったお礼に、お店でパンをご馳走させてください。」

「いえ。それはこちらが悪いですよ。浮遊艇も潰して、パンも潰しちゃったし。」

「で、でも、何かお礼をしないと私も申し訳なくて。」


お互いに折り合うところがなく、困った空気になってしまう。

ダウリンはどうしたものかと思ったが、ふと、ある考えが頭に浮かんだ。

少し図々しいか?とも思ったが、ダメもとで言ってみることにした。


「あの、それなら、一つお願いがあるのですが?」

「はい?」

「私もそのパン屋さんで働きたいので、あなたからも店長に頼んでもらえないでしょうか?」

「え?あなたがですか?」


ダウリンの提案に、女性は不思議そうな顔をした。

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