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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第2章 エルツェン
45/59

プロローグ 月と少女と運命の岐路

——シャルフジーマの戦いより3ヶ月前——


月。


絵本に出てくる月はいつも微笑んでいた。

主人公を見守り、暗い夜に迷子になった時は帰る道や進むべき道を優しい光で教えてくれた。

でも、実際の月は違う。

迷子になった私をただ照らすだけだ。

その光は主人公ではない私を嘲笑しているかのように冷たい。


絵本に出てくる月のように私の道を照らしてくれる存在はもういない。

とうの昔にいなくなってしまった。

それから出会った人達は皆道を照らすのではなく、私を閉じ込めるか、自分が決めた道を進ませようとした。

だから、もう他人に期待なんかしない。

自分で光が差さない暗闇を懸命に手探りしながら前に進むしかない。

それで手が切れても腫れても刺されてもそうするしかない。

そう思ってきた。

きたけど。

けど。




もう、疲れちゃった。




月明かりに照らされた青暗い暗闇を白い光達が一列に進んでいく。

光の正体は雷船のライトとそれに繋がる列船の窓から漏れ出る光だ。

雷船は列船を引きながら樹海を滑るように高速に進んでいく。

後ろの列船は10隻あり、それぞれに乗客の姿が見える。

列船の窓の一つを覗くと、そこには少女が虚な目で、月を眺めていた。

少女がいる客室は2等客室で、2人掛けの座席が向かい合わせになっていた。

後は入り口の近くに荷物置き場があるだけで、1等客室と比べたらだいぶ質素な作りだ。

それでも3等客室や普通の席と比べたら雲泥の差ではある。

少女の隣には赤いスーツを着て雑誌を読んでいる20代後半くらいの女性、そして少女の向かい側には、こちらも茶色いスーツを着た30代の男性が新聞を読んでいた。

3人とも一言も喋らない。

客室内は重い空気に包まれて、列船のエンジン音と船が揺れる音が聞こえるばかりだった。


ふいに客室のドアからノックの音が聞こえた。

雑誌を読んでいた女と新聞を読んでいた男は目だけを合わせ、各々スーツの裏へと右手を伸ばす。

その一連の動きは滑らかで、明らかに手慣れていた。


「すみません、切符を拝見しに参りました。」


男は女に顎で行けと示すと、女は顔を一瞬歪めてなぜ私が?という意思を示すが、すぐに諦めて渋々という体でドアの前に行く。


「切符だったら、出発した時に見せたけど?」


女はドア越しに答える。


「誠に申し訳ありません。こちらの手違いで。2等客室の切符の数と乗客の方の数が合わなくてですね。再度2等客室の方に切符を確認してまわっているんですよ。」


女は振り返り、顔だけで男にどうする?と質問をする。

男はそれに頷きで答えた。


「わかったわ。」


そう言って女は引き戸のドアをそっと開けた。

ドアの前には青い車掌の服を着て、帽子を深く被った長い髪の女性がいた。


「ご協力ありがとうございます。」




少女はしばらく月を眺めていた。

まるで、月だけが自分のことを慰めてくれてるかのように。

ふと、少女は違和感に気がついた。

さっきまでしていた列船の音が聞こえない。


列船が止まった?


窓から部屋の方に視線を向けると、同じ部屋にいたスーツの男がまるで時が止まったかのように固まっていた。


これってどういう・・・


「やぁ。やっと気がついてくれたねぇ。」


急に声をかけられた事に驚いて体が跳ね上がる。

声の方を見ると、そこには長い髪の車掌がいた。


「久しぶり。元気にしていたかい?桜の姫君。」


誰?どこかで会ったことあったっけ?


少女は車掌の問いかけに訝しげな表情を浮かべる。


「あぁ、そうか。そうだった。今のあんたは私とは初めましてか。いけないいけない。長く生きるとこういった事が雑になるから困ったもんだ。」


車掌は少女の反応など気にせず、一人で喋りを続ける。


「さて。あんたの事情はわかっている。このままこの男と女に連れられてもロクな事にはなりやしない。そのままあんたは帝国に連れて行かれて、使い倒されて、最後はくたびれた雑巾のように捨てられる。今回のあんたはそういう人生だ。あの時から、今回もそしてこの次もそうやって生きて死んでいく運命だ。ただねぇ、それだと流石に不憫が過ぎると思わないかい?そりゃ役割を負っている魂とはいえ、いくらなんでもねぇ。そこで、この私が直々にあんたを後押しをしてやろうと思って来たって訳だ。」


謎の威圧感を感じる車掌は仁王立ちになり腕を組みながら、捲し立てるように喋っている。

少女はこの状況に戸惑いつつも、頭だけは先ほどと違い高速に回転を始めていた。


「じゃあ、1回しか言わないからよくお聞き。今から1時間後、この船はトンネルに入る。トンネルに入ったら2等船のトイレの一番右側に入るんだ。いい?一番右だよ。そこはその時間、あんた以外は入れないようにしておくから。トイレに入ったら船がトンネルを抜けるの待つんだよ。トンネルを抜けたら船は減速して止まるはずだ。時刻表には書いていないがこの時間、トンネルの出口にある仮駅で貨物列船とのすれ違いを待つんだ。船が止まったらトイレを出て、隣の部屋に入りな。大丈夫、そこも鍵を開けておく。部屋に入ったらそのまま反対側の窓を開けて金網を蹴破って外に出るんだ。金網はそこだけ外れかかっているから、すぐに開くはずだよ。外に出れたらそのまま反対方向の貨物列船に乗り込みな。船が止まる時間はおよそ1分。その時間までに乗り込まないとあんたの命運は尽きたも同然だ。」


矢継ぎ早に説明をした後、車掌は最後に少女に指を刺して決めポーズを取る。


「いいかい。私は運命の路筋だけを伝えただけだ。どの路を進むのか決めるのはあんただよ。」


そう言って指を刺された少女は車掌の矢継ぎ早のトークに圧倒され一言も発せずにいた。

そんな少女の様子はお構いなしに、よしよし、我ながら決まったねと言いながら車掌は満足気だ。


「それじゃあ、私はこれで。あ、そうだった。肝心なものを渡すのを忘れていたわ。ほれ、手を出して。」


言われるがままに少女が手を出すと、車掌はその上に赤い宝石のようなものが嵌め込まれた靴の意匠のネックレスを渡す。


「これ持ってな。そうすれば、あんたを探そうとする人間には、しばらく見つからなくなるから。くれぐれもこの2人には見られちゃだめよ。」


そう言って車掌は颯爽と部屋から出て行った。


少女は混乱しつつも、とりあえず同室の2人には見つかってはまずいと思い、貰ったネックレスをすぐに自分の服のポケットに捩じ込んだ。


「ご協力ありがとうございました。」


車掌の声が聞こえたかと思うと、止まっていた時間が動いていた。


「え。あれ?」


スーツを着た女がドアの前で不思議そうにしている。


「どうした?切符の確認は済んだだろう。」


男が女に声をかける。


「え。ええ。そうよね。」


女は少し首を傾げなら自分の席へと戻る。


女の様子を見て男は少し訝しむ。

そして、少女に視線を移す。

少女は先ほどまでと変わらず月を眺めていた。


こいつ、雷船に乗ってからずっと外を眺めていやがる

気持ちの悪いガキだ。


男はまた新聞に視線を落とした。


トンネルに入ったらトイレの1番右、列船が止まったら窓から外へ。

他の2人に悟られないように月を眺めながら、少女は先ほど不思議な車掌に教えてもらった事を心の中で繰り返し復唱していた。

手を突っ込んだポケットの中にあるネックレスの感触が、先程の出来事が夢ではないことを主張してくれていた。

月を見る少女の目は先ほどと違い、瞳の奥には光が宿っていた。




しばらくして、少女が見ていた月が不意に暗闇に消え、列船の音もこもるような音になった。


トンネルだ!


少女はネックレスを一度強く握ると、小さく息をすって男に声をかける。


「あ、あの。」


男は読む物を新聞から本に変えていたが、音が大きくて聞こえなかったのか、本に視線を押としたままだ。


「あ、あの!」


もう少し声を張り上げたら、男はこちらを見た。

その鋭い目線に少女は視線を反射的に逸らした。


「なんだ?」

「そ、その。トイレに、行きたくて。」


男はため息を一つつくと、雑誌を広げたまま居眠りしている女に声をかける。


「おい。レジーラ。起きろ。」

「うーん。」

「馬鹿が。任務中だというのに。」


男はレジーラの足を自分の足で強めに小突いた。


「う、ううん?」

「こいつがトイレに行きたいと言っている。連れて行け。」

「ふぁぁー。何であたしが連れてかなきゃいけないの?オムツが取れてないガキじゃあるまいし。1人で行かせればいいじゃない。」


スーツの女の言葉に少女は小さく頷いて肯定する。

しかし男は小さく首を振りながらため息をつく。


「だからお前は、いつまで経っても二流なんだ。もし1人にして、こいつが逃げ出したらお前はどうするんだ?どう言い訳をする?どう責任をとる?」

「それは・・・。」

「こいつをレトロアまで連れて行き、引き渡すまでが俺達の任務だ。もし失敗したら、次の日にはお前の頭と体は別々の場所に転がっている。そこの所を忘れるなよ。」

「わかったわよ。連れてけばいいんでしょ、連れてけば。」


女は勢いよく立ち上がると、少女を置いて部屋から出ていった。

少女は内心がっかりしたが、観念して立ち上がって出口へ向かう。。


「おい。」

「は、はい!」


不意に男に声をかけられ、少女は驚く。

下から見上げる男の顔は刃物でできているように鋭かった。


「妙な真似はするなよ。生きて連れてこいという命令だから、お前は生かされているに過ぎない。逃げようだなんて思うな。」


部屋の空気が急に冷たく感じ、胃がキリキリと痛みだし、冷や汗が出る。

まるで男に全てを見透かされているかのようだ。

少女はごくりと唾を飲み込み、はい、と小さく答えてから部屋を出た。


廊下にはレジーラが立っていて、少女が部屋から出て来たところで廊下の突き当たりに向かって親指で行けと指示をした。

少女達がいた部屋は2等客船の2階で、トイレは1階にあり、廊下の左右の端にある階段のどちらかを降りていく必要がある。

少女はレジーラの存在を背中に感じながらトイレへと向かい、1階の途中で隣にある何もプレートが貼られていないドアを少女は通り過ぎながら横目で確認した。


列車が止まったらこの部屋から外に行くんだ。


そう思いながらトイレの入り口に立ったところで、廊下の向こうからドレスを着た大きなご婦人が小走りにかけてきて、少女達を押し退ける勢いで先にトイレのドアを開けて中へと入っていった。


あ、まずい。


少女も慌ててドアを開けて中に入ると、ご婦人が入って1番右側の個室のドアに立ってドアを開けようとしていた。


あそこに入られたら駄目!


少女が勇気を絞って声をかけようとしたら、ご婦人がノブをガチャガチャ回して、何よ!閉まってるじゃない!と文句を言った。

他の個室も同じように閉まっているようで、ご婦人は、もう本当やだ!と吐き捨てながら、トイレから出て行った。


その様子を見ていた少女は絶望的な表情をしていた


嘘。もしかして、もう誰かいる?


あの車掌の言葉では、自分以外に入れないようにしておくと言ったが、先に誰かがいたら意味がないのではないか。

そう思いつつ、確認のために少女は恐る恐る1番右側のドアの前に立ち、ゆっくりとドアノブを回す。

すると、ガチャリと音がして、ドアが開いた。


「何ちんたらしてんのよ。さっさと済ませな。」


後ろからレジーラに声をかけられ、少女は慌てて頷くと、ドアを閉めて鍵をかけた。

そのまま便器の蓋の上に座り深呼吸をする。


よし。何とかここまでは行けた。

あとはトンネルを出たら隣の部屋に行ければいいけど。

あのレジーラをどうすればいいのか。


少女は頭を捻って考えてみるが、大した考えは浮かばなかった。

どうしようと思っていたら、ドアを強い勢いで叩かれた。


「おい!いつまでかかるんだい!」

「お、お腹が痛くて・・・」

「あと3分で出なかったら、このドアぶち破るからね。」


どうしよう。一か八か走ってトイレを出て隣のドアに入るか?

いや、こんな狭い場所で彼女の横を走りぬけるのも難しいし、仮にそれができたとしても、部屋の中に入る前に追いつかれるだろう。

奇跡的に隣の部屋に入れたとしても、その時はドアを破られてしまう。


それじゃあ、ここは大人しく出て、帰り際にあの部屋に入る?

これも難しい。部屋を出てからトイレに行くまで、彼女は自分が何か変な事をしても対処できるように、自分を先に歩かせて後ろを常についてきていた。

帰りもきっと同じだろう。

そうなるとドアノブに手をかけた時点で彼女に捕まってしまう。


どうすればいいの!?


少女は両手でネックレスを握って、さっきの車掌がまた現れてくれないかと祈った。

すると、今までうるさかった列船の音が急に静かになった。


もしかして、トンネルを抜けた!?


トンネルを抜ける時間が思ったより早かった事に少女は焦った。

すると、今度はドアが乱暴に叩かれた。


「おい!3分経ったぞ!さっさと開けろ!」


レジーラの怒号がドア越しに聞こえる。

ドアが何度も叩かれ、その振動で鍵も外れそうだ。

少女はネックレスをポケットにしまうと、立ちあがって深呼吸をする。

部屋はトイレを出て左側だ。

どうなるかわからないが逃げるしかない。

少女は意を結した。

そして、ドアノブにを手をかけた時だった。


「レジーラ!まだそこにいるのか!?」

「カ、カリル!?ちょ!あんた何でこんなとこ入ってきてんの!?」

「話は後だ!急いで部屋に戻れ。緊急事態だ。」

「え!?こいつはどうすんのよ!?」

「ほっておけ!勝手に帰ってくるだろ。いくぞ!」

「はあ?。何だよ、お前が連れて行けって言ったんだろうがよ。くそッ!」


彼女がトイレのドアを乱暴に閉めた音が聞こえた。


息を潜めて耳を澄まして成り行きを見守っていた少女はホッと一息をつく。


駄目だ。

まだ安心しちゃいけない。

もうすぐ列船が止まる。


少女は個室を出ると、トイレのドアを少し開いて廊下を覗く。

廊下には誰もいなかった。


少女はすぐにトイレから出ると廊下を走り、さっき見たプレートのないドアの前に行くとドアノブを回す。

ここでもガチャリと音がして、ドアが開いた。

少女は滑り込むようにドアの中に入ると、ドアを閉める。

入った部屋は薄暗く、部屋の反対側にある金網が付けられた窓から差し込む月明かりだけが部屋を照らしていた。


少女が部屋を見渡すと、中央に大きな棚とその中にいくつも箱やら機材やらが置かれていた。


ここは倉庫かな?


そんな事を思いながら注意しつつ窓辺に寄る。

部屋の窓は3つ横に並んでいた。

多分、この3つの窓の中のどれかの金網が緩くなっているはず。


すると、急に身体が前につんのめった。

少女は慌てて棚に捕まり、足を踏ん張って転ばないように耐える。


減速してる。

あの車掌さんの言った通りだ。

もうすぐ止まる。


少女は急いで窓の金網を調べた。

すると、1番左端の金網の留め具が錆びていて、ネジが外れかかっているのがわかった。


これだ!


少女は窓辺に登ると窓を開けた。

あとは列船が止まったら、この金網を蹴破るだけだ。


船が次第に減速しているのが体感で分かった

あと少し。あと少し。

あと少しで私は自由になれる。


その時だ。

廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえた。

そして、すぐに隣のトイレのドアが乱暴に開けられた音と、自分を探す女性の怒号が聞こえた。


まずい!彼女が戻ってきた!


少女は早く止まってくれと祈るが、船は出たスピードを丁寧に落としているのか、なかなか止まらない。


すると、倉庫の部屋のドアノブがガチャガチャと音を立て、ドアも激しく叩かれた。

そして、音が止んだと思った、次の瞬間。

一際激しい音が聞こえて、ドアがぶち抜かれた。


「ここにいるんだろう!?おい!?出てこい!私を騙したね!?」


レジーラは部屋に躊躇う事なく入ってきて、蹴破ったドアを超えると、部屋の端の窓際まで歩く。

しかし、そこに少女の姿はなかった。

ただ、不自然に開けられた窓が一つだけあり、それを見たレジーラはまるで獲物を見つけた猫のような顔をした。


「ふーん。なるほど。こっから外に出ようって訳ね。大した度胸じゃない。でも、そうはいかないわ。」


レジーラは部屋の中にいる少女に聞こえるようにわざと大きな声で喋りながら、暗い部屋を見渡すと腰のポシェットから双眼鏡を取り出す。

暗闇に向けて双眼鏡をかざしてレジーラが覗き込むと、体温が高いものが赤く表示され、低いものが青く表示されていた。

見ると部屋の廊下側、ちょうど今いるところと対角線の隅に赤い大きな塊が見える。


見つけた。


レジーラは中央にある棚を回り込むようにして、隅にあるの赤い塊の方まで音を立てずに黙って進む。

その歩き方は先ほどまでと違い、訓練を受けた者の動きだった。

赤い大きな塊の前まで来ると、レジーラは双眼鏡をしまう。

暗くてわかりにくいが、そこには分厚いシートで何かを覆っている事がわかった。


隠れたって無駄よ。


レジーラがシートを勢いよく剥ぎ取る。

すると、シートの下には布と木を継ぎはぎして作った大きな人形があり、胸の部分にh「ハズレ」という文字が書いてあった。


は?何よこれ?


突然船がガクンと大きく揺れた。

レジーラは不意の振動に少しよろけ、あたりを見回す。


船が止まった?


すると、今度は先ほどまでいた窓の方で大きな音がした。

振り返ると少女の後ろ髪が窓から外に消えて行くのが見えた。


まずい!


レジーラが慌てて窓の方へ行こうとした瞬間、人形から大量の煙が勢いよく発射された。

レジーラはその煙に目と鼻をやられ思わず膝から崩れ落ちた。




月明かりに照らされ、青白く浮かび上がった無人の仮駅のホーム。

その両脇には鉄の船が並び、その間を一人の少女が走って横切って行く。


反対側の貨物列船に乗っているコンテナはどれも扉が閉まっていたが、少女が近づくとコンテナの内の一つの扉が少女を招いているかのようにゆっくりと開き、少女はそのままその扉の中へと駆け込んだ。


そして、ホームの両脇に止まっていた船が、それぞれ反対方向へと動き出す。


仮駅のホームの端にあるベンチには、先程の車掌が足を組んで座りながら、通り過ぎていく列船を眺めていた。

列船の移動する光が車掌を次々に照らしていく。

やがて、2つの列船は速度を上げながら、仮駅のホームからそれぞれ離れて、ホームはまた静寂に包まれた。


「やれやれ。たかが一人の路を変えるのに、こんなにも手間がかかるとは。ほんと面倒くさいねぇ。」


車掌は大きくため息をついて、月と星が瞬く夜空を見上げる。


「ま、これで最初のきっかけ作りはできた、と。あとは不肖の弟子次第だね。精々つまらない事にならないよう、頑張ってほしいものだけど。」


ふと車掌は何かを思い出したのか、顔を少し歪める。


「あいつの事だから気づかない可能性もあるねぇ。ほんとあいつは鈍いからなぁ。ま、その時はちょっかいをかけに行けばいいか。暇だし、面白いし。」


車掌はそう言って納得したようだ。

そして、明るく光る月に向かって、人差し指を向ける。


「私が贈り物をするなんて珍しいんだ。ちゃんと受け取ってくれよ。ドウリン。」


遠く列船の汽笛の音が聞こえる。

そして、仮駅のホームには誰もいなくなった。

ここからようやく第二章の始まりです。

長くなりそうな予感しかありませんが、お付き合いください。

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