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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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青い空、立ち上る黒煙

帝国領内の樹海港の一つ、ヘンケラーン港には、観光や仕事で樹海船を利用する多くの人が行き交っていた。

長いロビーの至る所に大きなパネル式の時刻表示版が設置されていて、出発の便と到着の便のそれぞれの予定時刻が表示されている。

時折カシャカシャと音を立ててパネルが回転し、時刻表の内容が更新されると、人々はそれを見上げて自分の乗る便の時間を確認し、目的とする船の搭乗ゲートへ足早に急ぐ。

そんなどこか忙しない空港のロビーに、明らかに軍関係者と思われる団体が入ってきた。

軍服を着た体格がいい男達が数名、先頭と後ろに別れ、何かを守る様に歩いていく。

男達のせいで守っている対象は見えにくいが、スーツを着た何名かの男と1人の女性、そしてその女性に押されている車椅子の男性がいることはわかる。

軍服の団体を見て、人々は慌てて道を開ける。

少しでも邪魔になると怒鳴られたり、最悪の場合は難癖つけられて捕まる可能性もあるからだ。

どこか物々しい雰囲気の団体は、そのまま軍専用の特別ゲートへと向かっていく


すると突然パンという破裂音が聞こえた。


軍服を着た男達やスーツの男達は迅速に音の鳴った方に立ちはだかり肉の壁を作る。

音の方を見ると、フロアのベンチに座っていた子供が泣き始めた。

足元には青いゴムの切れ端のようなものが落ちている。

どうやら先ほどの音の正体は子供の持っていた風船が割れた音だったようだ。


男達はそれを確認すると、スーツ集団の中でもリーダー格らしい男が女性と少し会話をする。

そして、また元の陣形に戻ると、先ほどより足早に歩いてゲートへと入っていった。


それまで緊張感のあったフロアは軍の団体がいなくなり、少しほっとした空気に包まれた。

ただそれも一瞬で、またいつものような慌ただしい雰囲気に戻っていく。


ただ、誰も気づいていないが、柱の影に1人だけ先程からずっと立ち続け、軍の団体を見ている男がいた。




軍専用の特別ゲートに停まっていた船は、軍の団体がゲートに入ってから数十分も経たずに港を出航した。

中型の護衛船は小さいながらも威圧感があり、低いエンジン音で威嚇するかのように、他の船の合間を縫って北へと進路を取る。

港から徐々に遠ざかる船。

港のフロアからも、その船影は小さくなっていくのが見える。


そして、その船影は突如赤い炎に身を包まれた。


少し経ってから、ゴオンという爆発音が港のロビーにも聞こえ、職員やら客やらが一斉にロビーの北側の窓に殺到する。


赤い炎と黒煙を上げる船を見て、皆驚いた。

あれはどこの船だ!救助隊を呼べ!と叫ぶ人もいれば、他の者に知らせようと走り出す人、カメラを構えて写真を撮る人、驚いて声も出ない人、あまりの緊張感に泣き出す子供など、ロビーは大騒ぎとなった。


あっ!という声に、みんなが再び船の方を見ると、一際大きな炎が立ち上り、そのまま船が黒煙と共に樹海に沈んでいくのが見えた。

まるで雷が落ちたかのような大きな爆発音がすぐに聞こえて、フロアのガラスがビリビリとなった。


沈んだ!沈んだぞ!

救助隊はまだか!

あれはさっきの軍人さんの船らしいよ。

敵国の攻撃か?

まさか!?事故なんじゃないか?

もしかして出発おくれる?

最近物騒だよな。熊が襲ってきたんじゃ。

ここは熊なんて出ないよ。

怖いよぉ。

大丈夫、大丈夫よ。

すぐに会社に雷通しないと。

くそ、また遅延かよ。


フロアの喧騒はより大きくなった。




「これこれこれこれ!これよ!最高じゃん!」


ヘンケラーン港の屋上。

貯水槽やらアンテナやら様々な設備がある中、ぽっかりと空いた何もない北側の一角で、黒煙を眺めながら満足気に握り拳をしてポーズを決める男がいた。


「爆破を目視で確認。作戦完了。後始末は任せたわ。」


男の少し離れたところで、屋上の至る所に延びているパイプの上に座った黒いワンピースを着た小柄な少女が、シーバで誰かと連絡を取っていた。


「ふぅー。あースッキリした。これでまた一つ不純物が取り除けたぜ。」


男は服が汚れるのを気にすることもなく、床に大の字に寝そべる。


「ジディ。あんたって相変わらず能天気ね。」


声をかけられたジディは頭の上、少女の方に顔だけ向ける。


「あんだよ、リダレア。作戦はバッチリ成功じゃん。」

「さっき言ったでしょ。気になる事があるって。」

「でも、お前が借眼で見た時は、顔が一致してたんだろ。」


リダレアは小さく頷く。


「顔はね。間違いなく、カルシータ・ゼトラウムとシュクナ・コーウェンだったよ。」

「じゃあ本物じゃん。」

「でもさ。」

「お前は心配しすぎなんだよ。あー、腹減ってきたわ。」


ジディは起き上がると、服についた汚れをはたく。


「しっかし、あの方も最高だよなぁ。捨てる奴に直接会いに行って最後の仕事を頼むなんて。しかもお気に入りとか言っちゃって喜ばせちゃってさ。まじで最高。それで頑張ります!とか言って張り切って仕事したら、終わった時には、じゃあねって言っておしまいよ。ほんとウケる。」


ジディはまだ黒煙が立ち上る空を眺める。


「ま。そんな事で頑張っちゃうのが無能の証なんだけどな。」


リダレアはそんなジディを微妙な顔で見ていた。


「うし!じゃあメシ食いに行こうぜ!」

「私はパス。報告もしないといけないし。」

「あんだよ。たまには付き合えよ。」

「だって、ジディはどうせ肉食べるに決まってるから。」

「当たり前じゃん。こんな日に肉食べないでいつ食べんのよ。」

「そう言って、いつも食べてるじゃん。」

「わかってないな、お前。普段は普通の肉で、今日は高級な肉を食べるんだよ。」

「どっちも肉じゃん。あほらし。」


2人は会話を交わしながら屋上の出入口まで歩き、そのまま建物の中に消えていく。


港の屋上はいつも通り人気がなくなった。


空は高く、気持ち良いくらいに澄み渡った青。

そこに、まるで墨を落としたかのように立ち上る煙の黒。


黒煙は青い空を侵食するように大きく薄く広がっていく。

それはまるで、これから起こる何かを暗示しているかのようだ。


救急艇の甲高いサイレンの音が鳴り響き始めた。

皆さんお読み頂きありがとうございました!!

これで第1章は終わりです。

ただ、ダウリンの物語はここからが始まりです。

第2章は2025年から投稿をする予定です。お楽しみに!

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