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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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団長の正体

「な。なんすか、あれ。」


イコリスはRBの甲板の上から、呆然とダウリンの戦いを見ていた。

緑色のオーラのように身を包んだダウリンは、人間離れした動きで、次々とシャルフジーマの腕を切り落としていた。

速度が早すぎて、目で追いかけるのが難しい。

空をまるで庭のように縦横無尽に駆け巡る団長の姿は、いつもののんびりとした姿とはかけ離れていた。


いや、そもそもあんな動き、人間ができる芸当ではない。

しかもシャルフジーマは団長の果敢な攻撃に押され、体が次々に斬られている。


あの人っていったい。


「よく見ておくといいよ。こういう姿は滅多に見せないから。」


不意に声をかけられて振り返ると、ボロボロになったヤミロが立っていた。


「大丈夫っすか!?ヤミロ先輩!」

「ああ。防御装置のおかげで、僕もランナ君も、なんとか無事だったよ。」


そう言ってヤミロが後ろを振り返る。

つられてイコリスもそちらに目を向けると、起き上がったランナがナーシャに抱きついて泣いている光景があった。

ナーシャもさっき起きたのか、ランナに抱きつかれたまま、呆然とダウリンの戦いを見ている。

その姿にイコリスは内心ホッとした。


「ヤミロ先輩。団長って・・・何者なんですか。」

「それは、団長から直接聞いたほうがいいかな。」


ヤミロは微かに微笑んで、団長の姿を仰ぎ見る。

ダウリンはシャルフジーマの残った腕を次々に切り捨てていく。


「今言えることとすれば、あの姿になった団長はものすごく強いということかな。シャルフジーマも一捻りだと思う。」

「そ、そんなにっすか?」

「あぁ。正直、団長がどこまで強いかなんて僕らには計り知れない。もしかしたら五天熊王よりも強いかもしれない。」

「マ・・・マジすか。」


生きる厄災と言われる、熊協のレッドリストのトップ5。

それよりも強いとなると、それは実質、世界最強ということである。

俄かに信じ難い。

普段なら絶対嘘だと笑ってしまう話である。

しかし、目の前で繰り広げられている光景は、その話が事実であると告げていた。


イコリスの背中から、悲鳴のような声が聞こえた。

声の方向を振り向くと、そこにはイコリスが助けた生存者の男が、膝立ちになっていて、両手を胸の前に組んで、涙を流していた。

介抱していたレネも傍で驚いていた。


「なんと、私はなんと幸運なんでしょう!」


男は泣きながら叫んでいた。


「これぞまさしく、伝説の通り!紺碧の空に現れたる者、自在に空を駆ける。輝きたる緑剣は、易々と熊を切る。空と踊り、熊と踊り、その者は暁の空へと消えゆく。はぁ、はぁ。」


生存者の男は興奮しているのか、少し過呼吸のようになっているようだ。


「く、く。」


男の息が荒い。

甲板の誰もがその男を見ていた。

そして、男は大声で叫んだ。


「クマキラー様!クマキラー様が!降臨なされたのだ!」




知ってる。クマキラー。熊討伐の神。

黒髪に髭蓄え、緑色の服と緑色の剣を持った姿。

その緑色の眼は熊が怯えるほど鋭く、その耳は遠い場所の熊の足音を聞き分ける。

熊に関わる人間は誰もが一度はお祈りを捧げる民間信仰が生んだ神様。


もちろんイコリスだってお祈りは何度もし、お守りも肌身離さず持っている。

しかし、それはいくらなんでも。


イコリスはヤミロの顔を見た。

すると、ヤミロはイコリスを見て、苦笑しながら頷いた。


「えええぇぇぇぇ。」


イコリスは両方の手で頬を押さえて、化け物じみた声を出す。


「先に言われてしまったね。イタタタタ。」


そう言いながら、ヤミロは甲板に座る。

まだ体は辛そうだ。


「簡単に言うと、団長は長生きなんだ。それこそ第二次スタンピードの前から生きているから、もう1000歳は超えている。」

「せ、1000歳?」

「そう。団長は第二次スタンピードの時に不死の体を手に入れたんだ。その後は人類の復興に尽力して、各地で熊を討ちながら、村を作り、街を作り、国を作った。消えそうな過去の文化・技術をできる限り次に繋げた。そうしていくうちに、徐々に団長がやっていた事が大げさに伝わるようになり、挙げ句の果てには神格化され、気づいた時にはクマキラーという神になっていたそうだよ。」

「それじゃあ団長はずっと、それこそ1000年間も熊と戦ってるんですか?」

「ああ。そうだよ。僕らが小さい時に教えられる、第二次スタンピード後の人類の歴史は、ほぼ熊との戦いの歴史だろう。そのほとんどに団長は絡んでいる。人類の歴史は即ち、団長が生きてきた人生そのものなんだよ。」


イコリスはダウリンを見上げる。


この世の悪夢をかき集めて具現化したような巨大なシャルフジーマに対して、まるで粒のように小さい見慣れた団長が、見慣れない動きで、果敢に襲いかかっている。


この前の浜辺でやったアーメットの時のような、腰が引けて頼りない団長の姿はどこにもなかった。

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