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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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反撃

ダウリンは気絶しているナーシャを甲板に静かに寝かせると、立ち上がる。


何年振りかに力を解放しているので、少し身体がふわふわする感覚がある。


久しぶりに身体に魔力を通したから、だいぶ踊っているな。

少しさぼりすぎたかな。


ダウリンは両足を軽く開き、軽く息を吐いて腹に力を込める。


まずは結界を。


「藤宮八陣。雪囲い。」


ダウリンが小さく唱えると、ダウリンの目の前の空中に何やら様々な光の紋様やら文字盤が浮かび上がってはすぐ消え、次の瞬間にはRBを覆う様に三角錐の薄い緑色の結界が現れた。

RBに取り憑いていたシャルフジーマの腕は結界の中に入っていた部分だけ、分解され空中へと消えていく。


ここのマナは大分素直だな。

おかげで結界のキメが細かくて、張りも良い。


ダウリンがそう思っていると、シャルフジーマが吠えた。

そして、結界に向かって10本は越えるほどのシャルフジーマの腕が飛んできた。

どうやら、己の腕が簡単に消滅された事に腹を立てたらしい。

一本一本がどれも大木の様に太いので、まるで大蛇の群れが飛び掛かってくる様だ。

しかし、ダウリンはそれを涼しい顔で見ていた。


腕達は樹海面すれすれを蛇のように滑るように進み、結界の手前で大きく跳ね上がると、上空から大きな拳を結界に叩き込もうとした。

しかし、拳が結界に触れた途端、腕達はまるで萎んだ風船のように萎れ、空中にマナを放出させながら消えていく。


「うん。上出来だ。」


ダウリンは自分の張った結界の出来に感心する。

師匠直伝の結界は今まで破られたことがない。


さて、早いとこ皆を回収しないとな。

生きてはいるが、きっとみんな虫の息だ。

回復を急がないと。


ダウリンは今度は目を瞑る。

感覚を研ぎ澄まし、周りの空間の反応を探る。


ここか。


ダウリンは「ふ」と一言だけもらす。

そして目を開けると、そこは先程いたRBの甲板ではなく樹海面で、目の前にはボロボロのアウルが横たわっていた。


「ヤミロ!ランナ!」


ダウリンが声をかけるが反応がない。


アウルに近づいて、ガラスが粉々になった前面から覗き込むと、ヤミロとランナが眠る様にして座席に座っていた。

何とか座席から外へ連れ出したいが、アウルはボコボコになっていてフレームも歪んでいて、そのままだと抜け出せそうにない。

ダウリンは樹海面に立ち、腰に差した刀を鞘ごと抜きくと左手で鞘を握り、右手の平を広げて刀の柄尻にのせる。


「百合宮五節 根割り」


ダウリンは言葉ともに刀の鞘を樹海面にトンと軽く叩く。


次の瞬間、アウルの機体の至る所に切れ目ができる。

ダウリンがまた鞘をトンと叩くと、更に切れ目が増える。

最後にもう一度叩くと、まるで積み上げた積み木が崩れる様に細かく切り刻まれたアウルの機体が樹海へと落ちていく。

ただヤミロとランナだけは刻まれずにそのまま空中にとどまっていた。

ダウリンは2人に触れると、また目を瞑り「ふ」と一言だけ発する。

すると、3人はRBの甲板の上にいた。


ナーシャの側ではレネが救急キットを持ってきて、ナーシャの介抱をしていた。


「ありがとう、レネ。2人も頼む。」

「わかりました!」


ダウリンは浮かんでいるヤミロとランナをナーシャの横に連れていくと、触れていた手を離す。

すると、ヤミロとランナはすーっと床に静かに横たわった。


2人に大きな怪我がなくてよかった。

きっとヤミロが防御装置を使ったからだろう。

あの装置は一時的とはいえ、かなり強固な結界が貼れるからな。

もし使っていなかったら助からなかった可能性もある。

ヤミロ、ランナ。危険な目に遭わせてしまってすまない。


ダウリンはすぐに助けられなかった2人に心の中で謝罪する。


「あとはキンダリーとイコリスだ。」


ダウリンはまた目を瞑る。

今度は樹海の下で反応があるところに瞬間移動する。


ダウリンが目を開けると、そこは樹海の底で、真っ暗な世界が広がっていた。

ダウリンは左の手のひらを上に掲げ、「とう。」と言って、明かりを手から出した。


すると周りがよく見えるようになった。

辺りを見回すとある一箇所が木々が倒れ、枝と枯れ葉が山のようになっていた。


「キンダリー!イコリス!」


ダウリンがその山に声をかけると、山になっていた枯れ葉や枝が崩れ落ちる。

崩れ落ちた山から顔を出したのは潜樹服のヘルメットが2つ。

一つはイコリスともう一つは知らない男の顔だった。


「だ、団長!?ど、どうしてここに?ってか、潜樹服は!?」

「話は後だ。連れてくぞ。」


そう言ってダウリンは両手で2人に触れると瞬間移動する。


RBの甲板に移動してきたダウリンは2人を座らせる。


「え・・・あれ!?え?え?ここは!?」


イコリスは訳がわからず左右を見回す。

無理もない。ついさっきまで樹海の底にいたのだ。

ダウリンはイコリスの代わりにヘルメットをとってやる。


「安心しろ。ここはRBの甲板だ。」

「え・・・な、なんで?そんな、嘘でしょ?」

「説明はあとだ。そんなことより、この男は沈没船の生存者か?」


そう言って、ダウリンは隣の男を親指で指す。

「は、はい。そうっす。」

「キンダリーはどうした。」

「隊長は・・・そうっす!隊長が!隊長が嵐で飛んで行っちゃって!」

イコリスは何かを思い出したようで、ダウリンの腕を掴んで引っ張る。


「落ち着け。何があったかゆっくり話してみろ。」


ダウリンはそう言って、イコリスの肩に手を置く。

イコリスは少し冷静になったのか、樹海の底での話をダウリンに話した。


ダウリンはイコリスの話を最後まで聞くと、ふぅとため息をつく。


「団長!隊長を助けてください!」

「ああ。わかった。」


ダウリンはそう言ってイコリスの肩を叩く。

すると、隣で気絶していた男がううんと呻き声をあげる。


「イコリス。彼を介抱してあげてくれ。」

「わかったっす!」


ダウリンは再び目を瞑った。


樹海の嵐に飛ばされたというのであれば、そんなに遠くまでは行っていないはずだ。

どこだ?どこにいる?


ダウリンがこの術で感じる反応は己と関係が近しい者の生命力だ。

本人の生命力が乏しくなっていればそれもわかりづらくなる。

ダウリンはわずかな反応も逃さまいと探る。


すると、ここから西へ行ったところに反応というより、微かな違和感を感じる場所を見つけた。


もしかして、ここか!?


すぐに「ふ。」と言うと、その場所へ瞬間移動する。


そこは樹海の谷間というべき場所だった。

奥底に深い深い谷底があり、そこからモーブの木が何本も上へと伸びている。

わずかに日の光が差し込み、灯りがなくてもある程度当たりは見える。

ダウリンは辺りを注意深く見回す。


この辺りだが。


ダウリンは空中を移動してモーブを一本一本注意深く見ながら、キンダリーを探す。

すると、何本目だったか、変なしなだれ方をしている枝を見つけた。

近づいてみると、そのモーブの枝にキンダリーが引っかかっていた。

潜樹服はボロボロでところどころ切り裂かれたように穴が開いており、ヘルメットは半分以上破壊されていた。

体格も良く、見た目から力強さを感じていたキンダリーが、今はその命の灯火が消えかかっている事を肌で感じた。


「キンダリー!」


ダウリンは急いで側まで行って、キンダリーの体を揺するが反応はない。

良く見ると、樹海の毒に侵されているようで、服の隙間から見える皮膚が紫色に腫れている。


これはまずい。


ダウリンはキンダリーに触れると、RBの甲板に戻った。


ダウリンはすぐにキンダリーの潜樹服のヘルメットを外して横たえると、胸元を開けて体を確認する。

紫色の腫れは肩から鎖骨にかけて広がってきている。

口元に手を当ててキンダリーの呼吸を確認する。

わずかだが、手のひらに息吹を感じた。


よし。まだ肺にまでは毒が入っていない。


ダウリンは手のひらをキンダリーの胸元に当てる。


「桜宮一首 花絨毯」


キンダリーの体がほのかに光を纏い、周りには色とりどりの光の花びらが散る。

ダウリンが口元にまた手を当てると、さっきよりも呼吸が深くなっていた。


「隊長!」


ダウリン達が戻ってきたことに気づいて、イコリスがキンダリーの元へ駆け寄ってくるが、それをダウリンは手で制す。


「イコリス。これ以上は近づいては駄目だ。樹海の毒にやられている。」


ダウリンの言葉にイコリスはショックを受けたかのように立ち止まる。

樹海の毒は侵食した部分からもわずかに毒素を出す。

今はキンダリーの側に近付くのは危ない。


「そんな・・・。」

「とりあえずは応急措置はした。しばらくは毒の侵食は止められるから、大丈夫だ。」


ダウリンは立ち上がってイコリスを安心させるように、肩に軽く手を置きながら言った。


そうだ。しばらくは大丈夫だ。

しかし、そこから回復できるかは別の問題だ。

場合によっては・・・。


ダウリンは静かに拳を握りしめ、それ以上考えるのをやめた。

まずは目の前にことに集中しろと、自分に言い聞かせる。


これで全員は助け出した。

そしたら、あとはあの化け物をやるだけだ。


ダウリンが甲板からシャルフジーマを見上げる。


絵本で出てくるようなシルエットとは程遠い、禍々しいまでの姿。

人々の戦意を喪失し、絶望を与える存在。

そのシャルフジーマは、先程までの苛烈な攻撃をやめていて、まるでダウリンが来るのを待っているかのようだ。


ほう。一騎打ちで格の違いをわからせようってことか。


『団長。ツバメを連れてきたよ。甲板にとめている。』


ちょうどいいところでニルクからのシーバが入る。

甲板の先端を見ると、ツバメが既に主人を待っていた。


『ありがとう。ニルク。』


ダウリンはニルクに答えると、甲板の先頭へ向かって歩いてゆく。


自分がもっと早く気づいていれば。

自分がもっと疑り深ければ。

こんなことにはならなかった

己の不注意さを呪っても呪いきれない。


また同じ事を繰り返すのか、ダウリン。


ダウリンの内なる闇の声が囁きかける。


また仲間を見殺しにして、自分だけ生き残るのか、ダウリン。

お前は人の命を吸って生きる獣だな、ダウリン。

まるで熊と同じじゃないか、ダウリン。

ダウリン。ダウリン。ダウリン。ダウリン。


「うるさい。黙れ。」


ダウリンは内なる自分に飲み込まれないよう、呟く。


前を向け。

顔を上げろ。

今は討つべき敵を考えろ。

己の刃の軌跡が守る者の道になる。


ダウリンは甲板の先に止まっているツバメに乗り込むと、ボディをポンポンと叩いて話しかける。


「ごめんな、置いてきてしまって。さぁ、これから久しぶりに駆けるぞ。」


ダウリンはツバメのハンドルを握ると、シーバを起動する。


『リリ。今からあの凶悪な熊を退治する。退治したらすぐにここから離脱するから、脱出ルートを考えておいてくれ。こんな状態だと、ホームに戻らないといけないから北寄りのルートで』

『団長!退治した後のことはいいから、今はあの熊を退治することに集中して!』

『あ、ああ。そうだな、わかった。』

『もう。いつも通りで調子狂っちゃうわ。』

『ごめん。』

『ううん。謝るのはこっちだから。団長の助けは借りないって大見得切って、結局最後はこの様で。自分たちの力を過信してて。』


リリは涙声になっていた。


『おいおい。そっちこそ反省するのはまだ早いよ。それに、この状況は誰も予想できなかった。これは不運な事故みたいなものだよ。』


ダウリンはリリを励ますようにわざと明るい声を出す。


『そしたらさ、ここは一つ神頼みしてみるのはどうかな?今なら贔屓する神様が全力で願いを叶えてくれると思うんだ。』


ダウリンの唐突な提案にリリは涙声ながら少し笑った。


『ばーか。私は神様なんて信じないっていつも言っているでしょ。』


リリのはぁ、という呼吸を整える音が聞こえる。


『でも、ありがとう。少し元気出た。』

『そうか。』

『そしたら団長、あの化け物をとっととやっつけて。』

『切り替え早っ!それに人使いが荒い。』

『艦長だもの。当然よ。』

『うん。いつものリリだ。それじゃあ、行ってくるよ。』

『うん。気をつけて。』

『あぁ。RBと皆のことは任せた。』


ダウリンはツバメを起動させ、自分の張った結界から勢いよく飛び出した。

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