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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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起死回生

「全滅」


熊狩団が最も忌み嫌う言葉。

それでいて世界のどこかで月に1度は起こっているもの。


頭に浮かんだその言葉を、リリは頭を振ってかき消す。


しっかりしろ!

私が諦めてどうする!


RBにはまだレネとニルク、ジョーリンが残っている。

彼女達だけでも逃さなければ。


リリは目の前の操作盤を確認する。

武装系に繋がるサブ2タンクの燃料は、先ほどのアウルへの援護射撃でほとんど尽きていた。

燃料漏れを対処しておかなかったツケがこんなところで回ってくるとは思わなかったが、それを嘆いてもしょうがない。

レネ達を脱出艇で逃がした後で、このRBをシャルフジーマに突撃させれば、多少の時間は稼げるだろう。

寝ているアルビーを道連れにしてしまうのは申し訳ないが、前からアルビーにはいざという時はそうしろと言われていたし、そもそもシャルフジーマ相手に1人でも多く生き延びるにはそれくらいしか方法がない。


『レネ、ニルク、ジョーリン!今すぐドックに集合して、脱出艇で離脱して!操作はニルクに任せる!』

『リリ先輩は!?リリ先輩はどうするんですか!?』


レネの叫ぶような声が聞こえる。

その質問にリリはニヤリと笑う。


『私?決まってるじゃない。艦長の務めを果たすまでよ。』


昔からの格言。

艦長は船と共にあり。

浮く時も一緒なら、当然、沈む時も一緒だ。


『大丈夫よ。あんた達が逃げられるくらいの時間は稼いであげるから。』

『そんなのいいです!リリ先輩も一緒に逃げましょう!』


レネの声が涙声になっている。

レネが泣いている姿は容易に想像ついた。

だからこそ、慕ってくれている後輩を生かすためにリリは厳しい口調で言った。


『レネ!早くしなさい!これは艦長命令よ!』


リリは小さくため息をつくと、正面の窓から見える、まるで趣味の悪いアーティストがクマの人形を大量に切り刻んで、粘土の人形に貼りつけたような、シャルフジーマの姿を睨む。

シャルフジーマの後ろには樹海から伸びた数多の腕が作り出す壁がそびえている。

夢で見ても飛び起きそうなほどの悪夢のような光景が現実に広がっていた。


まさに絶望と呼ぶに相応しい光景ね。


RBが大きく跳ねるように横に揺れた。

リリは操作卓を掴んでなんとか耐える。

左を向くと、左舷にシャルフジーマの腕が見えた。


再び大きな振動がRBを襲い、ブリッジの前方の窓ガラスが割れる。

シャルフジーマの腕の一本が、ブリッジの正面にめり込んでいた。


そろそろメインディッシュの時間ってわけね。


リリは艦長席の操縦桿を握る。

手汗がひどい。

レネ達が脱出艇で外に出るまでどうやって時間を稼ぐか。

最低でも1分、いや2分は必要だ。

シャルフジーマの気を引くためにはどうすれば?

ライトを照らして目潰しするのはいいかもしれない。

燃料を見るに、一発くらいなら艦砲もまだ打てそうだ。

それなら、ライトを照らして目潰してから撃つか。

いや、ライトを照らしたら、そのまま全速力でシャルフジーマに特攻するのも悪くない。

下手な艦砲よりはよっぽど強力だろう。


よし決まりだ。

赤い靴はただでは終わらない。


そうして、リリがRBの全てのライトをつけようとした、その時である。


止めていた脅威アラームがまた鳴り始めた。

間隔がないアラーム音。

死神の笛の音。


嘘でしょ?


リリは耳を疑った。


もう1体、脅威レベル5の熊がいる。


絶望に絶望を掛けても、絶望でしかなかった。

リリは急いで操作卓を操作し、熊の位置を特定する。

一つはRBの目の前にいるシャルフジーマ。

これはわかる。

あともう1体は。


RBの真上?


RBが振動した。


前を向くと、ブリッジの窓に貼り付いていた腕が空中に散り散りに分解していくように消えていく。


そして、消えゆく腕の先に、人影が見えた。


空に浮かぶ人のシルエット。

左肩に誰かを抱え、右に握るのは片刃の剣。

体全体を緑色の湯気のようなものが覆っている。


あれは、あの姿は。


リリの目から涙が溢れる。


男と目が合った。


『リリ、大丈夫か?』




赤い靴団団長、ダウリン・フージだった。




団長のいつもの優しい声がシーバから聞こえた。

その声にリリは何とも言えない安心感にかられた。

でも再会を喜ぶのはまだ早い。


『団長!こっちは大丈夫!レネ達も無事!』

『わかった。甲板にナーシャを下ろす。』


そう言うと、団長は下に下がっていく。


『ナーシャは無事なの!?』

『ああ。気絶してるだけだ。毒も吸っていない。』


団長の言葉に、リリはホッとした。


『ただ、ナーシャを助けるのに手こずってしまって、他の皆のフォローが出来なかった。本当にすまない。』

『謝ることないわ、団長。でも、ヤミロとランナは。』


そこまで言って、言葉が詰まってしまった。


『大丈夫だ。まだ俺は呼び出されてない。みんなはまだ生きてる。』


団長の声は確信している様な声だった。


『レネとジョーリンは、甲板に来てくれないか?今からみんなを連れてくるから、介抱を頼む。』

『はい!』

『おう!』

『ニルクはツバメを遠隔操作で甲板に連れてきてくれ。ナーシャを助ける時に捨ててきてしまって。』

『わかりました!』

『リリ。今からRBの周りに防御結界を張る。簡単には入ってこれないと思うが、もし破られたら教えてくれ。』

『了解!』


ダウリンの声はいつものように冷静で、それがまるで麻薬の様に全身に安心感を与える。

さっきまで自分の死を確信していたが、団長がいる今は生き残れる確信に変わる。


『さて。それじゃあ行きますか。』


団長の声はいつもと変わらない声だった。

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