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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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カルシータの策略

ロークが去ってから、カルシータは部屋に戻ると、その後の予定を全てキャンセルして、すぐに対応策を考えた。


まずシュクナに雷通をして帝都に呼び戻した。

彼女は帝国の東方でカルシータからの任務をこなしていたが、ロークに目をつけられているとわかった以上、単独行動は危うかった。

雷通先のシュクナはだいぶ驚いていたが、カルシータのただならぬ声に何かを察したようで、すぐに了解してくれた。

また、シュクナが早々に戻った事を誰かに聞かれたら、任務を早く終わらせたと口裏を合わせることにした。

長期の任務とあらかじめ言っていたので、理由としては少々苦しいが致し方なかった。


ダウリンを誘き寄せる策を練るのが一番の課題だった。

おそらくロークのことだ。

この話をした直後のカルシータの動きを部下に観察させているはずだ。

特殊な力を持つものだけを集めた部隊もあると聞く。

軍の上層部の人間の監視など、動物園の猿を見るくらい簡単にできるだろう。

ここで変な動きを見せてしまうと、すぐにロークの部下に捕まり、あとは死ぬまで延々と続く拷問という地獄が待っている。

早めに行動に移すことが肝心だ。


監視している誰かに見せるようにわざと机の上の紙にメモを書きながら、ダウリンが誘いに乗ってくるようなストーリーを考えた。

ダウリンと雷通で話す時も監視はされているから、確実に誘った証としてハニーの話は出さざるを得ない。


これで行こう。


赤い靴団を誘き寄せる内容や、その他の懸念事項をまとめた時にはすっかり外は夜になっていた。

カルシータは伸びをして固まった筋肉をほぐすと、長年の経過でうっすら茶色がかった白天井を見上げる。


ダウリンを誘うストーリーの中には、ダウリンが辞退する可能性がある内容をいくつも織り込んだ。

ダウリンがこの誘いを辞退してくれたら、少しは時間を稼げる。

その間に、ハニーの破壊活動を説得してやめさせるか、しばらく行方をくらましてもらうかすれば良い。

用心深いダウリンだ。9割方は辞退するだろう。


ただ。

もしもあいつが。

ハニーと絡んでいる事実を知って、依頼を受けてしまったら。


カルシータは目を瞑る。


その時は友の最後を受け入れるしかない。

己の心の片隅にある最後の良心も殺すしかない。

カルシータ。お前は真の意味で人でなしの熊となるんだ


カルシータは大きくため息をついた。




ダウリンと雷通をするのはシュクナが帝都に戻ってからにした。

遅かれ早かれ彼女にはこの件を話しておく必要があったからだ。

シュクナが帝都に戻ってきたのは翌日の遅くだったので、その次の日にダウリンに雷通をした。


ダウリンは優雅にバカンスを楽しんでいるようだったが、この雷通も誰かに聞かれていると思うと、こちらはとてもそんな呑気な気分にはなれなかった。

依頼の話になると、ダウリンは案の定、最初は依頼を渋る反応をした。

内心そのまま断ってくれと思いつつ、ハニーの話を出したら、思いの外、食いついてきてしまった。

想定はしていたが、この依頼を断ってくれとは口が裂けても言えない。

最後の望みとして金額交渉での決裂も考えたが、下手に長引かせると自分の行動が怪しまれる。

ギリギリのラインでの駆け引きをして諦めさせようと思ったが、最後はシュクナが不意打ちで雷通を奪い、提示金額でOKを出してしまった。


ダウリンとの雷通を切ったところで、シュクナは誰もが凍るような冷たい目線をカルシータに向けた。


「カルシータ様。今日のこの後の予定はキャンセルしておきました。常々カルシータ様とは膝を突き合わせて、お話ししたいと思っていました。ここでは何ですから、どうぞ私の邸宅に今からご招待します。」


有無を言わせないシュクナの目線にカルシータはわかったと頷くしかなかった。

こうなったらシュクナは納得するまで引き下がらない。

邸宅というが、カルシータにとってはむしろ監獄という意味の方が近そうだ。

その後、彼女の邸宅に半ば連行され、夜遅くまで話をする羽目になった。




それから今日まで、カルシータは仕事を詰め込んだ。

帝都から離れたこの本部に移動してもそれは変わらず、今日まで他の幹部陣なら辟易する程の仕事をこなしてきた。

どこかで集中力が切れた途端、ダウリンのことを思い出しそうだったからである。


カルシータは椅子に座り直すと、ふと、何かを思い出しかのように、机の一番上の引き出しを開ける。雑然と物が入っている引き出しのなかに、名刺やら文房具やらに混じって緑色の石が一つだけ入った銀色のブレスレットがあった。

それを取り出すと、両手でブレスレットの感触を確かめるように触る。

これはダウリンが最初に帝国から出る時にもらったものだ。


なんだよ、こんな女物っぽいやつ着けられるかよと文句を言ったら、それなら着けなくていいから持っておけと笑いながら言われたことを覚えている。


ふと、カルシータはブレスレットの内側に文字が打ち込まれてい事に気がついた。

カルシータはその文字を読むと、ブレスレットを机に置き、前屈みになって両肘を机の上について両手を組むと、そこに額を乗せて息を長く吐いた。

机の上に置いてある銀のブレスレットの内側にはこう書かれていた。


「酔いどれカルシータへ。次はお前が俺を介抱しろ。ダウリンより。」


遠くから見て、カルシータの両肩が震えていた。

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