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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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ナーシャの疑念

『現在10メトルまで降下。』

『了解。』


シーバからの報告を聞きながら、ダウリンは樹海の上で待機していた。

左にはウルフに乗ったナーシャが、上空ではヤミロとランナが周辺を警戒しながら待機している。


ナーシャは作戦開始の時から表情を変えず、何なら少しムッとしている様子なので、ダウリンはナーシャとは反対方向の景色をずっと見ていた。

見渡す限りどこまでも続く樹海が広がり、遠くに山の稜線がかすかに見える。

空は雲ひとつない青空で日差しも穏やかで、時折僅かに吹く風も気持ちが良い。


そんな長閑な景色を眺めながら、ダウリンはどこか頭の片隅で先ほどのリリの話を思い出していた。


このポイントを新たに縄張りにしそうな周辺の熊を調べた限り、どれも若い熊のようで強そうなものはいなかったし、それくらいの熊なら、このメンバーだけで十分に対処はできるはずだ。

ただ、やけに樹海が静かなのが気になる。

鳥の影もさっきから見えていないし、樹海面を根城にする動物達も姿が見え


右首に違和感。


ダウリンは瞬時に自分の右手側、東側の方に視線を向ける。

視線の先は変わらず樹海が広がっていて、陽光が樹々を照らしている


なんだ?何か動いたような・・・


ダウリンは樹海面をじっと凝視する。

左手がそっと腰に差している刀の柄にかかる。


「団長。一つ質問してもいいですか?」


ナーシャの声にダウリンは急に意識が引き戻される。


「団長の乗っているそれって、ウルフっぽいけど、ウルフじゃないですよね。それってどんな機体なんですか?」

「え?あ?あぁ。こいつ?」


ナーシャの目線はダウリンが乗っている機体に向けられている。その表情は少しムッとしているようにも見える。

ダウリンは、もう一度さっきの方向を振り返るが、先程の違和感は感じなかった。


気のせいか。


ダウリンは自分が乗っている機体に目を向ける。

ウルフに見た目は似ているが、ハンドルは細くてスイッチ類はなく、その変わり足の部分がブーツのように膝まで機体におさまるような形になっている。

一見すると、機体に跨って両足を膝まで突っ込んでいるように見える。


「そういえば、ナーシャとこうやって同じ作戦に出るのは初めてだよね。これはツバメって言って、昔、樹海馬に乗るための練習用として作られたものを古い倉庫から引っ張り出してきて、ニルクに改造してもらったんだ。」


あの時、樹海馬に乗った時と同じようにしてくれという無茶なダウリンの注文を、ニルクは嬉々として受け入れて、ダウリン以上の熱量であれこれと改造して作り上げてくれた。


「樹海馬は基本足で操るから、この機体も、足とふとももの動作だけで動くようになっているんだよね。」


そう言ってダウリンは両手を横に広げながら、前後に少し動いて見せる。


「へー。面白いですね。速射砲とかはどうやって打つんですか?」

「ん?ないよ。」


ダウリンの返答にナーシャは言われている意味がわからないという顔をした。


「え?ないって、それじゃ熊にどうやって攻撃するんですか。」

「あぁ。それは、このか・・・」


刀で斬るんだよと言いかけたところで、ダウリンはリリとキンダリーからの忠告を思い出した。


「か・・・、か・・・」

「か?」


ナーシャが訝しげにダウリンを見る。


「か、硬い、そう硬いんだよ!この機体。だから、こう熊に向かって突撃する感じでさ!相手の攻撃をかわしつつ、頭にドーンって体当たりする感じでさ、攻撃するんだよ。」

「へー。変わってるんですねー。」


ナーシャの言葉に、なんとか誤魔化せたか?とダウリンが胸を撫で下ろした時である。


「団長って嘘下手ですね。」


ストレートにナーシャはダウリンの事を刺した。


「いや、あの、そんな嘘だなんて。」

「いいですよ。どうせリリ先輩か隊長から、私たちに詳しく話すなって止められているんでしょ。」


大正解なため、ダウリンはぐうの音も出なかった。


「もういいですよ。そこについては文句を言うつもりもありません。団長の事を話さないのも、きっと私達のことを考えてくれてのことだと思ってますし。」


ナーシャは少し不貞腐れたようにそっぽを向きながら話す。


「でも。でも、ですよ。やっぱり2年一緒にいて、まだ団の中で私達だけが知らないことがあるって言うのは、なんか。」


ナーシャは正面を向いて、真っ直ぐな目でダウリンを見てくる。


「正直言ってムカつきます。」


他人に拒絶される事を恐れない、その強く真っ直ぐなナーシャの目に見つめられ、いろんな事を思い出しそうで、ダウリンは思わず目を逸らした。


「ごめん。今度ちゃんと話す場を設けるよ。」

「ほんとですか?」

「ほんとだよ。」

「絶対ですからね。」

「あぁ。約束するよ。」

「よし。あー、すっきりしたー。実は団長と2人きりになるって思ってから、いつ言おうか考えてたんですよねー。」


ナーシャの顔が急に重荷が取れたような晴れ晴れとした顔になる。

その顔にダウリンも釣られて笑ってしまう。


「なんだ、そうだったのか。俺はてっきり回収班に選ばれなくて、怒っていたのかと思っていたよ。」

「え?そんな怒りませんよ。樹海に潜る経験なら2人の方が長いし、一番適した分担じゃないですか。」

「そうだね。」

「えー、あれですか。団長は私が作戦で希望する役割にならないからって拗ねるような、そんな幼稚っぽい奴って思ってたんですか?」

「いやいや。そんなこと思ってないよ。ナーシャは立派な大人な女性だと思っているよ。」

「なんかその言い方は逆に、ちょっとやらしくないですか?大人の女性とか。団長ってそんな目で見てたんですか?」


ダウリンは慌てて否定する。


「ないない!それはない!団員は皆、俺にとっては子供みたいなもんだからさ。」

「へぇ。そしたら、やっぱり幼稚ぽい奴って思ってるって事ですね。」


えええぇ。これはどう言えばいいんだ・・・。


ダウリンが悩み始めて次の言葉を発せずに固まっていると、ナーシャがその様子を笑う。


「フフフ。団長、からかわれてるんですから、そんな真剣に悩まなくていいですよ。」

「え?そうなの?」

「そうですよ。ま、そういう人が良いところは熊狩団の団長っぽくなくていいと思いますけど。」

「それ、褒めてる?」

「褒めてる、褒めてる。もう、すっごい褒めてますよ。」

「ほんとに?」


ダウリンはどうも納得いかず、首を傾げる。


『こちら回収班。地表に到着した。現在2人とも異常なし。これから捜索に入る。』


キンダリーの声がシーバから流れたのはそんな時だった。


『了解。何か見つけたら報告して。くれぐれも無理をしないように。』

『了解。そんな心配するな。定期的に報告する。」


リリの心配そうな声に、キンダリーは安心させるように優しく答えた。

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