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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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樹海の奥底へ

広がる樹海の中、アウルの示したポイントにキンダリーとイコリスのウルフが止まっている。


「イコリス。準備はいいか。」

「いいっすよ。隊長。」


キンダリーとイコリスはいつもの服とは違い、遊園地にいる着ぐるみのような、全身厚手の服に身を包み、背中には大きなリュックと銃を背負っている。

この服は潜樹服と呼ばれ、樹海に潜るにはこの服を必ず着ないといけない。

ただ、とにかく動きにくく蒸れやすいので着心地は最悪だ。


あーもう暑いわ。


イコリスはすぐにこの服を脱いで解放されたい衝動に駆られる。

これでも、今はヘルメットをしていないからまだマシな方であるというのが、余計にイコリスをうんざりさせる。

ヘルメットをすると更に服の中が暑くなり、1人用の蒸し風呂となる。

そうなるとますますこの服を脱ぎ捨てたくなってしまうが、少しでも脱いでしまうと樹海の毒にやられて命も捨てる事になる。

樹海に潜るというのは、毒への恐怖に加えて、この潜樹服の不快感にも耐える必要があり、かなりの忍耐と精神力が必要な作業なのだ。


イコリスが周りを見渡すと、少し離れたところでナーシャが団長と一緒にウルフに乗って待機している。

普段なら、作戦の重要な役割は自分がやりたいと空気を読まずに立候補するあいつが、今回はやけに素直に従ったなと思っていたが。


あいつ、潜樹服が着たくなかっただけだな。


イコリスはナーシャに向かって「ふざけんな」というハンドサインをする。

すると、ナーシャが舌を出しながら「せいぜい頑張って」というハンドサインを返してくる。


あのやろう。


「じゃあ足場作るぞ。」


キンダリーはそう言って、ウルフの後ろに積んでいた金属の四角い箱を両手で持つと、樹海に放り投げる。

箱はそのまま落ちずに樹海面に浮き、次の瞬間、箱の隙間から微かな光が走ったかと思うと、箱が開いて自動的に四方に展開を始めすぐに大きな十字の形になった。

すると、今度は十字になった板からさらに板が横にスライドするように展開し、すぐに一辺が3メトル程の正方形の板になった。

この箱は樹海盤と呼ばれるもので、樹海面で何か作業をするときによく利用する足場である。

大人10人くらいが乗っても沈まず、さらに展開した位置が固定されて強風でもずれることがないため、樹海内の捜索を行う為には必須のアイテムである。


キンダリーとイコリスは展開した樹海盤にウルフを寄せて、樹海盤の上に乗る。

背中のリュックと銃を下ろすと、リュックを開けて、中から照明付きのヘルメットと、フックがついた機械を取り出す。


「それじゃ、フックをかけるぞ。」

「了解っす。」


イコリスは機械につながっている大きなフックを樹海盤の端にあるフック留めの穴に引っ掛ける。

機械からはもう一つ細いロープを通して先端に小さいフックが取り付けられていて、それを腰に回してからベルトの金具に引っ掛ける。

この機械は自動昇降装置で、ロープの引き方でロープの送り出しと巻き取りが操作できる。

イコリスは次に強化ガラスで作られたヘルメットを被ると、右に少し回転させて固定する。


次にこのヘルメットを外すのは捜索が完了して戻ってきた時か。


イコリスはうんざりした気持ちを振り払うように、首を軽く横に振る。


「イコリス。帰ったら冷たい麦酒と果実水を用意しとけってジョーリンには言っておいた。だから今は余計なこと考えるな。目の前の事に集中しろ。」


キンダリーに見られていたらしい。

イコリスはうっすと小さく答えると、銃を手に取って、マガジンと弾の装填、安全ロックがかかっていることを確認して背中に背負う。

キンダリーも同じようにヘルメットを被り、銃を背中に背負うと、イコリスの方を見る。


「準備いいか?」

「はい。」

「よし。さっき確認したように、俺が先に潜って合図を出す。そしたらお前も潜れ。」

「了解っす。」


キンダリーは樹海盤の端に座ると、潜樹服の右腕にある操作盤のボタンを押す。

そして、昇降装置を樹海に沈めてから、自分も静かに樹海の中に沈んでいく。



『イコリス。いいぞ。』


しばらくして、キンダリーからシーバに連絡が入る。

イコリスも同じように樹海盤の端に座り、自分の右腕にある操作盤から赤いボタンを押す。

少し体が軽くなったような感覚になると、昇降装置を沈め、樹海の中にゆっくりと足から沈んでいく。


樹海と言っても海とは違い、何の装備もないままだと人はそのまま落ちて死ぬ。

だから潜樹服には樹海紋様を崩した紋が施されており、海の中に潜った時と同じような感覚で樹海の中で浮くことができる浮遊機能がついている。

ただ、視界は海と違って綺麗に見えるため、樹海に潜るとまるで森の上空に浮かんでいるような感覚になる。

樹海面には日差しが差し込んでいて、森林浴にはもってこいの光景だが、一方で下を見ると、そこには深い闇が広がっていた。

マナと毒霧の影響で見通しが悪い樹海の下は、光を照らしても2メトル先も見えない常闇の世界である。

樹海盤の下にでは、キンダリーが先にフックから伸びたロープの張りを確認していた。

ロープを腰に一回りかけてから、左足に引っ掛けて左手で紐を握って下に降りる姿勢になっている。

イコリスもロープの具合を確認して、降りる姿勢になる。


「よし。これから下がるが、樹海魚の群れには注意しろ。群れの中に入ると、最悪服に穴が空くからな。そういう場合は銃で威嚇しろ。あと、ゼクトルがいる可能性がある。その場合は浮くか沈むかして回避しろ。あいつの身体は硬いから銃は効かない。」

「了解っす。」

「よし。じゃあ浮きを半分にして下がるぞ。」

「了解っす。」


イコリスは左手のロープを左脇に挟むと、右手の操作盤にあるダイヤルを左へ回す。

すると、急に体が重くなり、ロープにイコリスの体重がかかってピンと張る。


『キンダリー、イコリス、準備完了だ。これから船の捜索を開始する。』

『了解。今のところ周辺に影響なし。沈没船はそこから25メトル付近よ。気をつけて。』


シーバから、リリ先輩の応答が返ってくる。


『了解した。』


キンダリーはシーバに応答を返すとイコリスを見て、下に降りるぞというハンドサインを出す。

イコリスは頷くとヘルメットに付いたライトをつけて、左手のロープを2回強く引いた。

すると、昇降装置が起動して、ゆっくりとイコリスの体が下に下がっていく。


動物の気配すらない静かな樹海の中を、イコリスとキンダリーはまるで糸を垂らした蜘蛛のように、静かにそしてゆっくりと下へと降りていく。


2人の姿はやがて闇の中へと消えていき、そして2つのライトの光もやがて重い闇の中に飲まれていった。

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