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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
24/59

フィナーレは殲滅砲で

老兵は出番なしか。


キンダリーはそう思いながら、しばらく円の縁でイコリスとナーシャの戦い振りを観戦していた。

しばらく熊を叩くことを繰り返しているが、さっきからナーシャとイコリスの方にしか熊が現れない。

この動きからも、熊がまだ若いことがわかる。

若い熊は干渉弾の経験がないから、左右に動いて逃げようとするのだ。


熊を討伐する方法というのは、単純に言うと街の遊戯場にあるモグラ叩きと同じである。

熊は干渉弾を打たれると、干渉弾が作り出した紫色の干渉円、通称イケスから外へは、マナと同化した状態では逃げられなくなる。そのため、イケスの外へ逃げようと、熊は樹海から一度飛び出して実体の形となるので、そこをウルフで叩くというわけだ。

熊は実体で攻撃を受けると、また樹海に沈んで別の場所から飛び出ようとするので、そこをまた叩く。

これを繰り返すと、次第に熊が弱りマナ化ができなくなってくるので、そうなったら最後は殲滅弾を撃ち込んでとどめを指す。

こう話すと、やり方は至ってシンプルなんですねと言う人が多いが、熊もおとなしく攻撃を受けるだけではなく、イケスの中で反撃をしてくるので、実際それをやるとなるとかなり難しい話になる。

普通の熊狩団でもイケスの外へ逃げられるケースは多く、一回逃げてしまうと、今度は殺意剥き出しの見えない獣に自分達が襲われることになるので、一時撤退せざるを得ない。

その為、逃げられてもすぐに次のイケスに捉えて攻撃できるように、二部隊編成で動く団が多い。


しかし、赤い靴団ではイケスの外へ逃げられるケースは稀である。

何故か。その理由の一つは、上空のアウロにある。


熊がイケスの外へ逃げないようにするためには、熊が現れるポイントに先回りして現れたところを叩く必要がある。

その動きができるようになる為には熊の動きを絶えず捉えておく必要があり、その解決策として、ウロにはマナに溶け込んでいる熊の動きを探知するレーダーが搭載されている。

また、アウロにはランナのような探索士が乗っていて、レーダーの情報から熊の動きを捕捉しつつ、次の出現場所を予測して、樹海部隊に知らせる。

ここまでは普通の熊狩団と赤い靴団も大差はない。

差があるのは、その出現場所の予測の精度だ。

通常の探索士はイケスの中を16分割に分けて出現ポイントを知らせるが、ランナの場合はそれが100分割に分かれる。

ざっと6倍の精度差だ。

この高精度の予測のおかげで、人数が少数でもほぼ確実に熊に攻撃を与え、イケスの中へと閉じ込めておくことができる。

昔の格言に、良い熊狩団には必ず良い探索士がいる、と言う言葉があるが、キンダリーはその言葉を初めて聞いた時に首がもげるほど深く頷いたものだ。

ちなみに、ここまで精度が上がった理由をランナに聞いたところ、ランナとRBと拉致されたニルクとで、マッドでバッドで粉砕バットな改造を施したと説明されたが、よくわからなかった。


『目標、潜伏。次は、N2E4。かなり弱っているので次でいけると思う。』

『よし。ナーシャ、次でとどめだ。』

『了解。ナーシャ行きます。』


キンダリーがナーシャに指示を出すと、ナーシャは応答をしながらウルフを走らせる。

泡立っているポイントを中心に右回りに回る。

熊が樹海から飛び出し、上半身まで見えたところで、ナーシャのウルフが熊を前方に捉える形で停止する。

ナーシャとイコリスの度重なる攻撃で熊はかなり動きが遅く弱々しくなっている。

ナーシャはウルフのハンドルにあるスイッチを入れる。

ウルフの機体前方が上下に開き、一際大きい砲身が現れる。

また、ウルフの後方からは補助脚が出て、ウルフを固定する。

ナーシャの前方には透明な防護壁が展開し、ウルフの周りの空中には今から砲撃する旨の注意喚起のサインボードが現れる。

このサインボードもカスタマイズ可能で、ナーシャはピンクを基調とした女性らしいデザインになっている。


『ナーシャ機からアウルへ。イーゲイ準備完了。』

『OKー。レーダー誘導マーク。ナーシャちゃん、いつでも!』

『了解、ランナ先輩。イーゲイ発射します!3、2、1、マーク!」


ナーシャのウルフから対熊殲滅砲、通称イーゲイ砲の爆音が聞こえ、ナーシャのウルフは発射の反動で3メトルほど後ろに滑った。

一方、イーゲイ砲から発射された弾頭はアウルのレーダー誘導に従い、熊の胸元に吸い込まれるように着弾した。

爆発の光と音、そして煙と共に熊が最期の雄叫びをあげながら、仰向けに樹海の海面に倒れてゆく。

樹海面に熊の巨体が倒れこむと突風が吹き、キンダリーの髪を乱しながら通り過ぎる。


『目標、沈黙。生体反応なし。周囲に異常なし。』

『了解した。イコリス。熊のコアを狩ってくれ。俺がサポートに入る。』

『了解っす。』


イコリスの応答を聞きながら、キンダリーはウルフを走らせ、熊の体の近くに止める。

イコリスのウルフは浮遊モードに切り替えていて、熊の頭部、人間の眉間の位置にある黒ずんだ赤い石の上に止まっていた。

イコリスがウルフのスイッチを操作すると、座席の左側面の機体部分が長方形の形で外側に飛び出した。

先端には棒のようなものがあり、それを右手で掴んで一気に上へと引き抜く。

イコリスが抜いたのは弔剣や精霊剣と呼ばれる、熊のコアを壊す剣で、刀身には様々な紋様が描かれている。

刀身には太古時代から続く熊を封印し復活させないための紋様が彫られている。

イコリスは抜いた剣を軽く上に放って逆手に持ち帰ると、そのまま赤い石を剣先で軽く突く。

キンという甲高い耳鳴りのような音がすると、熊は赤い石だけを残して全身がみるみる薄くなっていき消えていった。

イコリスは樹海面に浮いた石を拾って、腰のカバンに入れた。


『熊のコア回収したっす。』

『作戦終了だ。みんなご苦労だった。』


キンダリーはシーバで作戦終了を告げて、皆を労う。


『いえーい!みんなお疲れー!』


ランナの一際明るい声がシーバから聞こえる。


キンダリーは声をかけようとナーシャの元に向かうと、ナーシャはウルフを通常形態に戻して満足気にしていた。


「ナーシャ。よくやったな。」

「当然ですよ、隊長。あれくらいの熊、私の敵じゃないです。」


ナーシャの返答にキンダリーは思わず苦笑する。

己を鍛錬し、己の力を信頼しているからこそ出る言葉だ。


「そうだな。結局、俺の出番もなかったしな。」

「次もきっと隊長の出番はありませんよ。私とイコリスで片付けるんで。」

「ははは。それは頼もしいな。」

「任せてください!隊長を早く隠居させるのが私たちの目標ですからね。」

「ん?それはどういう意味だ。」

「あ。やば。」


ナーシャはキンダリーの不穏な空気を敏感に察知して、すぐにウルフを走らせた。


「じゃ、先に戻りまーす!お疲れ様でしたー!」

「おい!ナーシャ!」


ナーシャはRBに向かって一目散に走って行った。


まったく、あいつらは。


キンダリーは遠くなっていくナーシャの背中を見ながらため息をつく。

『ナーシャ。俺を早く引退させたいなら、RBに戻ってすぐにお前の愛機を整備してくれ。あと1時間もすれば回収ポイントに着くぞ。』

『はーい。了解でーす。』


戦闘中とはうって変わって、いつものゆるい感じの返答が返ってきた。

キンダリーはそのギャップに軽い笑みを浮かべつつ、自分も愛機をRBに向かって走らせた。

次回投稿は少し間を頂いて、10月の予定です。

いいねしてくれると励みになります。

宜しくお願いします。

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