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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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狼と熊のワルツ

この時期の風は気持ちがいい。

キンダリーは深緑に塗装された愛機ジフ-07に跨り、樹海の上を高速で進んでいた。

前方には同じ速度で走る、白く塗られたイコリスのウルフと赤く塗られたナーシャのウルフが見える。


10年前くらいまではウルフと言えば迷彩のために機体の色は深緑色にするのが一般的だったが、最近の研究で熊は敵を目で見ているのではなく雷波のような波をとばして存在感知しているという事がわかり、機体の色は全く関係ないことがわかると、派手な色にする者が増えた。

中には機体を全て金色にする者や、機体の色と合わせて戦闘服や工具パーツも改造してお揃いにする者など、ウルフのバリエーションが一気に広がった。

ウルフを製造する各社もこの機を逃すまいと様々な色のバリエーションを用意した機体を出した結果、ウルフは熊狩団関係者だけでなく一般人にも浸透し始め、一時は納艇に2年かかる機体が出るほどの大ブームとなった。

ただ、そんな中でもキンダリーは変わらず、老舗ガンフ社が手がける、昔ながらの深緑の無骨な機体が好みだった。


『反応ポイントまで残り700。現在目標の動向なし。』


シーバからはランナの声が聞こえる。

上空に目をやると、キンダリー達のさらに前方の空に、白と赤で塗装された機体が浮いているのが見える。

ヤミロとランナが乗る、アウルと呼ばれる索熊用両翼機である。

アウルは2人で運用する設計になっていて、操縦席にヤミロ、探索席にランナが乗っている。

アウルは樹海の上空を飛ぶ都合上、ウルフと違って浮遊盤の効果が出ずらく風の影響を受けやすいため、翼をつけてその全体に浮遊紋を施した機体である。

何回かヤミロに乗せてもらったことがあるが、動きも遅いし、何より高い位置を飛行するので走るというより浮かぶという感覚で、あまり好きにはなれなかった。

やはり樹海面を滑りながら進む方が性に合っている。


キンダリーは愛機のハンドルを握りしめ、風を切り裂き進んでいく。


『反応ポイントまで残り500。』


ランナの落ち着いた声が、ポイントまで残りの距離を教えてくれる。

ランナは普段はハイテンションで、破天荒な行動ばかりをしてキンダリーを悩ませるが、アウルに乗るとまるで人が変わったように真面目に探索士の仕事をする。

入団した時から仲のよいナーシャですら、初めて作戦に出た時にアウルに乗ったランナの声がわからなかったくらいだ。

普段からこうあればいいのにといつも思うのだが、ムードメーカーの彼女が静かだと団の雰囲気も沈むので、なかなか厳しくも言えない。


『反応ポイントまで残り200。目標変わらず動向なし。』


ポイントに近づいてきた。キンダリーはシーバを起動する。


『ヤミロ。目標ポイントに着いたら、網を張れ。炙り出すぞ。』

『了解です。』


ヤミロの応答の声ともに、前方のアウルが高度を少し上げる。


『イコリス、ナーシャ。お前らはいつものように左右に展開。俺は中央へ行く。』

『了解。』

『了解っす。』


前方のイコリスが左に、ナーシャが右にそれぞれ曲がり、スピードを上げる。


『アウル、ポイント到達。』

『アウルから干渉弾、投下します。カウント、3、2、1、投下。』


ヤミロの声と共に、アウルの後方部から細長い槍のような弾が垂直に落下し、樹海の海面に文字通り突き刺さって止まった。

すると、槍を中心に紫色の光が溢れだして広がり、すぐに半径500メトル程の紫色の円ができ上がる。

キンダリーはブレーキをかけながら、ウルフの機体を左へと曲げて横滑りさせると、できた円の縁で止まる。

イコリスとナーシャもそれぞれ左側と右側に分かれて、同じように円の縁にウルフを止めた。

キンダリーは首を一度鳴らすと、右手のハンドルにある銃器のロックを親指で解除する。


さて、干渉弾に絡め取られて、そろそろ熊が暴れ出す頃合いだ。


『熊の反応あり!N3E4。』

『ナーシャ、行きます!』


右翼に展開したナーシャのウルフが紫色の円の中に進んでいく。


いい立ち上がりだ。


ウルフは初動の制御が難しい。

特にスピードが必要な場合、初めから思いっきり加速すると前方が跳ね上がり、最悪ひっくり返って大事故になるので、いかに前方が跳ねないように制御しつつ、ギリギリまで加速するかが、いい初動の鍵となる。

ナーシャはまるで馬に乗るように自分の身を前に乗り出して、体重でウルフの跳ねを抑えつつ、限界まで加速を上げていくスタイルをとっている。

一見簡単そうに見えるが、乗っているのは馬ではなくバリバリにドギツイチューニングが施された暴れ狼である。普通の人では加速した瞬間に身体ごと後ろに持っていかれるような機体を、優雅に乗りこなしているナーシャには明らかにセンスがある。

ナーシャの前方にあるポイントの方に目を向けると樹海の海が泡立っているのが見える。

そして次の瞬間、樹海の中から熊が飛び出してきて、その上半身を露わにする。

体格は5メトルほどで、見た目からするにどうも若い熊のようだ。

ジャーニーと呼ばれる熊の特徴である火傷のように変色した箇所は体には見えないし、姿形もまだ熊の原型を留めている。

ナーシャは熊に向かって勢いよく進みながら、ウルフに搭載されている小型速射砲を発射する。

ウルフより早い軌道を描いた大量の魔弾が熊に吸い込まれ爆発する。

熊は苦しそうにもがくと、ナーシャを倒そうと右腕を振り上げて上から叩き潰そうとする。

ナーシャはその動きを予想していたかのようにギリギリで避けながら熊の後方に回り、ウルフをスライディングさせながら半回転させて、ウルフの頭を強引に熊の方に向けると、また魔弾を叩き込む。

2度の攻撃に熊は耐えきれないとばかりに、樹海に沈んで身を隠した。


『目標、潜伏。次のポイントは・・・S2W4』

『ほいじゃあ、イコリス行くっすー。』


気の抜けたような返事をして、イコリスが円の中のポイントに向かう。

一方のナーシャは円の外に出ると、また最初のポイントに戻ってくる。

イコリスはナーシャほど立ち上がりは良くは無いが、スピードに乗った時のウルフの扱いは段違いに上手い。

じゃじゃ馬なウルフを緩急をつけて体全体を使って乗りこなすので、無茶苦茶な機動を描いても体が振り落とされることがない。

イコリスはスピードを上げて、泡立つポイントへ一直線に進むと、熊が現れたと同時に魔弾を打ちこむ。

熊はいきなりの攻撃に呻き声をあげると、左手を振りかざす動作をする。

熊がこの動作をした場合、次に来るのは横なぎに左手を振ってイコリスを仕留めようとする動きになる。

教科書通りの動作。

こういう広い範囲の攻撃に対しては、通常は避ける為に減速しつつ軌道を変えてかわすのがセオリーだが、イコリスは逆に加速して突っ込んでいく。

熊はしめたとばかりに左手を横なぎに払おうとするが、左手がウルフを捉える前に、イコリスはわざとフル加速をしてウルフの前方を持ち上げながら、そのまま熊の頭上を飛んだ。


ジャンプハントか。あいつ、遊んでるな。


ウルフの前方をわざと持ちあげてその瞬間に急加速することで車体毎空中に飛ばすジャンプハントは、車体操作とエンジン操作の両方が噛み合わないとできない難易度が高いテクニックだ。

100人に1人しかできないと言われる技を、イコリスは簡単にやってのける。

しかも、熊の頭上を通過しながら、体で捻りを加えて空中でウルフの頭を熊の方へ向け直すハーフフリップも加えて、後ろから樹海に着地しながら、さらに魔弾を撃ち込んでいく。

熊はイコリスの絶え間ない攻撃になす術なく、またすぐに潜伏した。


『目標、潜伏。次のポイントは・・・N2E5』

『次、ナーシャ行きます。』


ランナの報告に再びナーシャが答え、滑らかにウルフを加速させる。

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