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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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ヤミロの長い樹海講座

この世界は2つの海に支配されている。

水の海と樹の海だ。

2つの海は広さが同じくらいで、世界を創造したといわれる大精霊ルートが最初にこの世界に遣わした双子の海神シアとウドゥが仲良く世界を2つの海に分けたと言われている。

ただ、絶世の美女であるシアに対して嫉妬していたウドゥは海を作る時にその嫉妬の心を混ぜてしまい、そのせいで樹海には熊が出て、毒が充満するようになってしまったと大精霊教典には書いてある。


人々はそんな双子の海のわずかな境目で暮らしている。


樹海についてもう少し説明すると、樹海に生えている木はモーブと呼ばれる針葉樹であり、その高さは中央大陸の丁度真ん中にある大精霊城を標準地点にして、高さが30メトルほどになる。モーブの不思議なところは、谷間や丘など、地形が隆起していたり、陥没していても必ず標準地点の高さから30メトルの位置で成長が止まる点である。そのため、深い谷では100メトル以上も伸びるモーブもあれば、丘のようなところでは2メトルほどの短いモーブが生えている。ただ、いずれも標準地点から測ると、モーブの先端は30メトルのところで止まっている。

この30メトルの位置はモーブの限界成長点とも呼ばれているが、何故モーブがこの高さで止まるのかもわかっていない。

ただ、このモーブの性質から、樹海は凹凸がない平坦な海のように広がっている。

ちなみに、限界成長点より上でモーブを育てようとしても枯れてしまうので、限界成長点以上の丘や山はモーブが生えていない。


このモーブは他にも色々な性質を持っているが、一番特徴的なのは、マナと呼ばれる魔力を大量に発生させている点である。


マナは樹海に充満していて、樹海から外にも漏れ出ているが、それまではどう扱えばいいかわからない代物だった。

マナを人類が活用し始めたのは、ほんの200年くらい前の話である。

このマナを新しいエネルギー源として活用することで、人類は大きく発展した。

その事から、マナはウドゥが人類に与えた宝であるという者もいたが、決して良いことばかりではなかった。

その一つが木毒である。

木毒というのは、樹海底であるモーブの根本や地面付近に自生しているキノコや植物が出す毒のことであり、これらのキノコや植物はマナを大量に吸収して栄養としている。

木毒は猛毒で、人が木毒を吸うと、吐き気や眩暈がし始め、次第に思考が混乱していく。そのうち立てなくなり、1日ほどで死に至る。

そんな毒を吐く植物が樹海には大量にあるため、樹海は猛毒の海とも言われ、人々の侵入を拒んでいる。

ちなみに木毒が効くのは人間だけで、樹海に生息するその他の動物、樹海魚等には一切効果がない。

この研究が発表された当時、樹海が人為的に作成されたものか?と一時期話題になったそうだ。


マナの弊害は他にもある。

一番大きな影響は熊だ。

実は、熊はマナから生み出されたと言われている。


熊についてはその歴史は古く、第2次スタンピード以前の中世時代のさらに前、第1次スタンピード前の太古時代の書物に記されている。

そこにはウドゥの嫉妬心から生まれた悪魔が、森の中で一番強い動物を複製して作り上げたものが熊であると書かれている。

熊の生態は近年わかることが増えてきた。

まず、普段は樹海に潜り、マナと同化している。

同化している間は音もせず、目にも見えず、その存在を感知することはほぼ不可能だ。

熊はまるで海を泳ぐ魚のような速度で樹海を泳ぐが、その時に生まれる微かなマナの揺らぎが、人が熊の存在を知る唯一の手がかりである。

一方で、樹海から熊が出現するときは実体として現れる。

実体になれば、身の毛もよだつような咆哮や、吐き気を催すような姿も目視で確認でき、当然物理的な攻撃も可能となる。

但し、巨体に似つかわしくない俊敏な動きをする熊には、攻撃を当てることも、逆に攻撃を回避することも難しい。

解明されればされるほど、その存在自体が出鱈目であることがわかっていく熊だが、それは体が全てマナで構成されているからと言われている。

というのも、熊が死んだ時は実体のまま樹海に浮いており、胸元のコアと呼ばれる結晶を割ると霧のように消えていく。

これを霧散現象というが、このことから熊というのは、マナが何らかしらの結合を繰り返して生み出された生物であり、人類が発見した最初のマナ生物であると言われている。


そして、人類の歴史というのは、このマナ生物を倒すための歴史だった。

熊達はおよそ1000年に1度、スタンピードと呼ばれる現象を発生させる。

これは普段縄張りの中に入ってくるものだけを襲う熊達が、なぜか人を襲うために一斉に突撃をするというもので、このスタンピードのせいで人類は何度も絶滅しかけている。

この時にそれまで人々が築いてきた文化・技術・芸術といったものは、ほぼ消滅した為、スタンピードについてはわかっている事は少ない。

わずかに残る遺物から、過去に2回このスタンピードは発生していることがわかっているが、その詳細は不明だ。

ただ、次のスタンピードを起こさせまいと多くの学者が長年研究をして、200年ほど前にヒジキア・ノットーンが現在はスタンピードというのは熊の飽和が原因であり、熊が多すぎてしまった結果、熊同士の縄張り争いが激しくなりそれがきっかけでスタンピードが発生するという理論を発表した。

これはヒジキアのスタンピード理論と呼ばれているが、この発表から各国で熊討伐をする事を国策として行うようになり、それが次第に国ではなく民間で行うようになり熊狩団というものが出来た。

それまで熊を倒した数より、熊が生まれた数の方が圧倒的に多かった、徐々にその数は拮抗し、100人旅団が登場して以降は徐々に熊の数は減ってきていると言われている。


ちなみに、人類は最近になって熊を狩り始めたのかというとそんな事はなく、中世時代は樹海馬と呼ばれる馬を操り、剣や弓、あとはどうやらマナを使った術などで戦っていたそうだ。

樹海馬は今もいるが、この馬の蹄にはマナに浮く効果がある特徴的な紋様があり、そのおかげで樹海馬は樹海の上を走ることができた。

ただ、何故この紋様があるとマナに浮くことができるのか。人類は長年研究しているが未だにその理由は解明できていない。

しかし、紋様には一定のルールが存在していることが研究からわかり、それを応用した紋様が現代のこの船やウルフ、アウルの船底に施されている。


「え。樹海の上を浮いているのって原理がわかってて、やってるんじゃないんですね。」


ナーシャが意外そうな顔をする。


「そうなんだよね。その樹海に浮く紋様のことを、樹海浮遊紋って言うんだけど、今もいろんな学者が研究してるし、ある国では解けた人に報奨金を出したりしているんだ。」

「へー。そうなんですね。でも原理がわからないまま使ってるのって、ちょっと怖くないですか?」

「まぁよくわからないけど、こうすれば浮くじゃんって理由だけで使っている技術だからね。そう思うのも不思議じゃない。でもね、実はそういう原理がわからなくて使っているものって、樹海浮遊紋だけじゃなくて、他にいくらでもあるからね。」

「そんなにあるんですか?」

「あるよー。例えば僕らが今使っているこのシーバも、紋様研究から生まれたものだけど、これもなんで短い距離で話ができるか理由はわかっていないし、今ついているこの照明も魔鉱炉からの魔力を変換して雷の力をコントロールしているけど、そもそも魔鉱炉も決まった構造にすれば魔力が出せるというのがわかってるだけだから、その原理はわかっていないんだよね。」

「え。わからないことだらけじゃないですか。」

「そういうこと。まぁスタンピードの影響なんだよね。人類が絶滅寸前まで追いやられるっていうのは、それ即ち、それまで積み上げてきた知識や文化がほぼ崩壊しているという事だからさ。それでも僕らのご先祖様はわずかに残った知識と記憶を手掛かりに、ここまで技術を発展させたんだ。それだけでも奇跡と言っていいくらいなんだよ。」

「そうなんですね。でも、そう考えるとスタンピードってやっぱ怖いですよね。前回起こったのが1000年前ってことは、時期的にいつ来てもおかしくないですよね?」


ナーシャの素朴な疑問にヤミロは苦笑する。


「まぁ、そういう人はいるし、最近じゃ不安を煽るような本も出たりしているけど、僕は来ないと思うかな。」

「やっぱり、ヒジキアのスタンピード理論が正しいからですか?」

「それもあるけどね。僕が来ないと思う理由は、歴史上で今が最も熊が少なくなっているからだね。」

「え、そうなんすか?」


それまで話を聞いていたイコリスが、意外そうな顔で質問する。


「こんだけ世の中に熊狩団が多いから、てっきり熊が増えているものだと思ってたっすけど。」

「だって、イコリス君。この1年で僕達は熊を何匹倒した?」

「えっと、そんな数えてないですけど、30匹はいってますよね。」

「でしょ。それって昔と比べたらすごい多い数字なんだよ。歴史学者の間では、第2次スタンピードの直前の頃、全世界で1年間に倒した熊の数は100匹くらいじゃないかって言われている。」

「1年でたったの100匹ですか。それはかなり少ないっすね。」

「今は1日で100匹くらいはいくんじゃないかな。そんな状況だからさ、スタンピードの原因と言われる、熊同士の縄張り争いが過熱することがそもそもないんだよね。」

「まぁ、確かにそうっすね。」

「だから、スタンピードは起こらないと僕は思うんだよね。」

「なるほど。」

「というわけで、僕の話はこれくらいにしようか。ランナ、そろそろ起きなよ。」


ヤミロの話が始まってすぐにランナは床で大の字になって寝ていた。


「ランナ先輩、隊長に見つかったらまた説教・・・っすよ!」

「ふぉ!」

隣に座っていたイコリスがランナのおでこを指で弾くと、ランナは奇妙な声を出して、おでこを押さえながら起きた。


「あ、終わった?ヤミロ君の話。」


ランナの口の端からは涎が少し垂れている。


「終わったよ。君はほんと僕が説明始めると秒で寝るよね。」

「だって、ヤミロ君の話って難しいんだもん。」

「それでよく探索士ができてるなぁ。」

「好きなものは全然苦じゃないんで。ただ興味のないものにはとことん興味がないだけ。」

「君はほんといい性格しているよね。」


ヤミロが呆れた声を出す。


「ほんと?ありがとうー!」

「ランナ先輩、それ多分褒め言葉じゃないっす。」


イコリスが即座に突っ込み、ナーシャがそれに吹き出す。

リリのシーバからの連絡が入ったのは丁度その時だった。


『みんな聞こえる?これから3キーロ先に熊の反応を確認。体格2、密度1、脅威も同じく1。普段だったら鈴を鳴らして無視してもいいけど、目標地点に近いから万が一を考えて対処をします。ま、軽い準備運動ってやつね。』

『ウルフ隊、了解。すぐに準備をする。』


キンダリーの声が聞こえる。イコリスとナーシャは立ち上がるとそれぞれ自分のウルフの元へ歩きはじめる。


『アウル隊、了解。』


ヤミロが答える目の前で、ランナは伸びをして、立ち上がる


「よっしゃー。いくぞー!」


ランナの気合いの声がドッグに響く。


『それと、これはみんなに注意点ね。この熊は縄張りの外にいる奴らしい。若い熊なのか、ジャーニーなのか分からないけど、行動パターンが普段の熊と違う事があるから気をつけて。』

『イコリス、了解っす。』

『ナーシャ、了解しました。』

『キンダリー、了解した。』

『ヤミロ、了解です。』

『ランナ、了解っー!』

『ダウリン、了解したよ。』

『OK。それじゃあ、いつものようによろしくね、みんな。』


ドッグの中が急に慌ただしくなり、ウルフやアウロのエンジン音がドッグ内に響きはじめた。

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