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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
21/59

アラブラーとビーストクイーン

東の空から朝日が昇り、RBの赤い機体を照らす。

深緑の樹海の上を赤い長靴が滑るように進んでいく。


昨日、無人島を出発したRBは155航路の途中で給石して、予定通り188航路の交差点で停泊した。

そして現在は公式航路から外れ、船の捜索ポイントに向かって北上している。

RBのブリッジではリリが艦長席で操縦桿を握り、レーダーと睨めっこしながら、航の進路を細かく調整している。

公式航路外の場所は、熊が出現する兆候を見つけるため、常にレーダーで索敵しながら慎重に船を進めなくてはならない。

リリは細かく操縦桿を操作し、時折マップを見ながら現在地を確認し、レーダーの表示と計器のメモリを見ながらマップに何か書き込みをし、また操縦桿を握るといった様に忙しくしている。

RBが起きている間は計器の数値や現在地といった情報はRBから報告が都度あるので、

操縦桿を握っているだけで良いが、RBが寝ている間はリリ1人で全て行うため、とにかく忙しい。


一方、RBの後方にあるドッグでは、ウルフ隊とアウル隊の面々が暇そうにしていた。

船の中でも一番広い区画であるドッグは、船の後方ハッチからウルフとアウルが出撃できる様になっている。

ドッグにはウルフが3台とアウルが1台、後はダウリンが使うツバメが1台、それぞれ発射装置の上に置かれている。

普段は工具やらパーツやらがそれぞれの機体の周りに置かれているが、今は出撃に備えて全て片付けられている。

ドッグの出入口の横には壁に直接つけられたベンチがあり、簡単な待機所のようなエリアになっている。

いつ出撃になるかわからない状況の時は、皆そこで暇を潰していることが多い。

今もヤミロとナーシャがベンチに座っていて、向かい合うような形でイコリスとランナが床に直接座り、何気ない話をしている。


「昨日のクロッケ美味かったよねー。」


ランナは、昨日の夕食で出たクロッケを思い出したようである。


「美味しかった。クロッケってシンプルなんだけど、店によって微妙に味が違うからいいよね。」


ヤミロがランナに同意する。


「そう!芋の品種とか、中に入れる具材とか、何の油で揚げるとか、選択肢が色々あるから、その店の味みたいなものがでるんだよね。」

「私はクロッケもいいけど、ミンチフライの方が好きかなぁ。」


ナーシャが答える。


「俺もミンチフライ。あと黒ソーね。黒ソーを大量にかけて食べたい。」


イコリスの発言にナーシャが顔をしかめる。


「えぇ?マジで?それ、もう黒ソーの味しかしないじゃん。」

「いやいや。そんな事ないって。黒ソーの後から、ミンチフライのあの肉汁の味がぶわっと広がるんよ。まじで旨いから。」

「全然わかんない。私は何もつけずに食べるから。」

「えぇ。それだと口パサパサして、食べづらくね?」

「そう?ミンチフライの肉の油が出て結構しっとりするよ。今度黒ソーかけずにそのまま食べてみなよ。美味しいから。」

「えー。でもなぁ、子供の頃から黒ソーかけている民としては、黒ソーがないミンチフライはミンチフライじゃないんだよな。」

「イコリス君、もともと味が濃いの好きだもんね。」


ヤミロが2人の話に入る。


「そうなんすよ。まじでなんでも濃くしがちなんすよね。だから俺、ヤミロ先輩ならわかると思うんですけど、アラブラの3爪会員なんすよ。」

「え!?そうなの!?」

「なぁーに?アラブラって?」

ランナが不思議そうに質問する。

ナーシャもわからないという顔でランナの質問に頷く。


「えっとね。今、中央大陸に展開している味が濃い麺料理を出すお店。熱狂的なファンが多くて、会員証を持っている人の事をアラブラーって言うんだよね。」

「へー。」

「で、その会員にはね、グレードがあるんだよ。最初は爪なしって呼ばれる普通の会員なんだけど、100杯毎に1爪、2爪って増えていって、最後は5爪まであって。5爪より上になると、ノミネーターになって、アラブラ本店に名前が載るんだよね、イコリス君。」

「そうっす。ノミネーターになったら金の永久会員証がもらえて、いつでも3割引になるっす。」

「へぇー。すごーい。ってことはイコリスって、300杯は食べてるってこと?」


ランナが感心しながら、イコリスに質問する。


「そうっすよ。アラブラマップっていうアラブラのお店がどの街にあるか書いてある地図があるんですけど、それ見て、立ち寄った街にアラブラがあれば行ってます。」


イコリスがランナの質問に得意げに答える。


「あ!イコリスが街に停泊するたびにコソコソと外に出てったのはそれだったんだ!」


ナーシャが謎が解けた探偵のように、勢いよくイコリスに指を差す。


「え?そうだけど。どこ行ってると思ったの?」

「え。それは・・・その。」

「何?」

「そういうところ。」

「は?」

「だから!女の子がいっぱいいるところに行ってるんだなーって思ってたの!」

「は。お前、俺の給料でそんなとこ行けるわけないだろ。ばーか。」

「はぁ?馬鹿って言った方が馬鹿なんですー。」

「はぁ。空気が美味しい。」


イコリスとナーシャの口喧嘩にランナが気持ち悪い笑顔を作りながら頷いている。

それをナーシャとイコリスは細めで見る。


「あ。続けてていいから。お構いなく。」

「だる。」

「ほんと。ランナ先輩、だるいですって。」


イコリスとナーシャはランナの態度に萎えたのか、口喧嘩をやめた。


「でも、ランナ先輩が「アラブラ」知らなかったのは意外でしたけどね。」

「えー。なんで?」


ランナが2人の口喧嘩が終わったしまった事に少し残念そうにしながらも、イコリスの話に入る。


「濃い味好きそうだから。」

「ほぉ。イコリス君にはそう見えてるんだ私。まー、確かに濃い味は好きだけどさ。私はどっちかっていうと辛い方が好みなんだよねー。」

「あー。そっちの方すか。」

「イコリス君、サジニターニーって知ってる?」

「知ってますよ。激辛カルーの店ですよね。」

「あそこのカルーはね、私5辛で食べてる。」

「ええ!?まじっすか!?」


イコリスが心底驚いたような顔でランナを見る。


「え?5辛ってどれくらい辛いんですか?」


ナーシャが2人の会話に入っていけず、不思議そうな顔で質問する。


「ナーシャちゃん。5辛はね。人の食べるものじゃないよ。」


ヤミロが首を振りながら、ナーシャの質問に答える。


「激辛好きでも3辛で降参するって言われてるんだ。5辛はね。あれは毒に近い。いや、ほぼ毒だね。」

「ヤミロ先輩食べたことあるんですか?」

「かなり昔にね。ランナに美味しい店があるって連れて行かれてさ。その時は団長もいて3人で食べたんだけど。一口でもうだめだった。口の中に火炎瓶投げられたような感じになって、団長と2人で悶えてたよ。」

「そうそう。団長もヤミロ君もちょーヘタレでさ。死ぬ!死ぬ!とか言いながらさ、水飲みに店に来たのかよってくらい、水を何杯も飲んでてさ。結局私が2人の分も食べなくちゃいけなくて大変だったんだから。」

「いや、ランナ先輩、5辛はやばいっすから。」


ランナの言葉にイコリスが思わず突っ込む。


「えーそうかなー?ちょうどいい辛さだと思うんだけど。」

「まじで言ってます?ランナ先輩って人間ですか?」


イコリスがランナを引いた目で見る。


「イコリス君、前話してたよね。なんだっけ?サジニターニーの船が襲われた話。」


ヤミロがイコリスに話を振る。


「辛すぎて熊が死んだってやつですか?」

「そうそう。それ。」

「何それー?」


ランナが頭を右に傾げながら質問する。


「何年か前に、商船が熊に襲われて樹海に沈没したんすよ。で、その船の荷物にサジニターニーの香辛料が大量に積まれてたらしくって。それで、他の船が様子を見に襲われた現場に行ったら、襲った熊が死んだ状態で樹海に横たわってて、その一帯が目が痛くなるほど香辛料の粉が充満していたらしいんすよね。それで、サジニターニーの香辛料があまりに辛すぎて熊が死んだんじゃないかって言われてるんすよ。」

「なんか嘘くさくない?その話、本当なの?」

ナーシャが訝しげな顔をする。


「熊が死んでたところまでは本当らしいけど、熊が何故死んでたかはわからない。でもその話が広がったことで一時期、熊殺しカレーだって言って熊狩団の間で人気になってた。」

「へー。」

「え?じゃあ私、もしかしたら熊より強いってこと?」


ランナが自分のことを指差す。


「まー、ある意味そうかもしんないっす。」

「やったー。それじゃ、今日から熊より強い女「ビーストクイーン」って呼んでいいよ。」


ランナは両腕をあげて、筋肉をアピールするようなポーズを取る。


「何それ。君ってほんと単純だよね。」

ヤミロが苦笑する。


「ヤミロ君。私は強いんだ。口の聞き方には気をつけたまえ。」

「はいはい。ランナさんは強いですね。」

「ヤミロ君、私のこと馬鹿にしてるでしょ。」

「え。そこに気がつくなんて、ランナ君、天才ですか?」

「カッチーン。今完全に頭きた。ヤミロ、表に出ろ。」

「はぁ。表ってどこなの。それに、そもそも今外出たら怒られるよ。」

「くそ!私のことを嵌めやがったな。」

「なんかよくわからないんだけど、自ら嵌まってるよね。」

今度はランナとヤミロが言い合いを始めたが、イコリスはそれに目を向けるでもなく、頭を垂れて、自分の前方の床をじっと見つめていた。


「イコリス?どしたの?」

ナーシャが声をかけると、イコリスは我に返ったように首を上げる。


「あぁ。いや、さっきの熊の話さ。あの話を聞いた時になんか引っかかってさ。後でヤミロ先輩に聞こうと思ってたんだけど、それが何だったか思い出してた。」

「で、思い出したの?」

「いや、思い出せない。」

「諦めるのはや。」

「こういうのは思い出そうとしない方が思い出すんだよ。」

「そんなもん?」

「そんなもんよ。だって、今思い出したし。」

「は?何それ。」

ナーシャが呆れた顔をする。


「ヤミロ先輩。この話聞いた時思ったんすけど。」

イコリスは座り直して胡座をかき、ランナと口喧嘩しているヤミロに声をかける。


「何?」

「船は壊れたら樹海の底に沈むじゃないすか。でも、熊って死んでも沈まないで樹海の表面を浮いてるじゃないすか。あれってどうしてなんすかね。」

「それって、あれでしょ。熊がマナの集合体だからでしょ?」

ナーシャが当然と言った顔で答える。


「でも、そうなるとおかしくない?熊には剣や銃弾の物理攻撃が当たるし、当然あいつらも俺らに手や顎で襲ってくる。マナの集合体なら、物理攻撃って効かないと思うんだよな。」

「言われてみれば確かに。いつものことだからあんま考えたことなかったけど。」

ナーシャもイコリスの疑問に賛同しつつ、顔をしかめる。

一方で、ヤミロは笑顔で深く何度も頷いていた。


「いやーいいところに気がついたね、イコリス君。熊がなんでマナの海を出る時に物理的に存在しているのか?何故死んだ時はマナに溶けず、物理的な体のまま死ぬのか?これらの現象については、実は今もわかっていないんだ。」

「そうなんすか。」

「うん。実は熊もそうだけど、樹海やマナに関することはわかっていないことの方が圧倒的に多いんだよね。太古の古文書を調べると昔の人はマナを使いこなしていた事がわかってるんだけど、そのやり方は2度のスタンピードで全くわからなくなってしまったんだ。」

「へぇ。そうなんですね。私、樹海学は専攻してなかったから、樹海とか熊に関しては初等部で教わる基礎しか知らないんですよね。」

ナーシャは興味津々と言った顔をしている。


「大抵の人は樹海にそれほど深くは関わらないからね。そうしたらまだ時間ありそうだから、ちょっと樹海に関して解説しようか。」


そう言うと、ヤミロは樹海と熊に関する講義を始めた。

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