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ハチミツ狩りのクマキラー  作者: 花庭ソウ
第1章 赤い靴団
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嵐の中の不可解な事件

「北のフィスオール地方で街を転々としながら依頼をこなしていた時があってさ。その日は朝から嵐が来ていて、流石に樹海の上で停泊してやり過ごすのも危ないから街の港か、村の脇に船を止めようって事になって、近くの村に立ち寄ったんだけどさ。そこが、ちょうど海賊達にやられた後だったんだよね。」


雨風が吹き荒ぶ中、村は破壊され、燃やされ、まさに地獄のようだった。

焼けこげた家々。その前でうつ伏せになって泣き叫ぶ、泥だらけの村人達。

村のあちこちに無惨な死体が転がっている。

木と肉が焦げた匂い、血の匂い、そして雨と泥の匂いが混ざり、むせるほどだった。

すぐに状況を確認する為に船を降りると、イコリス達に気付いた村人達が駆け寄り、泥の地面に額をつけて懇願した。

子供達が攫われた。船は東の方に向かった。助け出してほしい。と。

村人達の気持ちは痛いほどわかったが、助けるには状況が絶望的だった。

こんな視界が悪い中で、船を追いかけるのは無謀としか言えない。

強風で船の速度を上げられない以上、数時間前に出て行った海賊の船に追いつくこともほぼ不可能だ。

残念だが子供達は諦めるしかない。

そうイコリスは思っていた。

すると、団長が村人の前に立ち、泥の地面に片膝をついて土下座している村人の手を取ると、出来る限りのことはやりましょう。と言った。

その時は、気休めの言葉をかけても余計に落胆させるだけなのに、とイコリスは思っていた。


その後団長が何をしていたか、イコリスは知らない。

イコリスは村に残り、野営用のテントを張って簡易的な避難場所を作ると、ランナやレネと手分けして村人をテントに集めたり、応急処置をするヤミロのサポートや、ジョーリンの炊き出しの手伝いなどをしていたからだ。

ただ2時間くらい経った頃だろうか。

雨風がようやく落ち着いた頃、リリから子供達が見つかったから迎えに行くという連絡が入って、イコリス達を残してRBが村を出て行った。

それからまたしばらくして、RBが村に戻ってくると、RBには攫われた子供達が乗っていて、誰一人として欠ける事なく、全員が無事に帰還した。


ナーシャは話している間にデザートを食べ切ったらしい。

空の器を脇において、膝に顎を乗せながら、イコリスの話を聞いていた。

「え?おしまい?」

「おう。」

「えー。なんか全然団長が強いっていう話じゃないじゃん。」

「そうか?」

「そうよ。だって、子供達が無事に戻ってきたのだって、海賊船が途中で故障して止まってたとか、そういう事かもしれないし。なんなら団長と隊長の二人で行って、隊長が海賊団をやっつけたっていう可能性もあるし。」

「まぁ、普通そう考えるよな。」

「違うってこと?」

「いや、俺もさ、最初は隊長も一緒に行ったんだろうなくらいに思ってたんだよ。だけど、途中でヤミロ先輩に頼まれて、倉庫に医療品を取り行ったんだけどさ。その時、廊下の先で隊長を見かけたんだよね。」

「見間違いじゃなくて?」

「隊長を見間違うことある?あんなにがたいがいい人、そうそういないって。」

「まぁ、それは確かにそうだけど。」

「んで、あれ?って思ってさ。RBが出発したのもその30分後くらいだったし。」

「つまり、子ども達の救出は団長1人で行ったってこと?」

「まぁ、状況を考えるとね。それ以外のメンバーが村にいたのは見てるからさ。」

「でも、仮にそうだとしても。一人でってのはいくらなんでも・・・。」

「ありえないよなー。でも、子供が無事に救出されたのは事実だから、助けたのは間違いないんだよな。」


他にも不思議な点があると、イコリスはナーシャに説明した。


攫われた子供の数が20人ほどだったということ。

その子供達全員が、海賊に攫われたことを覚えていないこと。

そしてこの事件以降、その海賊団の消息が不明なこと。


イコリスが話していくに従って、ナーシャの眉間の皺が深くなっていく。


「ちょっと、待って待って。」


イコリスが他にも不思議な点の話をしようとするのをナーシャが止めた。


「え。全然意味分かんないだけど。20人って言った?さっき。」

「言ったよ。」

「その人数を攫うなら、中型船以上じゃないと船に収容できないよね。」

「うん。」

「それでもって、中型船なら最低10人以上は船員がいないと運用ができないよね。」

「そうだな。RBみたいな船なら話は違うと思うけど、そんな船は他にないしな。」

「一人でその人数を相手にするって、どう考えても無理じゃない?」

「無理だと思う。」


ナーシャの最もな疑問にイコリスは肯定する。


「あと何なの?攫われた子がみんな覚えていないって。」

「さぁ。詳しいところまでは分からないけど、精神的なものじゃないかとか言ってたな。確か。」


ナーシャの眉間の皺がさらに深くなる。


わかる、わかるぞ。俺もしばらく悩んだ。そして諦めた。


「なんかさ、たまたま幸運が重なったくらいしか考えられないんだけど。」


しばらく海と睨めっこして考えていたナーシャが出した結論は、幸運説だった。


「どういうこと?」

「ダウリン団長が無謀にも船を追いかけていきました。その時、海賊船は熊に襲われていて、船員がみんな樹海に落ちました。子供達はよくわからないけど、熊との戦闘で全員気を失って攫われた事をすっかり忘れてました。とか。」

「その場合さ、海賊船を襲った熊はどこ行ったの?」

「それは、その。んー。なんか海賊船と戦ったら気がすんで、どっか行っちゃったとか。」


ナーシャが苦しげに理由を話す。

熊は一度襲いかかってきたら、基本的に船を壊して沈めるまで気が済まない習性を持っている。

船を襲わずに去る熊がいたら、ノミネーターか、100年以来の新種か。

どちらにせよ世間が大騒ぎする事は間違いない。

つまり、それくらい可能性がないという話である。


「だめ。全然意味不明。」


ナーシャがとうとう降参した。


「だよなー。俺も1ヶ月くらい考えてたけど、わかんなかったわー。わかったのは、団長が得体の知れない何かって事くらいだな。」


イコリスは伸びをしながら、そのまま砂浜に倒れた。イコリスの視界には青白く光る月と瞬く星が見える。

砂がまだ昼の暖かさを残しているのか、背中がほんのりと暖かい。

腹も満ちているせいか、眠気が不意に訪れ、自然とあくびが出る。


「あのさ。他の人はどういう反応だったの?ランナ先輩とかレネ先輩とか。」


ナーシャはまだこの団長の謎に未練があるようだ。


「普通だったよ。子供達が帰ってきてよかったねーみたいな反応でさ。特に何の疑問も持っていないみたいな感じだった。だから余計に聞けなくなったんだよな。」

「えー。何それ。」

「ま、でもさ。多分、団長が何者か知らないのって、俺とお前の2人だけだと思うんだよね。」

「先輩達は知ってるってこと?」

「多分ね。だって、赤い靴の中で一番在籍期間が短いのがお前で、次は俺だし。」

「でも、そうなんだったら酷くない?これだけ長い間一緒にいるのに、隠し事してるなんて。」

「そうか?他の団でもトップの情報は団員に全部話したりしないだろ。それにさ、」


「レェェェディィィィィィィスエェェェンジェントルメェェン!」


ランナのでかい声が波の音を打ち消して砂浜に響く。

イコリスとナーシャは驚いて、声の方向に頭を向ける。

そこには砂浜に突き刺さったでっかい筒が数本と、その側で、大袈裟に体を反りながら両手を広げているランナの姿があった。


「今夜!皆様にお見せしますのは!夜空に煌めく、色とりどりの打ち上げ花火でございます!どうぞ最後まで、ごゆっくりご覧くださいませ!あ、おひねり大歓迎ですー!」


ランナはそういって両手を組んでヘコヘコとお辞儀をする。


「ランナ先輩、花火なんてどこで手に入れたんだ?」


イコリスは砂浜から起き上がりながら、疑問を口にする。

花火は一般人だと買えなくて、免許がないといけなかったはずだ。

ただ、ランナの行動は時に常人の理解を超える。

どっからか入手していても不思議ではない。


「えー!面白そう!」


隣のナーシャは呑気に目を輝かせている。


「ほいじゃぁ、行っくよー!」


そういうと、ランナは1本目の筒の側にしゃがむと、筒のトリガーを引く。


爆発音がして、煙と共に打ち上がった花火が星の夜空を上る。

間を置いて色とりどりの光の粒が夜空を彩り、爆ぜる音が遅れて届く。


「きれー!」


ナーシャが空を見上げ歓声を上げる。

どういう理屈かわからないが、どうもあの花火はロケットランチャーで打てるように改良した花火のようだ。


「もういっちょぉ!」


ランナが2本目の筒のトリガーを引く。

またロケットランチャーから花火が飛び出し、夜空に光の花が咲いた。

3本目、4本目とランナがトリガーを引くごとに、花火が夜空に打ち上がる。


イコリスは、時折花火の光で明るく照らされるナーシャの笑顔を横目で見ながら、こういう時は可愛い顔してるんだよなと、うっすらと思った。


「よっしゃぁぁ。ラストぉぉぉ。」


用意していた花火も最後になったのか、ランナが気合い十分に高くジャンプして、着地したと同時に最後の筒のトリガーを引いた。

とその時、着地の衝撃のせいなのか筒が丘の方に向かって倒れた。


「あ。」


花火がイコリス達の方に向かって勢いよく飛んできた。


「きゃぁぁぁぁ!」

「おぉぉぉ!」


ナーシャとイコリスは地面に伏せ、花火をギリギリ回避する。

花火はそのままジョーリンがいるテーブルの方へと向かって飛んで行く。


「ジョーリン!」


キンダリーの叫ぶ声に、椅子に座っていたジョーリンが気がつき、うなだれた顔をあげる。


「え?なに?」


テーブルが盛大に爆発した。


その後、ジョーリンは無事に救出されたが、髪の毛と髭の一部が焦げていた。

リリは爆笑し、ヤミロはジョーリンの身体の具合を見て、レネが励ましていた。


ランナは誤射後、すぐにその場から逃走した。

逃走する際に、砂浜の足跡をわざと別の方角につけて、紛らわせようとしたのは見事としか言えない。

しかし、イコリスとナーシャの捜索班は、足跡を当てにせずシーバの信号の発信源を追いかけ、すぐにランナを捕まえた。

犯人の行動を理解しているが故のナイスプレーである。

その後、両手に縄をかけられたランナは、キンダリーに突き出され、死ぬほど怒られた。

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