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紫乃の言葉世界 男女
《 名を呼んで 》
粉雪舞う 凍る夜。
暖取りの火鉢の炭の 仄かな明かり。
旦那様の指が 襦袢の紐をほどく褥の上。
紐ほどきながら 口づけは深い。
襦袢がするりと脱げ落ち 晒される肌。
その肌全てに 口づけされて。
惚れて浮わつく情の言葉は 一つも無い。
唯 切な気に 愛おし気に 私の名を呼ぶ。
何度も 何度も。
だから私も 唯ひたすら 旦那様の名を呼ぶ。
火鉢の明かりと 雪明かり。
互いに 名を呼ぶ声が、
撫で合って 絡まり合って 交ざり合う。
交ざり合って 絡まり合って 撫で合って、
何度も 名を呼び合う声が、
撫でて 絡まり 交ざって、
二人の内側で凝縮して凝縮して凝縮して…
散り放たれる。
体の奥 隅々まで行き渡る、
私の名と旦那様の名。
とうに消えた火鉢の火。
微かな雪明かりが照らす奥座敷。
褥の上で 旦那様の腕の中。
名が溶け合い 眠り蕩ける熱い夜。